天文学と機械学習について

こんにちは、天文学の大学院生をやっているものです。この記事は宇宙関連 Advent Calendar 2020の12月15日の記事です。

最近、地球観測衛星データに機械学習を組み合わせるという話はよく聞きますが、同様に天文学でも機械学習を使っている人たちがとても増えている気がします。

そこで、今回は天文学で機械学習がどのように使われているかを軽くまとめてみました。ここで紹介している例はごくごく一部ですのでご了承ください!

1. 様々な天体現象の分類
宇宙では今でもたくさんの爆発現象が起きています。太陽フレア、星の最期の爆発である超新星爆発やガンマ線バーストなどなど。

画像1

(超新星爆発の残骸:  クレジット: NASA, ESA, J. HESTER AND A. LOLL)

今は観測装置がとても高性能で、毎日数えきれないほどの爆発現象が見つかります。これらのデータを全て目で見て種類を分類しようとすると、とてもとても手が追いつきません。

そこで機械学習を用いることにより、これらの大量の天体が自動で分類されるようになってきています。これにより、”面白そうな”天体を選択的に観測することが可能となります。

ちなみに高精度の分類手法がKaggleでのコンぺで募られていたりもします!天文学でもKaggleが利用されるようになってきているのですね。
PLAsTiCC Astronomical Classification

●関連論文、資料例
Photometric classification of Hyper Suprime-Cam transients using machine learning 
Using machine learning for transient classification in searches for gravitational-wave counterparts 
「機械学習と宇宙論」

2. 数値計算の高速化
天体現象を理解するために、しばしば高性能なコンピュターを用いて数値計算を行います (富岳などのスパコンを使うことも!)。

画像2

(銀河からの物体の噴出に関する数値計算の例: José-María Martí (2019)より引用)

このような数値計算は、しばしば計算にとても時間が掛かります(一つの計算に何ヶ月も掛かることはざら...)。そのような計算を高速化するために機械学習が使われることがあります。

具体的には、たくさんの数値計算の結果をニューラルネットワークに学習させることにより、新しい数値計算の結果を予測させます。これにより、途方もなく計算が掛かるような計算も、桁違いに早く行うことができたりするようです。

●関連論文例
Newton vs the machine: solving the chaotic three-body problem using deep neural networks
Supernova Photometric Classification Pipelines Trained on Spectroscopically Classified Supernovae from the Pan-STARRS1 Medium-deep Survey 

3. ノイズ除去
地球観測衛星データと同様に、天文のデータも多くのノイズが混ざっています。データから意味のある結果を得るために、これらのノイズを除去、軽減することがとても重要になります。

このノイズの除去に機械学習が用いられることがあります。以下は銀河の分布を表すデータから、GANを用いてノイズを低減した例です。

画像3

(吉田直紀氏のスライド「機械学習と宇宙論」より引用)

これは地球観測衛星データにも応用できそうですね!

●関連論文例
Learning to Denoise Astronomical Images with U-nets
Deep learning for intensity mapping observations: component extraction

4. 物理法則自体の導出
個人的に結構面白いなと思うのがコレです。これまでケプラー、ニュートン、アインシュタインなど様々物理学者が頭を悩ませながら、物理法則を見つけてきました。

画像4

  (時空を記述するアインシュタイン方程式)

これらの物理法則を機械学習によって見つけようじゃないか、という研究が行われています。より具体的に言うと、ある物理法則に従うようなデータを学習させて、逆にその物理法則自体を機械に予測させるということです。

以下の一つ目の論文は、教科書にある100つの物理法則全てを機械によって見つけたという内容になっています。

二つ目の記事は地球からみた火星と太陽の位置をニューラルネットワークに学習データとして与えることにより、機械が天動説ではなく地動説的な解釈を導き出したと言う研究です。AIが地道説を”発見”したと言うことで一時期メディアを賑やかしていました。

●関連論文、記事例
AI Feynman: a Physics-Inspired Method for Symbolic Regression
AI Copernicus ‘discovers’ that Earth orbits the Sun

以上、素人なりにつらつらとまとめてみました。地球観測衛星データでも多分似たような研究はたくさんあるんだろうなぁと思います。今後も分野を問わず、機械学習の研究、利用は広がりそうですね。