名前
忘れ物が多くて、冷蔵庫の上のメモをまた置き忘れてしまう。メモには、たぶんかわいそうな台風について書いていた。でも書いたことをほぼ忘れているので憶測でしか書くことができない。
台風が生まれると名前がつけられる。っぽい
その名前はたいてい女性名。っぽい。かわいくみえるから?
そして、その台風発生場所の近くの地域の女性っぽい地名。っぽい
人が大量に死ぬような甚大な被害をもたらすと、名前を消される。っぽい
マリア、は消されなかった。っぽい
いっそ気まぐれに現れてくれれば、名前を付けられたり消されたりもしないのになと、メモを書いていたと思う。
人間は忙しいから、名前がそのものから離れたとき、忘れ去られることができるのかな、と思う。
レベッカ・ブラウン『体の贈り物』のなかに「動きの贈り物」という短編があって、「エドがスタスタと出ていった」というシーンがあって、その言葉に磁力のように引き寄せられ離される。エドはエドのままでどこかで生きており、まわりもいつまでも生きていると信じている。エドは人間だけど、「贈り物」なのだ。
名前は、台風や物語を見送ったり、捕らえたりする。台風だって行方不明になりたいし、物語だってとどまりたい。のにな。
っぽい
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