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【Twitterスレッド和訳】ウクライナ現地報告(Franz-Stefan Gady 氏)

※以下の記事は、フランツ=ステファン・ガディ氏の上述のTwitter投稿(日本時間18:58, 2023.07.18)を日本語に訳したものになります。

コンラッド・ムジカ(@konrad_muzyka)、ロブ・リー(@RALee85)、マイケル・コフマン(@KofmanMichael)そして私は今月、ウクライナの前線を訪問する時間をもった。その目的は、現在進行中の反攻と戦争全般に関する新たな知見を得ることにあった。ここに全般的な見解を幾つか示していく。

(注記: さらに詳細な分析は今後数週のうちに私たち全員が発表する予定だ)

まず最初に、私たちが話した相手は、(地域防衛軍と正規軍の)前線の下士官、将校、旅団長数名である。それに加えて、(ドミトリー・アルペロヴィッチ[@DAlperovitch]が同伴して)キーウにいる情報関係と軍関係の上級当局者とも話した。

反転攻勢について

  1. 全般的にみて、戦線の大部分でこの戦いは砲兵に支援された(分隊、小隊、中隊の)歩兵の戦いになっている。このことから分かることが幾つかある。一つ目。機動力の減退によって、進撃ペースはヤードやメートルで測られる。キロメートルやマイルではない。二つ目。機械化部隊は滅多に投入されていない。その理由はその移動をサポートするものに欠いているからだ。その欠いているものには、不十分な数の地雷除去装備、対空兵器、対戦車ミサイル等々が含まれる。

  2. 依然としてウクライナ軍は、大規模な諸兵科連合作戦遂行を習得していない。作戦は全体が同期して遂行するというよりも、逐次的に遂行するという形だ。この結果、攻勢に関わる様々な問題が生じており、私見だが、このことが進撃の遅さの主要因だ。

  3. ほかに選択の余地のないウクライナ軍は、消耗戦戦略に移行しつつあり、機動力よりも連続的な火力に依存している。これがクラスター弾が死活的に重要な理由であって、その目的は現在の火力投射ペースを秋まで延ばしていくことにある。そうなれば、ロシア軍の防御力をある程度弱められ、その結果、機動が可能になる。

  4. 地雷原が問題なのは、この戦争をモニターしている人々のほとんどが知っている。地雷原は移動する空間を狭め、進撃を鈍らせる。しかし、ウクライナ軍のロシア軍防衛網突破力に関して地雷原以上にかなり衝撃的なのは、複雑な諸兵科連合作戦を大規模に実施する能力が、本質的にウクライナ軍にはないということだ。包括的な諸兵科連合戦術アプローチが大規模に実施できないことが、ロシア軍の対戦車ミサイルや砲兵等に対して、前進中のウクライナ軍をいっそう脆弱にしている。だから、単に装備の問題だけではないのだ。私が観察した限り、ロシア軍防御システムは組織的に崩されてはいない。

  5. この攻勢の特徴は、次の条件が満たされるときのみに変化する可能性が高い。その条件とは、ロシア軍防衛網を突破する、より組織的なアプローチが存在し、おそらくそこにロシア軍の士気の深刻な低下が伴う、もしくはそれを引き起こすことが加わるというものだ。その結果、ロシア軍の防衛は突然に、または段階的に崩壊していくだろう。ロシア軍防衛網の突然の崩壊がなければ、私の推測ではあるが、この戦いは今後も血塗れの消耗戦闘であり続けるだろうし、その戦いのなかに、今後数週間か数カ月間、予備部隊が逐次的に投入されていくだろう。

  6. ロシア軍の指揮統制もしくは弾薬を組織的に劣化させていく組織的な後方への戦闘が行われている証拠は少ない。ロシア側が弾薬制限を実施しているにも関わらず、弾薬を使うことができており、ロシア軍は戦場での情報収集・監視・偵察(ISR)能力をかなり上手く広げているようだ。また、ウクライナ軍攻勢を阻止するために、ロシア軍が作戦予備を投入する必要に迫られたことは今のところない。さらにロシア軍による効果的な対抗措置の結果、HIMARS攻撃が与える衝撃が減じているという証拠もある。(ATACMSの供与が及ぼす戦術的インパクトに関するあらゆる可能性に関して、ここで述べたことを心に留めておくことが重要だ)。ロシア軍が仮に深刻なほどに弾薬が数的に低下する、もしくは欠乏してしまったとしても、個々の小隊または中隊規模でのウクライナ軍の攻撃がもっと広域な戦線上でよりよく同期・協同できない場合、そのようなウクライナ軍の前進をロシア軍は遅らせ、制限し、撃退することができる可能性は高い。

