ゴキブリを概念ごと滅したい
身体が動かない。
意識はある。
寧ろ頭の回転はいつも以上に速い。
高速で回転している。
打開策を、過去の経験から現状を打破する策を模索しているのだ。だが肝心の身体が動かない。あれこれ策を思い付いても指先すら動こうとしない。
メデューサだ。
ギリシャ神話に登場する怪物。相手を石にする異能を持つ。目が合う事がトリガーだったか、視認、存在を認知した瞬間に石になってしまうのか、メデューサ側の匙加減だったかは覚えていないが、現に私は今、石にされている。
この"石化"を解く方法は2つある。
"制限時間"と"防衛本能"だ。
一定時間が経過する、もしくは奴が何か挙動を見せた瞬間に呪縛が解けこちらのターンとなる。
そしてそれ以降は石化にかかる事はない。
不可避の先制攻撃を持つ小さな黒い生物。
眼前に佇む現代のメデューサは依然として動く気配はない。臨戦体制ともとれる低姿勢のまま。初速だけで言えば自然界で最強とも謳われている"奴"は人間に置き換えると時速300kmに達すると言う。
あくまで"人間に置き換えると"だ。
そう、あくまでゴキブリ。虫なのだ。
たかが虫のゴキブリだが奴が持つチート級な不可避の先制攻撃。それが"石化"だ。
『対象の人物が自身の存在を認知した場合、一定時間その場に拘束し、行動の一切を禁ずる。この一定とは、対象となる相手の畏怖レベルに依存する。』
言語化するならばこういった内容だろう。
ちなみに私の畏怖レベルで換算すると拘束時間はおよそ6秒だ。
この永遠とも感じる6秒の間に思考を巡らせる。
"何故いつも夜に現れる?"
"コイツ1匹だけなのか?"
"周りに仲間も潜んでいるのではないか?"
見失ったらおしまいだ。
『側にいるかもしれない』と思うだけで気が気じゃなくなる。目が離せない。瞬きすらも許されない。
一体何秒経過しただろうか。
カサカサッ
奴が動く。
と、同時に呪縛が解ける…
ふぅ。
小説っぽくゴキブリを概念から滅したい話を書こうかとおもったんですけどどう考えても上手く書けないので日記っぽく書くことにします。
無理無理。普通に無理。加齢に比例して無理。
僕マンション住まいなんですけどそれでもたまに遭遇するんですよね。それが昨晩の話です。
何歳になっても耐性がつかない。遭遇した瞬間身体が硬直して首が攣った事もあります。死んだときに体液が出ると仲間が寄って来るかもしれないと思うとスプレーでしか交戦できませんし、『ゴキブリ並みの生命力』なんて比喩があるくらいだから簡単に死なないだろうと思ってほぼ1本使い切るくらい噴射してしまうのでコスパも最悪。
虫自体そもそも苦手なんですけどそれでも奴だけは本当に無理。もう本能が抗ってる。
たまにゴキブリに全く嫌悪感が無い人。素手で触れる人いるじゃないですか。『ゴキブリスレイヤー』って呼んでるんですけど、心底尊敬します。絶叫マシンに乗れる人。高い所が平気な人。夜道が怖くない人。どのスペックも足元にも及ばない。結婚する条件でスペックの中に”ゴキブリスレイヤー”も入れるべき。確実に求婚率が上がると断言します。
もし願いが3つ叶うなら世界平和と自然災害撲滅とG絶滅を心から願う。静電気消滅も捨てがたいが。
恨んでないけど先人に対して3点ほど物申したい事がある。いや、正直恨んでる。
・ゴキブリと命名した事
・1匹出ると100匹いるという説を唱えた事
・動く様子にカサカサという擬音を付けた事
何故こんなにも嫌悪感や恐怖心を抱いてしまうのか。たかが虫なのに。カブト虫やバッタやコオロギと変わらない。喧嘩しても絶対負けないのに。
そりゃ他にもきっしょい虫は山ほどいる。未だに見た事ない虫に出会う事もあるし。それでもやはり王。きしょ虫界の絶対王者。キングオブきしょ虫。風格からして違う。明らかに異質。ただ、そう思わせる要因はやっぱり上記3点のせいだと思う。
