インフルエンザかインフルエンザじゃないか
日曜日に長男がインフルエンザA型にかかった。彼の待ちに待っていた修学旅行が火曜日からだった。
インフルエンザにかかると発症から5日間は出席停止なので、直ちに修学旅行にいけないことが決まった。それはそれはかわいそうなタイミングだった。
行き帰りのバスでのレクリエーション、持ち物確認システム、班行動の回り方、お土産は誰に何を買うんだ、とありとあらゆる準備を入念にし、楽しみにしていたため、病気が心配なことよりも修学旅行に参加できないことに、とてもいたたまれない気持ちになった。
友だちと出かける京都、友だちと食べる夕飯、友だちと入るお風呂、友だちとする枕投げ。家族旅行では決して作ってやれない貴重な想い出になるはずだったのに……変わってやれたらどんなにいいか。
そんな気持ちで精一杯看病していた月曜の夜、布団に入って眠りにつこうとうとうとし始めた頃。
……あれ? わたし、今すっごい寒いぞ? やけに心臓がバクバクしているぞ? 何やら喉も痛い…?
ま、まさかねー! 変わってやりたいとは思ったけれど……まさかねー!汗
もう一枚毛布を増やして、無かったことにして再び寝た。
翌日、火曜の朝。
起きると、間違いなく喉が痛かった。熱を測ると「37.5度」だった。まだそこまで高くないな? しかし頭の中心あたりがズクズクと疼く気がする。目と鼻のすぐ奥に、もうすぐ爆発する爆弾が詰め込まれているような感覚だった。
思い出した……! これはインフルエンザの時の頭痛のやつ!!
わたしは病院が大嫌いで、インフルエンザか骨折くらいでしか病院には行かない。お薬手帳を見ると、前回、内科にかかったのは平成29年の1月にインフルエンザにかかった時だった。
その時も、最初は熱もたいして出ておらず、ただの風邪だろうとイブを飲んで仕事をしていたら、午後からポーンと40度近く熱がでて、猛烈な痛みが果てしなく続く頭痛爆弾と、数秒も座っていられないほどの激烈な腰痛爆弾が炸裂したのだった。
これは、あの地獄の前段階に違いない! 確かあの時はもう自分で運転することもできず、夫に病院まで(文字通り)担いでもらったのだっけ……
あかんっ! 本当に長男から頂いてしまった!
ほらね? 長男はもうすっかり元気になって朝からフォートナイトで「てめぇこるるぁぁぁあああっ!ぶっ○す!!」と叫んでいる。おい、あんた。修学旅行への悲しみはどうした?
やばい、今日は夫は帰ってこない。動けるうちに自分で病院に行かなくては!
しかし、今行っても37.5度だし、まだウイルスが体内で十分に増殖していなければ検査で陽性反応が出ない……! できれば二度手間は避けたい。くううう、仕方がない、時間が経過するまで様子見するか……。
インフルエンザウイルスが検査で陽性反応を示すまで増えるのには症状の発症から12時間が必要とされているため、とりあえず騙し騙し仕事をすることにした。
ああ、でも、なんだかどんどん頭が痛くなってきた気がするよ? 熱も上がってきている気が……。と、思いきや熱を測ると「36.9度」。そうか、まだそんなもんか。
しばらく事務仕事をしていると、だんだん呼吸が辛くなってきた気がしてきた。もう12時頃かな? 時計を見ると、まだ10時。そうか、まだそんなもんか。
どんどん熱くなってきて、なんだかハァハァしてきたのに、いくら測っても36.9度を安定して叩き出す体温計。なんだこれ、壊れてんじゃないの?
とうとう12時になり、昨日の夜の寒気出現から数えるとそろそろ12時間が経とうとしている。はぁはぁ、そろそろ……ええやろ、結構もうつらいかも。
体温計で熱を測ると「37.1度」
あれぇええ?? わたし、インフルエンザ……かなあ?
なんだかよくわからなくなってきた。頭が痛い気もするし、喉が痛い気もするし、熱がある気もするけれど、もしかして、大したことない……??
ここまでくると正直、熱が上がってきて欲しいと、うっすら思うようになっていた。なんなら、いっそもうインフルエンザでありたいと思っていた。
だってじゃあ、さっきハァハァしてたのなんなの? 朝方「頭、かち割れそう……」ってみんなに言いふらしまくってて、これでインフルじゃなかったらただの心配してほしがりの厨二じゃん。わたしの役職、一応、取締役専務なんだけど?
