本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年3月12日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ウクライナ・ロシア両軍のドローン・電子戦能力向上競争
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は、ロシア・ウクライナ両軍が電子戦(EW)能力の面でお互いに異なった有利さと不利さを抱えていることを報じた。
3月12日のNYT紙報道によると、ロシア軍はかなり多くのEW装備を有してはいるものの、ロシア軍EW能力は前線上で不均一に広がっており、車載型EW装置の不足の結果、ロシア軍装甲車両はウクライナ軍のドローン攻撃に対して脆弱であるとのことだ。ロシアの国防産業基盤(DIB)はドローン生産に関して、「厳しい軍の監査」が伴う「トップダウン」式のアプローチを採用しており、このアプローチによって、ロシア製ドローンは「予測しやすいもの」なっており、種類の豊富さを欠くことになっていると、NYT紙は伝えた。一方で、バリエーションに欠くことは、ロシア軍部隊がドローンの飛行経路とジャミング装置を連携させることをいっそう容易にしており、その結果、ロシア軍は自軍ドローンをジャミングしてしまうことなしに、ウクライナ側ドローンのジャミングができている。ISWは以前、ロシア軍EWシステムの有効性は戦線全体でまだらな状態になっていることを伝えた。例えば、ロシア軍事ブロガーはヘルソン州東岸(左岸)のロシア軍にEWシステムが欠いていることへの不満を、定期的に述べている。ドネツィク州ノヴォミハイリウカ周辺でのロシア軍機械化部隊攻撃が不成功に終わったのちも、ロシア軍統帥部がドローンとEWをロシア軍部隊に適切に装備させられずにいることも、ロシア軍事ブロガーは最近、批判している。
それに対して、ウクライナのDIBは、国防産業に関わらない企業がウクライナ軍へのドローン供給やそれへの資金提供を行うことを許可しており、それによって、ウクライナ軍ドローン部隊はさまざまなテクノロジー・調達手順・戦場における戦闘任務をテストできている。NYT紙はドローン小隊を指揮するウクライナ軍の軍曹の発言を伝えており、それによると、ウクライナ軍とロシア軍は「絶え間ない兵器競争」に巻き込まれ、その競争のなかで、片方がドローン技術を向上させると、もう片方はこの能力向上に対抗する新たな方法を模索せざるを得なくなっているとのことだ。また、2023年10月の時点で、ウクライナ軍向けに各種ドローンを生産する企業が、ウクライナ国内で200社を超える(その大半は民間資本である)ことを、ISWはすでに報じている。モスクワ市議のアンドレイ・メドヴェージェフは最近、ロシアはドローン大量生産の道を選んでおり、その結果、ウクライナ軍ドローンと競合していくのに必要な技術的適応に欠くドローンを、大規模に生産することになっていると指摘した。メドヴェージェフは、ウクライナ軍が継続的にドローン能力を向上させていることにも触れている。最近、ロシア軍のドローン・ミサイル爆撃パッケージが、ロシア・ウクライナ双方が関わる、空中領域における絶え間ない攻防イノベーション・適応競争という性質を帯びている様子をISWは確認している。ウクライナ・ロシア両軍の能力は今後も場所や時の推移によってまちまちであると思われ、どちらかが戦線全域で決定的な優勢を確保できる、または、戦線上の一部で永続的に決定的な優勢を確保できることになる可能性は低いだろう。このような変化の移り変わりをうまく利用する好機が生じる可能性は高い。