バイト帰りの深夜の窓

想像するのが好きな私は色々あることないこと想像しながら歩くのを楽しむ癖がある。
「あの家のあの部屋だけカーテンが汚れていて、カーテンが開いているところを見たことがない。きっと霊が出るから住人たちが入りたがらなくて放置されているんだろう」
「あの路地はいつも誰かが居る。きっと人を誘い込む霊道かなにかがあるんだろう」
 などのくだらなくこじつけとしか言えない想像がほとんどだったが、暇つぶしにちょうど良くて結構気に入ってた。

カラオケ店でのアルバイトが終わり、家への最寄り駅に着く頃には午前2時を回っていた。
冬の繁忙期だったこともあり通常の3倍のフードオーダーや掃除・接客をなんとか乗り越えた私はふらふらと歩いていた。
いつも通る最寄り駅から家までの道も深夜、それに先程までいたカラオケ店と違い風の音やたまに通る車の音しか聞こえないとなると異世界のように感じてしまう。商業区から離れた程よく田舎なベッドタウンらしく、街灯も疎らでこの時間なら人通りもなく天気も曇り。
ホラー物の雰囲気としてはなかなかのモノだ。
深夜テンションと疲労でおかしくなっていた私は「今こそ想像して楽しむべきでは?」と妙にワクワクしながらいつもの想像を始めた。

「あの木は今急に揺れ始めたからきっと私を驚かそうと霊が動かしてるんだな」
「あの家はまだ明かりがついてる。もしかしたらあかりが何も無くなると霊に襲われるから付けたまま寝てるのかもしれない」
あの家の人、なんでこっちを見てるんだろう。深夜なのに人間観察とは随分暇な人だな
「この家人が住まなくなって長いな。実は曰く付き物件になってたりして」
…家まであと少しというところでふと、気がついた
さっき私を見ていた人、たまたま外を見た時に私が居て、それで眺めてたにしては変じゃないか?
角度的に窓ギリギリに立っていないと見えないような場所をこの深夜に見るものか?
それに街灯も大して無いから目が暗闇に慣れていないとふと見た程度じゃ気が付きもしないと思うけど…
それに見てた理由も気になるけどなんか違和感が…

そんな感じに思考を巡らせているうちに家の前に着き、なんとなく2階の自室を見上げてみた。
2つある窓は両方ともカーテンが閉まっていて、中の様子は見えないが隙間から光が差していないから真っ暗なことが分かる。
「あっそうか」
さっき感じた違和感の正体に気が付いてつい声が出た。
あの部屋はカーテンの隙間から光が差していた。
それなのにその人は真っ黒なシルエットのようにしか見えなかった。そしてこっちを見ていると分かるぐらい頭ごと私を目で追っていたんだ。
その事に気づいた途端、背筋にゾクッとする物を感じた。


急いで鍵を開け家に入り荷物を玄関に放り投げ懐中電灯とスマホを持ち、鍵を閉めて来た道を全力ダッシュで戻る。
もしかしたら霊かもしれない!!!!!
もしかしたら心霊現象かもしれない!!!!!!
私は興奮していた。
夢にまで見た「目に見える心霊現象」…かもしれない
当時よく話してた友人達は大のホラー好き。きっと話題になるし私は一目置かれた存在になる。
頼む、まだそこに居てくれ!!
人じゃなくて霊であってくれ!!
人だったなんでこの時間に起きてんだよ紛らわしい
なんて事を考えながら走ってその家に向かったが…
辿り着けなかった。
途中で前を通った交番の警察官に呼び止められ深夜に何をしてるんだとお叱りを受け、ようやく冷静になった私は「確かに深夜に人の家の幽霊見に行く方が引くわ…」と納得しとぼとぼと家に帰った。

その後特に何も無かったけど、深夜になると思い出すちょっと不思議な体験でした。


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