「専務、今朝あんだけハアハアしてたの、ただの風邪だってよ?」とか言われていたら恥ずかしすぎる。
いやしかし、このあとバコーンと熱が上がって動けなくなってしまったら、その方がやばすぎる。やっぱり地位や名誉より、安心と薬だ……いや、でも……なんて迷っているうちに、15時になってしまった。
ええい! とりあえず電話だ!
長男が日曜に休日外来でお世話になった内科へ電話し、状況と症状を伝えた。「発熱の患者さまは通常外来の方とは別の時間帯に診察させていただいていますので、斉藤さんは本日18時にきていただけますか?」とのことだった。
えー! 今ってそうなの?
よかった、電話して。そうか、いろいろあるんだね。
ということで、あと3時間だ…。あと3時間あれば、ちょうどいい感じに上がるんではないか……? もうなにがしたいのかわからなくなってきた。
もしかしたら長男のインフル感染があったことで、わたしお得意のネガティブ妄想「病は気から」が極まりすぎて熱が出ているのかもしれない。そう考えると全くいつも通りの体調な気もしてくる。
しかし、パソコンの画面の看板デザインに向き合っていると、やっぱり気持ちが悪くて座っていられないし、頭が割れそうに痛い気もしてくる……。
あーあ、もうこうなったら、正々堂々勝負してやんよ!
白黒はっきりつけようぜ!
家を出る前、最終ラウンドで測った体温は37.6度だった。
18時、ぴったりに病院の受付を尋ねると、待つことなくそのまま個室に通された。
「では、お熱測ってくださいねー」
きた。すぐに勝負の体温測定だ。
その日、朝から散々やりあってきたものと同じ、OMRONの白いアイツ(体温計)だった。
おらあ!! 最高得点出してやんよ!
しっかりと脇の肉の中で1番体温が高そうな部位に銀色の部分をあて、グッと包みこみ、締めあげた。
34.5…35.1…35.9…36.4…いいぞ、いいペースだ、
ここまで来たメンツもあるんだ、インフルエンザの検査を受けるにあたって、せめて37.8はいってくれ…! 頼む!
ティロリロリロ、ティロリロリロ♪
ああっ!
どうかなどうかな? ……ドキドキしながら、そーーっと見ると……
「38.9」
…… ま じ で??
わたしめっちゃ体温高いやん! ついにやったね! ヒャッホー! 普通にインフルやん、こんなん!
「あー、高いね。こりゃインフルですねー。息子さん、あれからどうですか?」
日曜に長男を診察し、薬を処方してくださった医師に尋ねられた。
ほうら、もう38.9も出てたら医師のお墨付き。
「あ、おかげさまで、もうすっかり元気でゲームしてますー」
「そりゃあよかったー。じゃあお母さん、お薬出しますね。今日、検査どうします?」
「え? どうします、って検査しないとかいいんですか?」
「あー、息子さんの診断をしていて症状も出ているので検査しなくても処方できますよ」
……そうなの?
これで、検査して陽性出ないなんてことがある? え? もうよくない? いい、いい、いい。もういいから! ね? 薬さえもらえたら、もうこのさいどっちでもいいから。万が一にでも、ここまできてインフルでなかったらいろいろ恥ずかしすぎるから! お願い! インフルにして!!
「じゃ、なしで。そんなこともできるんっすねー、えへへー」
「了解ですー。じゃあ、息子さんと同じ、イナビル出しとくんで、あとは薬剤師さんに訊いてくださいね」
この世で1番軽薄なインフルエンザ患者が、このわたしだ。
「正々堂々勝負してやんよ」も「白黒はっきりつけようぜ」も秒でスッパリやめ、検査をせず、受付から10分程度でインフルエンザ用の薬をもらい、無事に帰宅した。
なんだか試合に勝って、勝負で負けたような気持ちだ……
いや、わたしは何にも負けてなんかいない。
帰宅後すぐに、かの体温計で体温測定をしてみた。壊れていることを確定して、捨てるためにな!
ティロリロリロ、ティロリロリロ♪
「39.2」
おまえこのやろう!!
結局、わたしインフルエンザだったん? インフルエンザじゃなかったん?
おしまい
*イナビルを飲んだら、謎の高熱もその他症状もすぐに治りました。
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