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私は自分の目で見たものを信じたい。

何年前かの夏、プロ野球を見に行った。
阪神が試合をやっている日だった。球場には数万人の観客が集まる。
そのため特定の場所は特に人で溢れる。
グッズ売り場は当然として、エスカレーターやエレベーターも混雑していた。

私と妻は何の用事かエレベーターに乗ろうとしていた。
ドアはそれほど大きくはなく、数人しか乗れないことが予想された。
実際やってきたエレベーターは最大で4人乗れるのかどうかという程度だったと思う。先客が1人いたため私たち夫婦は乗り込むことを躊躇した。

中にいたお兄さんがにこやかに手招きをしてくれた。
私たちはその好意に甘えることにした。

ありがとうございます。

そういって乗り込んだ。
お兄さんはニコニコしていた。そして私に話しかけた。
はっきりとは聞こえなかった。聞き返した私にもう一度彼が言う。

オ・スンファン。

当時の阪神の韓国人クローザーの名前だ。
突然の選手名に戸惑い返事ができずにいると、彼は狭いエレベーターの中で私たちに背中を向けてきているユニホームを見せてくれた。
【S H OH】
オ・スンファンのユニホームだった。

アイムコリアン。

彼は続けて言う。
私は思わず日本語で返事をしてしまった。

あ、そうなんや。
いいよね。いいピッチャー。

始終ニコニコしていた彼。
私は阪神贔屓ではないけれど、それからなぜかオ・スンファンは好きになった。
それからしばらくは韓国に関することを耳にすると、妻にあのお兄さん元気かなー。と何度も言った。

今でこそBTSやTWICEが好きになり韓国という国に対して苦手意識はないが、当時はあまり好きではなかった。
嫌韓のニュースが出回り、そればかりを信じていた。
確かにそういう一面も実際にあったかもしれない。でも自分の目の前に現れたあのお兄さんが私にとっての韓国になった。
それからしばらくは苦手な印象とお兄さんの好印象が戦っていた。しかし自分の体験したものを信じることにした。

今でもさまざまなニュースやゴシップが飛び交う。
それに踊らされて、さも自分が実際に見たかのようにその情報に乗せられてしまうことも多い。そんなのはほんの一面でしかない。

私は自分の目で見たものを信じたい。



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