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逆境を経験した子どもたちの健康課題 adverse childhood experience (ACE) and health

子どもの時の逆境経験とは

子どもの時に虐待を受けると、成長してからの心身の健康にどのような影響があるのかーー。この問題については1990年代から本格的に研究が始まり、現在は、虐待だけでなく、子ども時代に経験する逆境 (adverse childhood experience, ACE) をより包括的にとらえ、発達・健康への長期的な影響を測ろうとするアプローチが確立されてきました。

ACEスクリーニングは、18歳になるまでに次のような逆境を経験したかどうかを本人にたずね(項目によっては「頻繁にあった」場合のみを数える)、当てはまるものを数えるのが一般的になっています。

* 親または世帯内の大人から侮辱・暴言などを受けた(精神的虐待)
* 親または世帯内の大人から暴力を受けた(身体的虐待)
* 親または5歳以上年上の人から性的暴行を受けた(性的虐待)
* 家族の間に愛情・思いやりがなかった
* 食事・衣服・医療などの世話を受けられなかった
* 両親の別居または離婚
* 母または義母が暴力を受けた
* アルコール中毒または薬物使用者と同居したことがある
* 家族の中にうつ病、その他の精神病、または自殺未遂した人がいた
* 家族が服役したことがある
Ballard, J. et al. 2019. Trauma informed public health nursing visits to parents and children, Public Health Nursing.

逆境の中で経験者が多いのは?

米国では2009年から、各州で毎年行われる大規模な行動リスクファクター調査 Behavioral Risk Factor Surveillance System(BRFSS)の一環として、人口レベルで、ACEがどのくらいあるのかのデータを集めることができるようになりました。2009年から2017年までに全米の計34州で実施された調査データ(回答者計21万人超)を分析した研究があり、人種、性別、学歴などの属性ごとに、ACEが一つでも有ったかどうかと、有った場合はいくつだったかなどを調べました。子どもの時に経験したかどうかをたずねたACEは先にあげた10項目のうち、次の8項目(精神的な虐待、性的虐待、身体的虐待、家庭内暴力、家庭内の薬物乱用、家庭内の精神疾患、親の別居・離婚、家族の服役)でした。

全体としては、全回答者の半分以上にあたる57.8%の人は少なくとも1つのACE を子どもの時に経験しており、複数のACE体験を持つのは全体の約3分の1でした。経験した人が最も多いACEは精神的な虐待(33%が経験)、続いて親の別居・離婚(28%)、家庭内の薬物乱用(26%)、身体的虐待(18%)でした。経験したACEの数を点数(0-8点)にして比べると、男性(平均1.46)より女性(平均1.64)が多く、白人(平均1.53)よりも黒人(1.66)や多人種(たとえば白人と黒人の両親を持つなど、平均2.39)で多くなっています。現在の世帯収入や学歴が低いほど、ACEが多い傾向もはっきりと表れています。Giano, Z., Wheeler, D. L., & Hubach, R. D. (2020). The frequencies and disparities of adverse childhood experiences in the U.S. BMC Public Health, 20(1), 1327.

最近の研究(Raney et al. 2023)では、全米の11-12歳を対象とした調査において、ACEが一つもなかったのは17.6%、1点は32.7%、2点あったのは26.9%などと報告されています。対象となった児童のうち8割以上が少なくとも1つのACEを経験していたことになります。

逆境経験(ACE)と成長後の発達・健康

子どもの時の逆境は発達の遅れ、喘息、睡眠障害、感染症などにつながりやすいほか、成長してからも妊娠出産への影響、慢性疾患など、広範囲で、かつ長期にわたって影響が出ることがわかっています。

Raneyらは全米の11-12歳(9千人超)を対象とした研究で、ACEと問題のあるスクリーン・メディア使用の関係に着目し、やめたくてもやめられない、生活や学習に支障をきたすような使い方がACEと関連するかどうかを調べました。図1(下)では、ACEの数が増えるほど、問題がある①ビデオ・ゲーム利用、②ソーシャル・メディア(SNS)利用、③スマホ使用が増える傾向が示されています。他の変数を考慮した多変量分析でも、①と③については、ACEが増えるほど「中毒」になる子どもが多いことが確認されました。

Raney et al. (2023)

Raney, J. H., Al-shoaibi, A. A., Ganson, K. T., Testa, A., Jackson, D. B., Singh, G., … Nagata, J. M. (2023). Associations between adverse childhood experiences and early adolescent problematic screen use in the United States, BMC Public Health, 1–8. 


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