乳母車
ある昼下がりのこと
彼が交差点で信号待ちしていると
乳母車を押す若い女性が
彼の隣に来た
彼はさぞ、可愛い赤ちゃんがいるのだと
思って乳母車の中を覗いてみると
そこには可愛いらしい女の子の
人形、どこか外国風の
彼は思った
きっと、この女性は自分の赤ちゃんを
不幸にも亡くしてしまったのだ
だから代わりに人形を乗せて
彼は憐れみを感じながらも
何か、いたたまれなくなり
信号が青に変わると
急いで向こうに渡っていった
乳母車を押す若い女性は
ゆっくりと横断歩道を渡る
そして乳母車の中を
覗きこみながら言った
「早く、おうちに帰って
おやつ食べましょうね」
「うん、それよりママ、さっきの人
わたしのこと見て、びっくりしてたよ
変な人だね」
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