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第9回毎月短歌 現代語・自由詠部門よりいいなーと思った短歌9首

こんにちは、鈴木ベルキです。
第9回毎月短歌 現代語自由詠部門の中から、いいなーと思った短歌9首を紹介します。たくさんの作品を読ませていただくことで、短歌の良さを改めて感じることができました。ありがとうございました!
(敬称略)


みずからを風の化身と心得てチェロがわたしに示した未来/佐竹紫円

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風の化身という表現に惹かれた。
弦楽器は弦を振るわせて音を増幅し、奏でられた曲は空気を振るわせながら人間の耳に届く。
そんなチェロが示した未来とはどんなものだろうか。温かで包み込むようなやさしい未来であってほしいと思った。
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ふたりして生活時間がちぐはぐでメロンが二個も冷やされている/久我山景色

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ふたりというのは主体とパートナーのことと読んだ。
「ちぐはぐで」、「冷やされている」一見ネガティブな言葉が続くが、それぞれが思いやりながら一緒に食べようと思って買ってきたメロンが実はお互いがそう思って用意したものと読むとなんて可愛らしいふたりなのかと思う。
二個も冷やされているということは、冷蔵庫に入る小ぶりのメロンが二つあるのだろう。それも冷やして美味しく食べるために。
ジューシーな果肉をもつメロン、それが二つ並んで収まっているイメージがきれいだ。
今はちぐはぐな生活時間かもしれないが仲良く寄り添うふたりがずっと続いていくように感じた。
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ドリップの落ちゆく音を聴くために息をひそめる雨の日のカフェ/くらたか湖春

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ドリップコーヒーは注ぎ口の細いコーヒーポットでお湯を落としつつ、だんだんと音の間隔は広がりながら最後はぽたぽたと落ちていく。
静かな静かな一日。店内もきっと静かなんだろう。他にお客さんもいないのかもしれない。
静かな音に注目するところから、息をひそめている主体、そしてそれが雨の日のカフェであるという場所、だんだんとズームアウトしていく視点に美しさを感じた。
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何もしなかったことすら間違いで冷たいバニラアイスが甘い/短歌パンダ

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何かをすれば間違いであることがあって、だから何もしなかったのに、それさえも間違いだった。どうすればよかったのか。
なかなかうまくいかない日というのはある。
アイスは冷たいし、バニラアイスは甘い。その通りだ。それはそうだよな……と一周回ってまた後悔しているように思った。
あたりまえのことを、あたりまえと突きつけられる時の不甲斐なさを感じられて、好きだった。
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ベランダにカメムシの死が落ちている最後は自分を固く抱いて/琴里梨央

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死んだカメムシではなく「死が落ちている」というところに怖さを感じた。
死であると認識することを通して、主体とともに痛烈に死の追体験をしているように思う。
実際の生死に限らず、何かに挑戦して辞めることもまた死に例えられることがある。
いつかは自分も(誰しも)死が訪れる。自分だったらどんな最後になるだろうか。
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花束は朽ちてゆくだけ あなたとは春の野原で話がしたい/杏

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花束は一瞬の美しさを集めるでもやがて枯れてゆくもの。一方で春の野原は生命に満ちた植物で覆われている。
シンプルな分、願望が力強い。
「あなたとは」と限定されることで、この野原には二人しかいないように思えて幻想的な希望を感じた。
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Tシャツのヘヴィメタロゴが強すぎて君の感じがつかめなくなる/唯有(ゆう)

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主体にとってヘヴィメタロゴを着る君は想定外で、え?こんな人だったの?と意外に思っているのだろう。
ちょっとした驚きを感じる具体としてヘヴィメタロゴが抜群にいい。
君の感じという大雑把な掴み方も面白い。
普段は真面目なのかなあ。そういうギャップのある姿には魅力を感じてしまうこともあるかもしれない。
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まず神が宇宙を創り子どもらが完璧な泥団子を作る/白鳥

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唐突で壮大で大胆な省略がとても面白い。神が宇宙を作らなければ、泥団子も作られない。しかも完璧な。
泥団子の中に、また新たな宇宙があるのだろう。
「完璧な」が子どもらが作る泥団子にかかっているのも考えさせられる。
子どもらの方が、完璧なものを作れるのだ。神が創った(とされる)この宇宙において他に完璧なものはないのだろう。
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五列目の石並べ終え見上げれば空ばっかりになっていた空/塩本抄

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なかなか決着がつかない五目並べをしていた。終わってみれば時間は遠くすぎていて、ということなのだろう。
白熱した戦いだったようだ。
五列目の石を並べて勝利をした主体が空を見上げる。
五目並べで勝利して噛み締めるように空を見上げる姿も少しおかしみがあるが、空の把握の表現も面白い。
空ばっかりになっていた空とは、何もない空間が広がっていて、空っぽい空なのだ。
これまでずっと石を並べ合い見つめていた盤上と違って、空間が多くある。
世界の見え方が変わってしまう一瞬が切り取られている。
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以上となります。
お読みいただきありがとうございました!

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