そう、これはヒューマンエラーなのです。
ではまず、なぜ『ゴキブリ』と命名してしまったのか。名前のインパクト強すぎ問題。『ブリ』はオノマトペですよね。しかもなんか汚いイメージのある音。濁音のチョイスも絶妙すぎる。『ゴ』て。地球上にこの4文字以上に身震いする名前はおそらく無いでしょう。
名前なんて何でもいいのに。ただの識別名なんだから。当の本人たちはその名前に自覚がないわけだし。ピョン吉よりも先に『ピョン吉』にしたり、プリキュアよりも先に『プリキュア』にしとけばここまで忌み嫌われてなかったかもしれない。
「うわ!ベランダにピョン吉や!」つって。
虫の名前って大抵は色や形、外見的特徴から名付けるのがセオリーのはず。じゃあ天才的ともいえるこの4文字はどこからきたのか。誰が付けたのか。
調べてみました。
どうやらゴキブリの名前は平安時代の『御器齧(ごきかぶり)』が由来のようです。”御器”ってのは当時かなり高級な器で貴族がご飯食べる時に使ってたらしい。そんで当時の貴族は完食せずにちょっと残すのがマナーとされていたらしい。そんでその残飯に夜な夜な群がっていたことで当時から忌み嫌われていたとか。
”ごきかぶり”でゴキブリか…
犯人おったわ。
え、何そのマナー。愚かすぎません?まずなんで高級な器を『御器』にしたん?ここがもし『如器(にょき)』だったとしたら今頃『ニョキブリ』になってたのに。いや、それはそれでキショいな。『N』扱いになるだけだ。
こっちは大問題。誰が”ちょっと残し”をしろと。なんという愚かなマナー。意味が全く分からない。下々に分け与える為だとかお腹いっぱいで満足してますよの合図だとか色々説があったけど、真相がどうであれ絶対に許容できない。お腹いっぱいなら口で言えばいいやん。
100歩譲る。1000歩譲る。ちょっと残しを許容したとして、何故すぐに片付けないのか。朝まで放置?高級な器カッピカピになるやん。水に付けんと取れんて。忌み嫌うくらいなら改善すれば良いのに。「なんか黒い虫が集っててキモいからご飯残すのやめん?」って誰か偉い人が言ってたら名前変わってたのでは?
次に【1匹出ると100匹いるという説を唱えた事】これも重罪。
そんなわけない。あり得ない。実際に100匹出くわした事がある人を見た事がない。1匹出ると100匹というのは2匹目が出た時に200匹になるのだろうか。それともその2匹目は100匹のうちの1匹なのだろうか。
そもそもゴキブリにはコロニーや家族といった"集団"はあるのだろうか。ならば納得が出来る。いつも遭遇する1匹2匹は偵察部隊、もしくは調達部隊なのであろう。蟻や蜂のように"役割"があるのだ。となると"女王"と呼ばれる存在もいるのだろうか。女王G。ダメだきしょ過ぎる。
ただ、これが本当なら偵察部隊や調達部隊を滅するのは非常にマズい。戦闘員が出てくるからだ。先鋒とは打って変わって好戦的であることは間違いない。単騎突入してくるのか、フォーメーションを組み作戦を企てるのか、となればコンビネーションも念頭におくべきか。いや、虫だった。所詮虫だった。こっちスプレーあった。致死量分かんないから1本丸々使っちゃうスプレー常備してた。
とはいえ軍で来られたらさすがに引っ越す羽目になるので調べてみました。
どうやらコロニーはあるとの事。そして100匹説はあながち間違ってはないとの事。(知りたくなかった)
1匹のメスは1年半ほどの寿命の中で1回につき22~28個の卵を15~20回近くも産卵するらしい。(多くて560個か…)その卵全部が成虫になるわけじゃないけど平均するとメス1匹が400匹以上に増える計算になるとの事。
…え、どういう計算?
