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イスラエル新型コロナ第二波の衝撃

1.コロナ第二波
イスラエルはコロナ感染対策で、世界的に見てもかなり上手く感染を抑える事に成功した国だ。しかし規制を緩和し、経済活動+ヒトの動きと共に再びコロナの感染が広まってしまった。俗にいう第2波と言う状況だ。

5月17日時点
1日の感染者9人(累計感染者16,643人)、累計死者272人、人口呼吸器45人、重篤者数38人、1日の検査数4,633件、平常化率51.7%、失業率25.3%(2020年2月で3.9%だった)

7月20日時点
1日の感染者数1,507人(累計感染者52,003人)、累計死者415人、人口呼吸器80人、重篤者数264人、1日の検査数19,727件、累計回復者22,157人、感染率6%、入院者数664人、自宅/ホテル隔離措置者28,770人、累計検査数664,645件、平常化率66.9%、失業率21.2%

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写真:ドライブスルー検査

今考えると3月下旬のロックダウンのタイミングは最適だったと言ってもいいだろう。
ただしロックダウンによる経済的ダメージも大きかったことは確かだ。
数字的に見ると2020年2月時点での失業率は3.9%だったのに、ロックダウン中の例えば4月上旬で失業率は何と27.6%まで上昇。130万人近くが失業もしくは無償休暇になった。
実に4人に一人が仕事の無い状況に陥った。

平常化と混乱
コロナの感染者も5月17日には、1日の感染者数9人までコロナを抑え込んだ。
経済指数下落の背景から、政府も ロックダウン解除し、平常化へと急いだ。
レストランやショッピングモール、イベント会場、プールなど一気に制限が緩和。
そして地中海性気候の気温上昇も手伝い、すっかり夏の装いに衣替えしたイスラエルは、人々の心に油断を与えた。
「もうコロナは終わった」「感染しても大したことないだろう」
保健省の指導を無視する人、バーやパーティーでマスク着用や人数制限も守られなくなった。
その途端、コロナは再び勢力を増し、感染者が増えてしまったのだ。

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写真:第2波のシンボルとなったエルサレムの高校ギムナシア

決定的だったのは5月28日エルサレムの高校ギムナシアで教師生徒が141人も感染する事件が起きた。第2波の始まりはここからと言われている。
緊急コロナ統一内閣の対応はすべて後手となった。
町単位でのロックダウンを進めるも、高級住宅街のある街は感染率に関係なくロックダウン無しと言う判断や、感染率の低いプールや海もとりあえず閉鎖したりした。

また警察も権力をかざしたマスクチェックで市民に罰金を科し、時には暴力的振る舞いでSNSにその対処法がアップされるなど、社会に怒りをもたらした。ちなみにマスク不着用は500シェケルの罰金(1万5千円)

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写真:7月11日のテルアビブ市庁舎前デモ

2.経済的ダメージ
前述したように失業率が20%を超え、建国以来最大のクライシスを迎えている。
ほぼ5ヶ月仕事が無い人、もしくは無給の人が100万人もいる現状。
政府は、コロナ関連支援金80Billion NIS(約2兆4000億円)の予算を約束。
労働福祉大臣から高齢失業者と年金受給者に90億円の支援要求など。
色々な数字は出ているが、現実にお金を手にした人が少ないという。
今までに2回の支援金が払われているが、少額すぎて意味がない。

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写真:国民を裏切り続ける首相

何が国民を怒らせているのか?

1.支援金の無配給もしくは低額なため(税務的処理の計算のため)
2.空理空論な営業制限
3.政治家による保健省コロナ対策の無視
4.現実から乖離した内閣の政策
5.ネタニヤフ首相が賄賂案件で起訴されている事

数ヶ月間、給料もなく食べる物にも事欠き始めた人々の苦しみや怒りは、限界に来ている。ロックダウンに従ったのに政府は約束した支援金を配給していないと言うのだ。
また第2波により再ロックダウンが囁かれる中、レストラン業界やフィットネス業界は反乱(閉鎖指導に従わない)を示唆している。

しかも彼らを怒らせているのは、夜中の12時にレストラン業界の閉鎖を決定してその翌日から閉鎖実施と言う判断だ。この決定に「今日の明日で無理な決定」という者もいれば、正直に食材を捨ててしまったレストランもある。

またこのコロナ時期に何度も政治家は自分達の事を優先してきた。
4月の過ぎ越し祭では家族だけでのディナーと言う保健省の指導を、大統領はじめ首相自身が守らなかった。直近では、新保健大臣エデルシュタインが、自ら新たな制限を発表したにも関わらず、その夜に奥さんの誕生会を開いた。

