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すでに始まっていた日銀VS海外勢の国債攻防戦

はじめに

日経新聞の記事によると日本国内の債権市場で金利上昇圧力が高まっているようです.これは日銀が上限とする0.25%程度を前に海外勢が国債売りを行っているためです.海外勢は2021年1にもオーストラリアでも同様な売り浴びせを行い,国債の利回り目標を撤廃させるのに成功しています.

海外勢による10年物国債の売り浴びせ

海外勢は円売りドル買いと日本国債の売りをコンボにしたポジションを積み上げています.これは円安を誘発することで日銀が長期金利の目標維持をやりにくくし,債券売りの効果を高める狙いです.
 
海外勢は今年3月に主に10年債を中心に2兆円売り越しました.これはひと月の売り越し額としては過去最大だそうです.2年物や30年物は買い越しており,日本国債全体の売りに回ったわけではないようです.狙い撃ちされているのは長期金利の指標になる新規発行の10年物に限られています.
 
これは日銀に現在行っている金融政策の柱であるYCC (Yield Curve control: 長短金利の操作のこと)を放棄させることだと考えられます.ご存知の通り日銀は現在もゼロ金利政策を継続中で,その手段としてYCCを採用し,21年3月以降は変動幅を±0.25%程度と明示しました.
今回の新規発行の10年物国債の売り浴びせはこの0.25%のタガを外すことが目的のようです.なぜならこれを突破できれば金利上昇に勢いがつき,海外勢は空売りした国債を買い戻すことで利益を稼げる可能性があるからです.
海外勢はすでに昨年のオーストラリア準備銀行との戦いでの成功体験があります.2021年10月,海外勢の売り浴びせによってオーストラリア準備銀行はYCCの金利変動幅目標を放棄する事態に追い込まれました.
 
日本の長期金利も米国債の金利上昇に引きづられる形で今年に入ってから3回上限を試しており,日銀はそのたびに指定した利回りで国債を無限に買い入れる指値オペ(公開市場操作)を行ってきました.
日銀は過去にも市場介入により海外勢の空売りを撃退してきましたが,今回は正直どうなるかわかりません.足元では急激な円安が進んで政府関係者や経団連からも輸入品の調達コスト上昇による悪い円安という発言が聞かれるようになりました.本来外国為替は市場が決定するものであり良いも悪いもないはずですが,おそらく世論形成を通して何かしらの政府による対策への支持を取り付けるのが狙いでしょう.
では日銀はこのままYCCを続けることが可能でしょうか?おそらくこの状態が続く限り円安が進行するのは止められないのでどこかの時点でYCCによる長期金利の変動幅を緩和するものと思われます.これは金融緩和政策をやめるわけではありませんが,日銀がYCCで市場に逆らって0.25%で指値オペによる金利抑制を行っても死のスライパルに陥るだけだからです.日経の記事を見る限りでは翌日物金利スワップ(OIS: Over night Index Swap)の0.4%前後で落ち着くと思われます.それでも日米の金利差は拡大を続けていくのでさらに金利が上昇することは避けられません.その場合は目標を定めずに市場介入を繰り返すかもしれません.
明日27日からは日銀の金融政策会合が始まります.今回は方針転換が起こるのかそれとも現状維持なのか日銀の金融政策に注目が集まっています.
 

日本の個人金融資産は動くか

円建ての個人金融資産がどれだけ動くかは当事者が日本国へどれだけ信任をもっているかでしょう.1000兆円といわれている家庭の金融資産が1%でも外貨建ての資産に流れれば円安は加速していくことは間違いありません.ただし,証券口座などを持っていない,作るのも躊躇するという世帯は日本の場合は相当数いるものと考えられます.この場合は日本人の何もしない,リスクを取らないという性向が逆に円安のデススパイラル抑止に働く可能性が高いです.そのため,なんとなく,どこかの時点で円安は止まるのではないかと予想しています.ただし,投資意識の高い若い世代がこの円安で危機意識をもって行動した場合は何かが起こる可能性もゼロではありません.

まとめ

今は外国為替市場で円安は一時的な調整を挟んでいる状態です.おそらく次の上昇に向かってエネルギーを蓄積してる段階でしょう.次の上昇がいつ始まるかはわかりません.GW開けになるのかそれとも夏までレンジ相場が続くかはこれからの市場の反応や参加者の行動次第でしょう.逆に日銀と財務省はすでに130円から140円代の円安は容認する姿勢なのかもしれません.起こりそうなケースは,これでも家庭の日本円による預金は動かず,年末ごろにはFRBの利上げも一服して今のネックラインである125円付近で落ち着くというシナリオです.2番目は海外勢の国債売り浴びせが成功し,日銀はYCCの変動許容幅を広げOIS付近で落ち着くシナリオです.この場合は国内の金利も若干上昇しますが,いきなり1%や2%上昇するわけではないのでダメージは大きくならないでしょう.海外勢は国債を買い戻して利益を挙げ,一時的にまた均衡状態に戻るのかもしれません.今回ばかりは日本人の何もしない行動原理が円安の救世主かもしれません(それほど信任が厚いというのはそれだけでも価値はあるかもしれませんね).
 

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