本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月11日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、すべてISW制作のもの(インタラクティヴ・マップの画像も含む)である。また、地図の一部は加工してある。
日本語訳:
現在も続くアウジーウカ周辺でのロシア軍局地攻勢作戦は、同軍がウクライナの戦場で得た戦術的な教訓を取り入れ、その教訓に適応できることを示している可能性が高い。ロシア軍は10月10日未明、集中的な攻撃準備射撃を実施したのちに、アウジーウカへ向かう局地的攻撃を開始した。10月10日と11日の動画で、撮影地点の特定が可能なものによって、ロシア軍がアウジーウカ南西のシェヴェルネ付近、アウジーウカ北西のステポヴェ付近及びクラスノホリウカ付近で進撃したことが確認できる。ウクライナ軍参謀本部本部の報告によると、戦車と装甲車両を伴った最大3個のロシア軍大隊がアウジーウカ付近での激しい攻勢作戦を支えているとのことだ。これらの大隊は、ロシア南部軍管区第8諸兵科連合軍に属する3個自動車化狙撃旅団の一部であることを、ウクライナ軍参謀本部報道官アンドリー・コヴァリョウが明らかにした。
ロシア側情報筋はこの地区でのロシア軍の進撃を称賛し、ロシア軍の適応事例の概要をいくつか示した。その適応事例は、ロシア軍がウクライナ南部での作戦から得た教訓を、戦線上のほかの地区で適応できていることを示唆している。この地区で戦っているとされるロシア軍砲兵指揮官の一人は、ロシア軍が対砲兵戦闘に相当な注意を払っていると主張した。同じくこの地区で戦っていると言われる別の情報源の報告によると、ロシア軍は電子戦(EW)システムを用いており、戦場での適切な攻撃準備射撃を実施しているとのことだ。また、この情報源は、ロシア軍が指揮所、攻撃部隊、航空偵察部隊、砲兵部隊の間での「すみやかな相互連絡・協調」を行えているとも主張した。この軍事ブロガーは、ロシア軍が人海戦術スタイルの「肉弾」攻撃を行っていないことに触れている。また、複数のロシア側情報筋は、ウクライナ軍陣地に向かう道路上で、突破を先導するロシア軍装甲車両と、それに後続する歩兵隊列を撮影した動画を拡散した。
ロシア側情報筋が以前、ウクライナ南部でのウクライナ軍反攻作戦、特に6〜7月のそれに対するロシア軍防御力の強みとして、ロシア軍の戦術的適応を強調して示したことを考えると、ロシア軍が今回、EW、対砲兵戦、航空偵察、部隊内外の通信連絡をうまく運用している模様であるのは、注目すべきことだ。さらに加えれば、現在アウジーウカ地区で戦闘中のロシア軍主力は、ドネツク人民共和国(DNR)軍第1軍団所属の部隊である可能性が高い。なお、第1軍団は大体の場合、ロシア第8諸兵科連合軍の指揮下に入っている。現在の攻撃に参加している部隊に、DNR部隊以外の第8諸兵科連合軍所属部隊がいることをISWは確認しておらず、アウジーウカ地区での現在のロシア軍攻勢行動が、DNR部隊を中心にしてなされている可能性が高いと、ISWは評価分析している。DNR部隊はこれまでずっと、残虐的な傾向にある指揮風土、低い規律、最低限の訓練といったものに起因する、あまねく広がる問題に苦しんできた。これらの要因すべてが、DNRのかなり非正規的な部隊編制をロシア正規軍に統合することで生じた、よりいっそう大きな問題によって、悪化していた。これは以前、ISWが報告したことだ。この地区の部隊が効果的に連絡を取り合っていることを示すロシア軍事ブロガーの報告は、DNR部隊がロシア正規軍との統合に関わる問題をある程度解決していることを示している可能性があり、また、かつて失敗に終わった、効果的ではなかったアウジーウカ地区での攻撃で得た教訓を、DNR部隊が学んでいることを示している可能性がある。
日本語訳:
だが、上述の戦術レベルの適応とそれに基づく成功が、さらに大きなロシア軍の作戦的・戦略的戦果に変わっていく可能性は低い。撮影地点の特定が可能な動画を見ることで、アウジーウカ周辺でロシア軍があげた戦果が、アウジーウカ南西に集中していることが分かる。また、ロシア軍がこの居住地域の作戦的包囲を完了していないこと、それが目的である場合、作戦的包囲を行うのにロシア軍が苦戦する可能性が高いことも分かる。アウジーウカはまた、よく知られているように、入念な防御措置がなされ、よく守られているウクライナ側防御拠点であり、そのことが、ロシア軍によるここへの接近、もしくはここの完全包囲を困難にする可能性は高い。ロシア軍はすでに、最重要道路であるN20ドネツィク市〜コスティアンティニウカ〜クラマトルシク〜スロヴヤンシク高速道路の一部と、アウジーウカ付近を通るそのほかの道路を制圧下に置いており、仮にアウジーウカを占領しても、ドネツィク州のウクライナ軍支配地域への新ルートが開けることにはならないだろう。以前にISWが評価分析したように、ロシア軍のアウジーウカ攻撃の意図は、ウクライナ軍戦力の拘束と、ここの戦力が戦線上のほかの地区に再配置されることの阻止にある可能性が高い。なお、ウクライナ当局者はこれまでもアウジーウカ攻撃をロシア軍による牽制作戦とみなしており、ウクライナ軍がこの方面に兵力を過剰に投入する可能性は低い。