コロナ対策に取り組むために立ち上げた統一内閣。
前代未聞の36人の大臣と副大臣のポスト。世界的に見ても国のサイズに合わない大臣の多さ。
ネタニヤフ首相は、10年間の免税特典と1億円近いアウディA8を要求。
国民第一と言っていたガンツ国防大臣も(ローテーションで1年半後に首相になる予定)結局ネタニヤフ首相と同じ条件を要求した事で支持者を落胆させた。

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写真:政府に怒る個人事業主たち

国民が困窮している状況でこの様な要求をしてしまう現実乖離内閣に国民は右も左、老いも若きも大反感なのだ。
7月第二週からほぼ毎日色々な反政府のデモが起きている。
7月11日にはイスラエル全土200か所でデモが起きた。
最大は2万人が集まったテルアビブの市庁舎前デモ。
個人事業主を始め、イベント関係者、アーティストらが政府の対応を批判した。
デモはすべてのセクターに飛び火し、ソーシャルワーカー、医療機関関係者、障害者、レストラン業界、観光業界、劇場関係者らが続いた。

さらなる懸念はダメージの少ないとされるハイテク分野でのレイオフの足音が聞こえ始めている事。ここ数年イスラエルの経済をけん引してきたスタートアップ、ハイテクに陰りが見え始めている。
イスラエルIBMなどハイテク業界でも国内のレイオフが始まった。Amdocsは1000人、IAI(Israel Aerospace Industries)は900人も解雇するという報道が流れた。

国民全員に給付金
国民の声を受けて、ネタニヤフ首相は7月15日全国民に同額の給付金を約束した。
これは明らかに混乱するイスラエル社会に現金をばらまくポピュリズムでしかなく、有効な経済支援とはほど遠い。それだけネタニヤフ首相が追い込まれていると言っても過言ではない。国民は賄賂で起訴されているネタニヤフをイジって「首相が国民に賄賂を配ろうとしてる」と笑う。
国会、国民から反対意見が出て、本当に困窮している人に届くように調整中だ。どちらにしても6ビリオンNIS(約1800億円)を上手く配分するのは相当難しいと言われている。


3.パワーバランスの懸念

イランと中国
この状況でも中東の地政学的変動には注視していかなければならない。
7月に入ってイランでの火災や爆発事故が続いているのだ。
いくつかのイベントはイラン国内の反政府グループが犯行声明を出している。またガス爆発は単純に老朽化したガスパイプに限界が来ているだけらしい。

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写真:中国の習主席とロウハニ大統領

ただ気になるニュースもある。
中国がイランとパートナーシップを結ぶというのだ。
アメリカと中国の経済戦はこの数年過激さを増している。
しかしこここに来てアメリカが経済制裁で封じ込めているイランを中国が取り込むという。
これで中東のパワーバランスはまた変わってくると言わざるを得ない。
イランが中国から経済的バックアップを得る事は、イスラエルにとって軍事的、戦略的脅威となるからだ。しかも中国とイスラエルは近年スタートアップ投資やイノベーション関連で協力関係にあったから尚更事情は複雑だ。
当然イスラエルは中国とのビジネスに距離を置かざるを得なくなる。
またイランからのガザ地区、レバノン、シリアへの武器供給や兵士派遣も活発化すると考えられる。
上述したイランのガス爆発は老朽化が原因と言われているが、ここに来てモサドによるイランのインフラ攻撃ではという噂も再燃している事を付け加えておこう。
そしてシリアにあるイランの武器庫をこの数日、イスラエル空軍が積極的に空爆している。
トランプ大統領が提案したイスラエルパレスチナ新和平交渉の’’The deal of the century’’は、イスラエルにとって圧倒的に有利な条件であり、パレスチナは反発。
しかし現実的には西岸地区併合は政治、国際、戦略、経済、感情的に何一つメリットが無い、有害無益と言っていい。これをこの時期に強行するネタニヤフ首相に対する疑問も当然ながら多いのだ。

まとめ
世界的なコロナ大恐慌に突入する中で、抜け道を見いだせないイスラエル。
有象無象なコロナ内閣と国民の失望。
賄賂裁判などで信頼の落ちているネタニヤフ首相。コロナ統一内閣で更に無能さを露呈し、国民の信頼を完全に喪失した。

