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[インタビューズ]笑福亭智丸/Saint Lucaの聖磔(クルス)のそらに(李花業平)/不要不急の短歌(牛隆佑)

[インタビューズ]空気のような春/笑福亭智丸


2020年6月3日

——緊急事態宣言前、宣言中、宣言解除後、どんな心境だったりどんな行動をとっていたか教えてください。

宣言より前の2月下旬からどんどん仕事が無くなり収入も無くなって途方にくれていました。これを書いているのは6月の頭ですが、今も半ば途方に暮れています。行事ごとは世の中の経済活動よりもどうしても自粛に敏感で、復活は後手に回らざるをえないので厳しい時期は続きそうです。宣言解除後も宣言前も宣言中も今のところ変わってません。空気のような春でした。寒い夏を過ごすことになりそうです。落語だけは怠けずにいようと決意しています。

——今、自分が大事にしたいこと、ものなどを教えてください。

落語と家族と読書


——逆に、行動が制限される生活のなかで、これからも自分にとってこれはいらないなと思ったもの、ことがあれば教えてください。

TVやSNSなど、ボタン一つで楽しめる空間に自分の好きな面白さは少ないなと改めて感じています。便利ですけど。

——もう少し自由に動けるようになったらやりたいこと、行きたいところなどありますか? あれば教えてください。

飲み屋と映画館

——この状況下で、お仕事や生活のなかで工夫していること(工夫してきたこと)、困っていること(困ってきたこと)、気付いたこと(気付いてきたこと)などを教えてください。

工夫していること
どうすればライブ活動できるかを第一に考えています。第二にどうしてもライブ活動できないときの手段を考えています。正直いやいやながら配信なども意識するようになりました。

落語界でも配信の波が押し寄せそうですが、自分で自分の動画をあげるような自作自演作業は、芸より戦略より華より運よりも、心の適性が要るように感じます。単純に恥ずかしがりには苦しい時代ですが頑張ります。

困っていること
金銭面と喋る機会の減少

気付いたこと
応援してくれる人の優しさは平常時よりも身に染みています。
また、こんな状況でもしっかり稽古をつけてくださる先輩がいたりして、口承芸能の人間として、噺を引き継いでいかねばという気概は自分の中で強くなりました。


——パンデミックをきっかけに、自分はこう思っていたんだな、とか、こういう人間だったんだな、と気付いたことなどあれば教えてください。

特にありません。政治に思うことは沢山ありますが、それはコロナ以前から大して変わってないので特に心情の変化はありません。
休みが長引いたことで、休み自体は好きだという実感の再確認と、でも落語はしたいし金はほしいという実感の再確認が、皮肉にも交差してます。


プロフィール
笑福亭智丸(しょうふくてい・ちまる)
ときどき詩を書く落語家。
本名、疋田龍乃介。大阪芸術大学大学院修士課程修了。2013年、笑福亭仁智に入門。古典落語と新作落語双方で研鑽を重ねる。また、学生時代に上梓した詩集『歯車VS丙午』は中原中也賞、萩原朔太郎とをるもう賞などの候補になるなど、落語界の文芸派。
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告知はTwitter@chimaru_s中心でやってます。最近、YouTubeで「笑福亭智丸チャンネル」を開設しました。チャンネル登録いただけますと幸いです。
https://www.youtube.com/channel/UCejc-PNd19VwX7CjV4x0EXw


Saint Lucaの聖磔(クルス)のそらに

2020年6月6日

桜に惑ひ疫病にまどふ人形の影のあはひの春のひとひら
はなにまどひえやみにまどふひとがたのかげのあはひのはるのひとひら

蝶よ蝶よ 疫病に満ちるこのはるも櫻にあふれる京もまた春
てふよてふよ えやみにみちるこのはるもはなにあふれるきやうもまたはる

しろたへの毬亞を照らす月の夜に疫病に祈る汝と雛罌粟
しろたへのマリアをてらすつきのよにえやみにいのるなれとひなげし

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(横須賀市「諏訪大神社」にて筆者撮影)