比率バグってない?バグだけに。計算おかしいて。増え続けてない?100年後200年後何倍になる予定?あ、でも1年半で勝手に死ぬのか。上手くできてるな。ていうかゴキブリって寿命あるのか。しかもめちゃくちゃ短いし。アイツらの死因に"老衰"があるとは。
しかも、昆虫って基本卵からふ化した後は幼虫→サナギ→成虫に変態するのに奴らは脱皮を繰り返すだけで成虫になるらしい。きしょ
まさかアイツらにチームがあったとは…
調べなきゃ良かった…
もうなんかきしょ過ぎて途中で調べるのやめました。
最後、【動く様子にカサカサという擬音を付けた事】これまじほんと誰。
どこの天才が閃いたん。
絶妙すぎる。激強な名前とは打って変わって『カ』と『サ』というあえて濁音を使わない爽やかなイメージのある音でドンピシャに嵌めるとは。爽やかな音を台無しにする逆ファインプレー。
カサカサとか絶対そんな音出てないでしょ。他の虫と同じはずでしょ。でもカサカサ感は物凄く分かる。他の虫でカサカサなんて擬音使わないしカサカサといえばみんな奴が頭に浮かぶ。もう専売特許になってるんですよ。
そう、唯一無二になってるからこそ元々の気持ち悪さの先入観も相まって嫌悪感に拍車がかかるんですよね。これがピョコピョコだったりヒラヒラだったら少しは緩和されてたかもしれないのに。
例によって調べてみました。
どうやら本当にカサカサと音を出しているらしい。
奴らの足に生えてる無数の棘が擦り合う時にカサカサという音が出ているとの事。
あのスネ毛か。
正直ゴキブリのビジュアルで何が無理ってあのスネ毛ですよね。もし奴のスネがつるっつるだったら嫌われてなかったかもしれないレベルにキモい。何のためにあんなに毛が生えてるのか。壁を這う為なら指先だけでいいでしょうに。寒さ対策かな。しかしなるほど、あれが擦り合ってそんな音がでてるのか…
いや、本当に?カサカサ鳴ってる?耳を澄ます余裕はないから実際に聞くことは一生ないと思うけど。本当にカサカサ鳴ってるなら天才でもなんでもなかったな。ただの事実か。
以上3点ほど先人にモノ申したい話でしたが、生態を知れば知るほど3点なんて関係なく忌み嫌われて然るべきな生物ですね、やはり。
そんなゴキブリのルーツもついでに調べました。
ゴキブリが地球上に出現したのは、およそ3億年前との事。ひぇ〜。出現…出現て何情報なんだろう。化石?
だって人類の始まりは20万年前ですよね?3億は盛ってそうだな〜。しかも出現って事は誕生ではないって事ですよね。ならもっと前からいたのかな。
そしてびっくりなのがゴキブリは出現した時から今の今まで姿、形が変わってないとの事。3億年前から既に完成された個体なんですよ。3億年もの間に起こった様々な環境の変化に耐えられるんだからそりゃ生命力えげつないのも分かりますよね。首から先を切断しても動くらしいし。うげ。
でもそんなあらゆる状態変化に対する耐性を備えた身体をいとも簡単に滅する特化型スプレーを開発する人間もまた恐ろしい。いや、素晴らしい。長き闘いだったんだなと。ようやく弱点たるものを見出せたんだなと。深く感謝申し上げます。
ちょっと気になる事あるんですけど、
平安時代の前は何て呼んでたんだろ?
3億年前は?
ちょいちょい名前が変わって今の"ゴキブリ"に落ち着いたのかな?
学名はいつ誰が付けたんだろう?
最後に調べました。もうこれが最後。
検索履歴にこれ以上ゴキブリ増やしたくない。
学名ってのは動物や植物に新しい種類として区別する為に名付ける事です。本当の意味での名付け親ですね。この名付け方に制約というかルールがあって、「属名」と「種小名(しゅしょうめい)」が必要との事。苗字と名前みたいですね。
基本ラテン語で住みや特徴から名付けるらしいけど、ギリシャ神話にちなんだり、かっこよくてお洒落だったりするとの事。
そんなゴキブリの学名は
『ペリプラネタ・フリギノーサ』
おぉなんかお洒落。
BLEACHのエスパーダにいそう。
どうやら18世紀の有名な生物学者が名付けたらしいです。
意味は『地球上のどこにでもいる黒いやつ』
むちゃくちゃ適当。
さすがに可哀想やな。ぞんざいに扱われすぎてちょっと同情する。
まぁでも、害虫ですもんね。存在が病原体の塊な時点でそりゃ駄目ですよね。たとえ見た目がどれだけ綺麗だったとしても住まいが下水道や汚水槽では心許される日は一生来ませんよ。ペリプラネタ・フリギノーサさん。
世界中から忌み嫌われるペリフリさん。
貴方も実は伸び伸びと公園でバッタや蝶々と遊びたいのではないですか?
我々に好かれたいなら先ずその腐ったマインドから変えないと。
空気の綺麗なところに住み、何でも食べるのではなく栄養のある”食べ物”だけを食べ、いきなりスタートダッシュをするのではなく1歩1歩ちゃんと歩き、ドアの隙間や排気口から不法侵入せずにちゃんと断りを入れ、スネ毛を全部剃る。
そうやって生まれ変わった貴方と対峙した時、おそらく石化の能力は失われているでしょう。
私は秒でスプレーぶっかけます。
1本まるまると。
ありがとうございました。
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