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no.13【小さな事故】義母とふたり

ある土曜日のこと。
私は仕事が休みで、夫は義母を私に預けて、自分の買い物へと出かけた。
わずかでもリフレッシュしてほしいと思う。
というわけで、家には、義母と義父と私、それと犬一匹が残った。

基本、義父には義母と同じ部屋で過ごしてもらっている。義父には義母の様子を見るという役目があるのだ。
土曜日のお昼までの時間が好きだ。WOWOWのTVドラマを観たり、YouTubeを見たりしながら、遅めの朝食。

台所の片づけをささっと済ませて、コーヒーを淹れる。
ささやかな至福のひととき。
図書館で借りた本を手に、こたつに滑り込んで、足をぐーんと伸ばす。

おっとっと、こたつの中にいた、飼い犬のmダックス(男の子)にぶつかってしまった。
私「ごめん、ごめん、よしよし」
犬「僕はだいじょうぶだよ、気にしないで(ペロペロ)。お母さん、毎日ご苦労さま(ペロペロ)」
と言ったかどうかは不明w 。

膝に乗せ、彼の頭やなが〜い胴体を撫でていると本当に癒される。
動物は邪気がなくて良いわ。

あれ?人の声がした?耳を澄ましてみる。
一応、部屋の戸をあけて、頭だけ廊下に出してみる。
そしてまた、耳を澄ます。
「助けてぇ」と、泣くような声がする。義母の声だ。
義父は、何をしている!?

義母の部屋を開ける。
どうしてそうなったのか、義母の頭がベッドの柵に押し付けられている。
食後はリクライニングを調節し、しばらく上体を起こした状態にしている。そのせいであろう、手前(柵のある側)に上半身が滑り込んでいて、
頭が柵に押し付けられている格好だ。

義母は泣くように「痛い、痛い」と言う。
痛いと思う。
人の気配を感じたからのか、声が大きくなる。
義父の姿はない。
黙って出かけたのだ。まったく。

体をベッドの真ん中にずらせばよいのだろうけど、まず、頭をどうしよう。もしかしたら、柵に食い込んでいる?
う〜重たい。頭だけ動かすのは難しい。

私 「なんでこうなったの?(自問自答)」
義母「痛い、痛い...」
私 「ちょっと待って」
義母「痛い、痛い、助けてください」

施設から戻った義母、なぜか常に標準語である。

義母「そこにあるお金、全部あげますから、助けてください」
痛みで表情が歪んでいる。
義母「お金なら全部あげます。お願いします、お願いします」

なんだか、無性に腹が立ってくる。
普通に助けようとしているのに、とても嫌な気持ちになる。
それに、お金はない。もうないのに。
封印していた複雑な思いが復活しそうになる。

どのくらい時間が経っただろう。
夫が帰ってきた。良かった。夫が義母の体を中央にずらしてくれた。

次に、ヘルパーさんから習った方法を試す。
頭の側へ周り、柵にお腹をあて、体重を預けて、義母の腋に手を回し、「せいのっ」で引きずりあげる。
関節に拘縮があるため、むずかしい。
二人がかりで何とかなった。あぶなかった。

「そこにあるお金、全部あげますから、助けてください」って、
義母のこういうところが、嫌いだった。久々にざわざわとした。

翌日、しまむらで椅子用の座布団を2枚購入。
2枚並べて柵につけた。(ヘルパーさんに教わった)
食事のあと、しばらくしたら、ベッドのリクライニングを水平に戻すのを忘れないようにしなくては。
こうして、義母の頭は守られたのであった。

在宅介護*観察日記『義母帰る』


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