満ちる櫻は疫病に震へかぜに舞ふ 人形いだく巫女の髪にも
みちるはなはえやみにふるへかぜにまふ ひとがたいだくみこのかみにも

咲く桜は篝火のごと紅のごと 疫病に満ちる春の岬は
さくはなはかがりびのごとべにのごと えやみにみちるはるのみさきは

さくらのの小町のかげは杖すがり蝶を追ふごと桜の吹雪に
さくらののこまちのかげはつえすがりてふをおふごとはなのふぶきに

雪のごと花瓣のごとはらはらと涙をおとす桜姫の汝は
ゆきのごとはなびらのごとはらはらとなみだをおとすさくらひめのなは

射干玉の穢土を彩る花瓣のひとひらごとの天人の紅
うばたまのえどをいろどるはなびらのひとひらごとのてんにんのべに

なよびかの汝の御髪は月に映ゆ 黎巴嫩の丘聖戦の為に
なよびかのなれのみぐしはつきにはゆ レバノンのおかせいせんのために

絵日傘を回せば桜の春の夜に偽りの汝小町と狂る
えひがさをまはせばはなのはるのよにいつはりのなれこまちとたはる

薔薇装ふ看護づかれの人形の瞳にうつる病棟の月
ばらよそおふみとりづかれのひとがたのひとみにうつるびやうとうのつき

蜂腰のはなは花瓣はるのよの冥土の桜のはるをひさげば
すがるこしのはなははなびらはるのよのめいどのはなのはるをひさげば

はなびらの桜はひとひらそれにさへ愛でられる汝は棄教のJeanne d'Arc
はなびらのはなはひとひらそれにさへめでられるなはききやうのジャンヌ

地に堕ちぬ雪の如くに天使舞ふ 雛罌粟満ちる毬亞の苑に
ちにおちぬゆきのごとくにてんしまふ ひなげしみちるマリアのそのに

雛罌粟に躑躅の惑ふ陰月に ひたひたと寄せる流行病は
ひなげしにつつじのまどふいんげつに ひたひたとよせるはやりやまひは

雲間より宙に舞ひ翔ぶ汝綺羅に数多な蝶と濁世のすべて
くもまよりそらにまひとぶなれきらにあまななてふとぢよくせのすべて

清洲橋の欄干もたれ見あげれば 我が編隊は日輪に消ゆ
きよすばしのらんかんもたれみあげれば わがへんたいはにちりんにきゆ
(*都心上空を飛ぶブルーインパルス)

曳き波のごと銀翼の白き跡 Saint Lucaの聖磔のそらに
ひきなみのごとぎんよくのしろきあと Saint Lucaのクルスのそらに  
(*聖路加病院上空をブルーインパルスが飛ぶ)


*以上は「mixi」にてMishima1125、「Twitter」にて@narihira1125tanka
のハンドルネームにて掲載したものです。


プロフィール
李花業平(りか・なりひら)
歌人/会社員 1964年生 短歌結社無所属


不要不急の短歌

2020年6月4日

2020年は僕にとって躍動の一年になるはずだった。昨年からはじめた八上桐子・櫻井周太との3人のユニット、フクロウ会議の展示が2月にあり、3月には尾崎まゆみさんとの読書会イベントを開催し、定期開催の借り家歌会は100回を迎え、そのほか発表前だったものや、企画段階のものでは、とある書店でのイベントいくつか、とある歌集の批評会。定期開催のワークショップや、葉ね文庫の展示「葉ねのかべ」なども含めて、ああこれは忙しい一年になるなあと楽しみにしていたのが、ほとんどそのすべてが吹っ飛んだかあるいは狂った。そして、僕のような者に活動の場が所与されるということは短歌が外向きに活発だったということなのだけれど、それが止まっていたということでもある。

それにしても、思い返すと歌人たちの対応は早かった。2月の半ばほどから次々と会の延期や中止が決まり、緊急事態宣言が発令された4月7日にはもうすでにほとんどすべての会が停止していた、と思う。そして、歌人たちの判断が早かった要因の一つには、短歌が稼業ではなかった事実があるはずなのだ。今回、短歌がどうしようもなく「不要不急」だと突き付けられたと感じた歌人は多かったと思う。実際、たまたま僕は生活や収入の面で多少の不便こそあれ、何も困っていない。後ろめたさを覚えつつ、在宅で仕事をやり過ごして、一週間に二度、徒歩5分のスーパーに行き、テレビとツイッターを交互に見て、たまに夜中に散歩をして、過ごした。でも何なんだろう、皮膚の内側から逆撫でされるようなこの苛立ちは。


令和二年 人間が見ていなくても花が咲くことが分かりました

人間はこんなに䔥かだったのか 惺かに澹かな呼吸をする
にんげんはこんなにしずかだったのか しずかにしずかなこきゅうをする


禁糺而耐戦言明けたとき風が止んでいたとしておどろかない
キンキュージタイセンゲンあけたときかぜがやんでいたとしておどろかない

それでも僕は短歌さえしていなければざまあみろと思ったかもな

あまのはらふりさけみれば対岸に 不要のあかり 不急のさくら


プロフィール
牛隆佑(うし・りゅうすけ)
1981年、大阪府生まれ。短歌を作ったり、短歌の活動をしたりしていました。今もしています。
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今、もっとも不安なのは、オンライン歌会にしても、今後のリアル歌会にしても、僕が理想としてきた誰とも知り合いじゃなくても何の手続きをしなくても、何やったら名前さえ名乗らなくてもふらっと入ってゆけるような歌会はもう無理なのかもしれないということです。「短歌をする」ことの第一歩目が「知り合いを作る」ことしかないのにはしたくない。


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