  7. ロシア軍の質はまちまちだ。消耗がロシア軍を厳しく打ちのめしてはいるが、私たちと話したウクライナ側関係者によると、ロシア軍は自陣地を上手く守れている。ロシア軍は戦術レベルでかなりの適応を示しており、ソヴィエト式またはロシア式のドクトリンに沿った防衛を幅広く遂行している。

  8. ロシア軍砲兵の弾薬制限は事実であるし、実際に起こっている。南部において、ウクライナは野戦砲(榴弾砲)での火力優勢を確立している一方、ロシアは多連装ロケット砲での優位を保っている。だが、いくつかの砲種において部分的な火力優勢をもっているだけでは、ロシア軍防衛網を突破するには不十分だ。

  9. 追加の兵器供与(例えばATACMS、対空兵器、主力戦車、歩兵戦闘車等々)、これは戦争遂行を持続させるのに重要ではあるが、適応とより効果的な統合がなければ、決定的な戦術的インパクトをもちえない可能性が高いだろう。ウクライナは今後、現状の戦術をもっとよく同期・協同できるようにし、それを応用していかなければならない。それができなければ、西側製装備は長期的に戦術的な決定力をもたらさないだろう。このことは進められているのだが、その進捗は遅い。(私見だが、NATO型軍隊のほとんどがウクライナ軍よりももっとこの課題に苦しむことになるだろう)

  10. 上述のことは、地雷原突破作戦にもあてはまる。さらに地雷除去用装備を供与することは必要で、有益であるだろう(携帯用の地雷除去システムは特に)。しかし、大規模なレベルでの火力と機動の統合が改善されなければ、決定的な意味はもたない。(念のために述べるが、戦争中にこのことを遂行するのがどれほど困難かは、いくら強調してもしたらない)。失敗について、(地雷除去装備不足のように)単一の理由のみで説明することは、現実を反映していない。例えば、ウクライナ軍の攻撃のなかには、ロシア軍の第一地雷原に到達するもっと前に、ロシア軍の対戦車ミサイルによって阻止されたものもあった。

  11. 砲身の不足もあるが、この問題は生産ペースと供与までの時間を考えると、困難な取り組みだ。

  12. ウクライナ軍の反攻のアプローチは現状、まず第一にロシア軍陣地への直接的な強襲であって、それを未熟な後方への攻撃戦闘アプローチが支えている。そして、はっきりと述べておくが、このような直接的な強襲は単なる威力偵察ではない。

  13. 物理的なキル・チェーンを途切れさせることを支援する戦術的サイバー作戦が行われている証拠がある。それは戦場で攻撃目標を特定・探知することに役立つサイバー上でのISRである。スターリンクはウクライナの指揮統制にとって、絶対的な鍵であり続けている。

  14. 私たちが会ったウクライナ軍将校と下士官の質は素晴らしいようにみえ、士気は依然として高い。だが、今までの兵よりも年長で体力面で劣る男性陣が召集されることに伴う、戦力の質的問題も存在する。

  15. ウクライナの現状の進撃が遅いのは、単に兵器供与と支援が足りないからだという言説は、一面的な理由付けであって、私たちと話し、現に前線で戦い、前線で指揮をとっている方々の間で共有されていないものだ。

  16. 言うまでもなく、消耗戦において、より多くの砲弾と装備は常に必要とされており、着実に供与する必要がある。(今後、反攻が成果を出す見込みは今でも存在するので、西側のウクライナ支援は確実に継続されるべきだ)

だが、私たちと話した前線で戦う将兵たちは、上手く前進できない理由がもっとほかにある場合が多いことを十分すぎるほど知っている。その理由は、戦力展開、未熟な戦術、部隊間協調の欠如、官僚主義的な形式主義や内輪揉め等々であり、そこにロシア軍が頑強な抵抗を示すことが加わる。

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