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じいじと孫娘

「じいじ、今日は何して遊ぶの?」

孫娘の瞳は、お風呂に入る前からキラキラと輝いていた。その期待に満ちた表情は、息子には理解しがたいものだった。息子にとって、風呂はただ体を洗うだけの場所。しかし、孫娘にとって、それは夢のような冒険の始まりだった。

湯船に浸かると、じいじはまるで手品師のように、次々と新しい遊びを繰り出す。ある日は、色とりどりの水風船が湯船を埋め尽くし、孫娘の歓声と水しぶきが浴室に響き渡る。またある日は、水鉄砲で的当てゲームが始まり、風呂場の壁は水玉模様で彩られる。

遊びは、水遊びだけにとどまらない。時には、泡を使って髭を作ったり、タオルを巻いてターバンごっこをしたり。じいじのアイデアは尽きることがなく、孫娘の想像力を刺激し続ける。

もちろん、いつも順風満帆とはいかない。時折、ばあちゃんの「こらっ!湯冷めする!」という雷が落ちる。しかし、じいじは孫娘にこっそりとウインクし、遊びを続行する。まるで、孫娘と二人だけの秘密の共犯関係を築いているかのようだ。

「じいじ、また明日ね!」

湯船から上がる孫娘は、遊び疲れて頬を赤く染めながらも、満面の笑みを浮かべている。その笑顔は、じいじにとっては何よりの宝物。彼は目を細めて孫娘を見つめ、心の中で「また明日も、一緒に遊ぼうね」と呟く。

息子は、そんな二人の姿を遠くから見守っていた。じいじの優しい眼差し、孫娘の無邪気な笑顔。それは、息子には決して理解できなかった、特別な絆で結ばれた瞬間だった。

そして、息子はハッとした。じいじは、孫娘を楽しませるだけでなく、自分自身も心の底から楽しんでいるのだ。それは、大人になって忘れてしまった純粋な喜び、子供の頃の無邪気な心を呼び覚ます時間だった。

息子は、じいじの笑顔を見て、初めて風呂がただの入浴場所ではないことを知った。それは、世代を超えた交流の場であり、思い出を紡ぐ魔法の空間だった。

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