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【報告書紹介】“ウクライナの軍事能力と展望”(米国議会調査局)

※画像をクリック(タップ)すると記事原文にアクセスできます。
https://crsreports.congress.gov/product/pdf/IF/IF12150

上記リンクは、米国議会調査局によるウクライナ軍が抱える問題に関するレポート(“Ukrainian Military Performance and Outlook”, 01.12.2023)です。

ごく短い報告書ですが、ウクライナ軍が抱えている問題、とりわけ人的課題に関して重要な指摘しています。

ここ最近、ウクライナ軍の人的不足(もしくは人的問題)が報じられることが増えてきたように思われますが、この問題は単純な兵力不足という問題に収まるものではありません。

この報告書が指摘するウクライナの問題点は

  1. 戦争初期に動員した軍務経験・戦闘経験のある退役兵を消耗してしまったこと

  2. 専門的知識・技能を有する下士官団が存在しないこと

  3. 訓練された参謀将校が不足していること

にあります。

なお、興味深い指摘として、戦争初期時には、過去に戦闘経験のある兵士の存在が、プロフェッショナルな下士官が少ないことを補っていたという指摘があります。ですが、その経験豊富な兵士も消耗している現在、プロフェッショナルな下士官を育てることの重要性が、ウクライナ軍内で増しています。

このようにウクライナ軍は質の面での人的課題を抱えているわけですが、その課題に戦況がウクライナ軍に与える影響も重なります。報告書は次のように述べています。

(…)ウクライナ軍に存在する戦力増強を急ぐ必要性が、基礎的訓練しか受けていない兵員を前線に送り込む圧力を生み出している。とはいえ、現在の戦いのなかで戦闘任務遂行を持続させるために、ウクライナ軍は、複雑な作戦の遂行と先端的兵器の操作に必要な訓練を兵員に施すことと、十分な数の兵員の前線投入を担保することのバランスを取り続けている。

“Ukrainian Military Performance and Outlook”

さらにウクライナ軍が抱える人的問題は将校にも及んでいます。将校の能力不足は、ウクライナ軍の部隊運用能力に直結します。この点について報告書は次のように指摘します。

(…)作戦任務の管理統制と各種連携の面で指揮官を補佐する参謀将校の訓練に、ウクライナ軍は苦慮している。十分な訓練を受けた参謀将校の不足は、いくつかの事例において、戦術レベルの任務の統制と連携を、上級司令部の参謀が行うという状況を招いており、そのことによって中央集権的で、迅速さに欠く意思決定が生じている。

“Ukrainian Military Performance and Outlook”

なお、指揮の「中央集権」化に関して、報告書は次の指摘もしています。

ウクライナ軍の指揮構造は、戦争初期時と比較して、より中央集権的になっている模様だ。ウクライナ軍はNATO式の指揮原則を採用しようとしているが、依然としてソヴィエト式指揮の特徴があらわれており、それはソヴィエト式ドクトリンで訓練を受けた動員された将校の間で特に顕著だ。そうであっても、ウクライナ軍は変化する環境に応じて作戦遂行を調整する柔軟性と意志を示しており、部隊レベルや下級レベルにおいて特にそれがいえる。

“Ukrainian Military Performance and Outlook”

この報告書では、もちろん人的問題以外に関しても取り上げており、例えば装備に関して、ウクライナの西側供与兵器への過度な依存を取りあげています。ウクライナが国内で兵器生産を増やすことができればよいのですが、当然のことながら困難です。ですので、西側諸国はウクライナへの支援を継続する必要があります。

ですが、仮にウクライナへの兵器支援が順調に進んだとしても、人的な問題が解決しない限り、ウクライナ軍が優位に立つことは難しいでしょう。報告書はウクライナ軍に関して、次のように締め括っています。

ウクライナ軍は諸兵科連合作戦と突破作戦を遂行するために、軍の中核である高い能力を有する部隊に今でも依存しており、それをTDF(領土防衛隊)と予備役部隊が支えている。新規募兵は活発なままで、モチベーションは依然として高いが、損失・消耗・部隊ローテーションの必要性が、これからも課題として続いていく可能性は高い。高い能力を有する部隊を置き換える、そしてそのような部隊を拡大させるのに必要な新規兵員を訓練することが、参謀職の将校を訓練することと同様に、今後の鍵となる目標であり続ける可能性は高い。ウクライナ軍が戦力を再び生み出し、戦力の質を維持できるかどうかが、ウクライナの成功にとって極めて重要な点になっていく可能性は高い。

“Ukrainian Military Performance and Outlook”

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