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ロディッシュ分子細胞生物学(邦訳)が4年ぶりの改訂で第9版になった。

分子細胞生物学の基準的教科書の一つとして世界的に広く使われている“Molecular Cell Biology (H. Lodishほか 著)”の日本語最新版(原著第9版の訳書)が2023年7月末に出版された。日本語旧版(原著第8版の訳書)は2019年12月に出版されているので、訳書としては約4年ぶりの改訂となる。

原著第9版は2021年1月に出版された。原著はこれまで4~5年のペースで改訂されており、その都度最新のトピックが追加されたり、記載がアップデートされている。原著の出版から2年程度の短いタイムラグで訳書を改訂・出版し続けられているのは、ひとえに監訳・翻訳している先生方の継続した努力の賜だろうと思う。

思い入れの深い教科書で、訳書第8版をこれまで愛用していたが、このたび改訂版が出るということで、訳書第9版も購入し、第8版とざっと見比べてみた感想を書いてみた。

全体的に最新の知見を元に記載は更新されているが、構成上の大きな変更としては、第9版で"細胞環境への応答"(21章)が新たに追加され、全25章構成となった。この章では、これまで複数章に分散していた環境中のグルコース、アミノ酸などの栄養源や酸素量・温度の変化、さらに細胞外マトリクスや他の細胞との接触に対する細胞応答に介在するシグナル伝達経路や概日リズムが解説されている。特に、概日リズムを制御する分子メカニズムについては、2017年のノーベル生理学・医学賞の対象になった発見であり、タイムリーで興味深い。
ページ数は1068ページから1112ページにボリュームアップしている。個人的に気になった項目は、例えば以下の辺り。

<RNAスプライシングの異常と病気に関する新しい項(9章)>
RNAスプライシング異常による病気について、第9版で新たに項目が追加された。エクソンの決定に影響する変異と、実際の疾病の例が記載されている。

<テーリンを介した細胞内から細胞外へおよび細胞外から細胞内へのシグナル伝達と機械刺激伝達(20章)>
テーリンとインテグリンによる細胞内外の情報伝達について、第9版で詳細な説明が追加された。

<小腸幹細胞を補充するための小腸クリプト細胞の脱分化に関する最新かつ詳しい議論(22章)>
第8版でも腸幹細胞の分化過程について説明されていたが、それが第9版でより詳しくなった。

<がんの免疫療法に関する新しい項(25章)>
がん免疫療法の有望なアプローチとして、PD-L1/PD-1に対するモノクローナル抗体やCAR T細胞の説明が第9版で追加された。

また、COVID-19に関する記載も新たに追加された。例えば、ウイルスの生活環の説明では、コロナウイルスを例に説明されていた。
"まえがき”のところで、本改訂で新たに追加された項目の一覧を確認することができるが、上記以外にも、ここ数年間の細胞生物学、分子生物学の進展が沢山反映されていた。もうだいぶ忘れている内容もあるので、これからゆっくり時間をかけて読み進めていこうと思う。

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