見出し画像

レインカープ:後編【NFシリーズ】

この記事は後編になります。前編はこちらから↓

<前編のあらすじ>宇宙維持局捜査官、孤島アツシ。彼の任務は地球に侵入した超常的存在(ナンセンス)を拘束または殲滅すること。そんな彼が事務所でくつろいでいると久々にナンセンス反応のサイレンが鳴る。大雨という悪天候で気分の乗らない中現場へ向かうとそこにいたのはカエルのような顔をした宇宙生物の子供だった。そして何やら怪しい男も現れて......?


-3-

「宇宙維持局だと!? 」

男は明らかに焦っていた。何も言わずともわかる。何でこんなところにお前みたいなやつがいるんだ!という顔をしている。俺はパルジニアを庇うようにして一歩前へ出る。

「それで?アンタはこいつが目当てなのか?事と次第によってはタダじゃおかねぇ」

「捜査官風情が何を偉そうに。 そもそもそいつは元々私の売り物だ!とっとと返してもらおうか」

パルジニアの顔を見ると目を潤ませてふるふると首を横に降っている。

「こいつは嫌がっているみたいだが? 」

「知ったことか!ええい、捜査官相手に擬態をする理由もない。てい! 」

男は奇声をあげるとその奇怪な正体を現した。ずんぐりむっくりなシルエットはさほど変わらず、縞のような模様と丸いシルエットが合間ってピエロのようだ。両腕は布のように伸びており、顔には大きなくぼみがあり、目と思われる発光体がぼんやりと浮いている。こいつ手配書で見たことがある気がするな。ええと、なんて言ったか......。

「我が名は怪獣ブローカー、ブリーファス星人ユーツだ! 」

そうだ、ブリーファス星人。名乗ってくれて助かった。確か怪獣売買の仲介を生業としている有名な宇宙人で、宇宙中で指名手配されている凶悪犯だ。これで何となーく話が見えてきた。つまりはパルジニアは元々奴のところにいたが目を盗んで逃げ出し、たどり着いたのがこの公園だったというわけか。

などと考えを巡らせてるうちに奴の布の様な腕がシュルリと伸び、俺の横を通り過ぎてパルジニアを捕らえた。しまった。

「こいつは世にも珍しい大雨を降らせる怪獣だ。天候を操れるという神にも等しい能力。貴様には到底理解できないほどのニーズがあるのだ! 」

「そうかい。でも俺もそう易々とそいつを渡すわけには行かねぇ。名前を聞いた仲だからな」


-4-

俺は腰に手をやり、メリケン状の光線銃を構えた。ブリーファス星人はすかさずパルジニアを盾にする。

「おっと、分かっているだろうが引き金を引けばこいつもろとも撃ち抜くことになるぞ? 」

こうなるだろうことは予想していた。しかしどうする。どうやって突破する。考え始めると動きが止まるのが俺の悪い癖だ。どうもこうもない。ここはアイツに賭けてみよう。俺は銃を構えたまま呼びかける。

「パルジニア!さっきの言葉訂正するぜ」

パルジニアは突然呼びかけられたことに目を丸くする。

「俺は雨が嫌いだが好きなところもある。それはな、あの音を聞いているとよく眠れるところだ。それにだ。雨が降った後には虹が架かるだろう?あれの美しさと言ったらないぜ? 」

パルジニアの大きな目はウルウルと潤んでいく。

「黙れ!」

ブリーファス星人が遮るようにして言葉を発したが俺はかまわず続ける。

「つまりだな、悪い面しか見えないようなモンでも見方を変えれば必ず良いところってのがあるんだ。だからもっと自信を持てよ!そんな奴に捕まってる場合じゃないだろ?」

「撃つのか撃たないのかはっきりしろ! 」

ブリーファス星人が声を荒げる。すると覚悟を決めたパルジニアは奴の方へとくるっと向き直る。そして口を大きく開けると、奴の顔を長い舌でベロンと舐め上げた。思わず怯んだブリーファス星人は腕をほどいてしまい、パルジニアはその隙に逃げ出した。

「撃つに決まってんだろ! 」

俺は左脚を大きく踏み込むと同時に銃を構えた右手を勢いよく突き出す。そして撃ち出された弾丸はブリーファス星人のど真ん中をぶち抜いた。

「貴様!こんな事をしてタダで済むと......」

「うるせェ」

念入りにもう一発撃ち込んだ。ブリーファス星人は爆散した。


-5-

「コトー、ありがとう」

パルジニアの目はキラキラと輝いている。さっきまでのこいつとは明確に何かが変わったような気がする。

「何言ってんだ。お前が勝手に勇気を出して勝手に助かっただけだろ。俺は何もしてない」

俺はそう言ってジャケットからカードを取り出す。そしてパルジニアに手渡した。これはワープキーと呼ばれるものだ。

「これを使えば俺の仲間のところにワープできる。あいつらならきっとお前の力になってくれるはずだ」

パルジニアは目をキラキラと輝かせ両手でカードを受け取った。

「至れり尽くせりだね!」

「そんな言葉知ってんのな。あ、カードは手のひらをかざせば使えるぜ」

パルジニアはゆっくり頷くと、ヌルヌルとした右手にかざす。すると空から光の柱が降り注ぎパルジニアを包んだ。

「コトー、君はぼくの友達だよ!」

光に包まれながらパルジニアはゆっくり手を振る。

「おう、またな!」

俺は親指を立てて応えた。そうしている間にパルジニアは光とともに姿を消した。

あいつが居なくなった途端、世界は急に静寂に包まれる。雨が止んだのだ。なるほどそうか、この嵐もあいつの能力によるものだったってわけか。

空を覆っていた厚い雲が晴れ青空が広がる。そして大きな虹が空に架かった。その美しさについつい見惚れてしまう。そうそうこれだ。たまにはこういうのも悪くない。

あいつを案内した先は宇宙維持局の怪獣保護部門だ。あいつと似た様な境遇の奴がわんさかいるはずで、きっと友達もできるだろう。穏やかで人懐っこいあいつのことだ。きっとどんな所へ行っても上手くやれるだろう。

「もう傘も必要無くなっちまったな。さて、帰るか」

「誰にだって輝ける場所はきっとある。今いるところが最善だとは限らない」これは俺がむかし人に言われた言葉だ。つまりさっきパルジニアに言ったことだってそれの受け売りってことだ。俺は誰かに講釈をたれるほど偉くない。

俺の薄っぺらな言葉があいつに響いて、あいつが行動を起こせた。ただそれだけのことだ。

よし、今日は何だか気分がいい。まだまだ昼過ぎだが、コンビニでおでんと缶ビールを買って事務所に戻るとしよう。俺しか居ないから誰に怒られるでもない。こんな事ばっかしてるとまたあのガキんちょに「ダメ大人」って言われちまいそうだ。

「ま、いいか」

そう、俺はまっすぐな男だ。一度決めたことは最後までやり遂げる。こうして俺はコンビニへと足を進めるのだった。

-fin-

最後まで読んでいただきありがとうございます!よろしければ設定集もどうぞ!


もしサポートをしていただけたらゐするぎの生活が少しだけ豊かになって、記事として還元されます。気が向いたらぜひ......