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時代の中で変わるものと変わらぬもの~童話は大変だ

遥かな昔、世の中をなにも知らず自分の生き方にすら無自覚だった頃、大学の授業で「おとぎばなしについて」という特別講義を受けたことがある。

当時わりと有名な先生が担当しておられたので、雰囲気で受講したその講義の教科書はシャルル・ペローの「眠れる森の美女」というものだった。講義の内容はもう覚えていないがその教科書は今も私の本棚にある。あの時から35年はたっているのにまだ美しい装丁のままで。

ところで今日テーマにしたい童話はシャルル・ペローのものではない。それは数年前に亡くなった北杜夫という作家の童話「船乗りクプクプの冒険」についてである。

実は昨今のあわただしい世相についてなにか記事でも書こうとして大好きな北杜夫の作品を取り出してみたのだ。そして一通り読み直してみた。するとどうだろう。今の私が書きたい記事のサポートとしてこの童話は使えないことが明らかになってしまった。

無論のこと私は北杜夫を一生宣伝していくと決めているので機会があればまた考えたいという気持ちはある。しかし、この作品のマチエールは昭和40年代の考え方をあまりにも生々しく反映している。なにより日本語の作品であるから言葉を別な訳語に置き換えることができないので残念である。

今日私が知ったことは「おとぎばなし」というのはやはり千年の時の流れに洗われた普遍的なエッセンスにその時代のひと滴を加えることにより、より多くのひとに愛されて残っていくものになる定めであるらしいということである。

とはいえ「船乗りクプクプの冒険」が一番いいたいことは「人間らしさとは知的であることを愛しつつもただ効率だけに生きないことにある」ということであろう。そして、「ユーモアを大切にすること」と「いざというときには勇気を示すこと」はかけがえのないひととしての美点であるということであろう。私にとってこの作品はやはり珠玉の童話である。

幸いにして今のひとびとはその作品が書かれた時代や背景、歴史や風俗、使われていた言葉などをそんなに苦労しなくてもざっと調べることができる。そういう労を厭わない若人には「船乗りクプクプの冒険」は今もぜひ読んでいただきたい童話である。

60年近い記憶を持つ☆

パナセァ

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