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写真:イフアット・シャシャ・ビトン コロナ対策委員長

ひとり人気を博しているのはコロナ委員長のイフアット女史だろう。彼女に対する批判も当然あるが、感染の低い商業施設はオープンさせておくと言う意見で、内閣と真っ向から対立している。ネタニヤフ首相は彼女を同ポジションから引き下ろすと脅すなか、臆することの無い姿勢を貫いてる点は評価できるだろう。

連立の分裂も避けられない状況で11月の選挙がまことしやかに囁かれている。 ネタニヤフ首相と政党’’青と白’’の支持率は軒並み下がり、8月までに分裂するという見通しだ。

行動経済学で世界で最も有名なイスラエル人ダン・アリエリ教授は経済的な回復には3~5年を要するだろうと言及している。
第3四半期から関連倒産が続き、2020年成長率はマイナス7%前後と予想されている。

今後の健康的展望としては、いち早いコロナウィルス用のワクチンや新薬の開発がポイントになってくるだろう。
ワクチン開発でアメリカのModerna社が最終臨床実験に入っているという。またイギリスのオックスフォード大学も最終段階まで来ているらしい。
当然各国がワクチン獲得バトルに走るのだが、同社の上層部にユダヤ人、イスラエル人がいる事はイスラエルにとって獲得競争で一定のアドバンテージがある事も事実だ。
ロシア・中国は新薬開発を進めるより、ハッカーによるワクチン/新薬開発の情報を盗むことに力を入れている事も興味深い。

不確定要素と不安にあふれる状況だが、こういう時にイスラエル人は"Out of the box thinking“が出来る人達だ。とんでもないイノベーションが出てくると思っている。
またスタートアップ業界も早めの資金調達が重要になってくるので日本企業にとっても投資、協業のチャンスになることは間違いない。交渉にも優位性を持てるだろう。
前述した中国イランの関係を逆手に取り、イスラエルが今後日本との協業に拍車をかけるのではと期待している。

7月22日 ツチダ エリヤ


参考情報

コロナデータ6/11
■新規感染者数:214人、新規感染者地域別:テルアビブ81人、エルサレム30人、ブネイ・ブラク25人■地域別累計感染者数:エルサレム4,025人、ブネイ・ブラク2,998人、テルアビブ796人、その他78人■累計回復者数:15,250人累計死者数:300人 ■重篤者数:34人■人工呼吸器:24人■教育機関でのアウトブレイク:135校が閉鎖、17,605人の教師、生徒がマスク着用義務違反者は200シェケルの罰金、6/10だけで381件の罰金■イスラエル経済6/11日失業率:21.45%(2020/2月3.8%)■平常復帰率:64%、クライシス企業/事業主:98,776件■2020年最終的失業率予測:8.5%、2021年失業率予測:5.5%■職場に戻った労働者数:183,089人■6/11日追加失業者数:101,276人現在の失業者数:724,675人■求人数:576(前年比836)■2020第1四半期マイナス7.1%(この20年で最低)※イスラエルは第4四半期で4.6% 消費者物価指数:0.3減■イスラエル政府はコロナ関連支援金80Billion NIS(約2兆4000億円)の予算を約束。■労働福祉大臣、高齢失業者と年金受給者に90億円の支援要求4月のスタートアップ資金調達が10億ドル達成(2020/1Qで 27.4 億ドル)■インテルがイスラエルの交通アプリ企業 Moovit 社を 9 億ドルで買収■財務省はエル・アル航空への 4 億ドルの融資? ■分野別出費食料102%、電気製品100%、ファーストフード76%、ガソリン73%、交通機関69%、ホテル宿泊施設48%、娯楽22%■OECDリポート各国の経済的損失フランス-23.3%、ドイツ-8.9%、イスラエル-7.1%、アメリカ-4.8%、日本-3.4%、スウェーデン-1.2%

コロナ関係規制指導
●マスク着用義務●個人事業主への2回目の給付金取り消し決定。●ベングリオン空港予定再開日8月1日:●エルアル6月20まで運航停止延長●結婚式200人まで●劇場の閉鎖、政府は閉鎖指示。毎回再開の日程が延期され関係者は激怒。

政治
●ネタニヤフ首相の汚職裁判開始※ネタニヤフ首相が会見でメディア、警察関係者を痛烈批判。●6/9ヤッフォでデモが暴動化。路線バスが襲撃される。イスラエル各地で身体障碍者、個人事業主、娯楽文化関係者、トラック運転手などそれぞれの政府の支援に対する不満の抗議デモが続く。


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