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【連載小説】「恋するスピリチュアル」⑳~お姫様抱っこ、からの、ぐるぐる


有名作家の審査員に、
自分の作品をけなされて、公衆の面前で馬鹿にされた私は、力なく立ち上がった。
会がお開きになったからだ。
けれど、私の心の中には、冷たい北風が吹いていた。
一刻も早く、この場から立ち去りたかった。

「あ、いたいた」
その時、私に声をかけてきた人たちがいた。

男性二人組で、私を見ると、慌てて背広の内ポケットから名刺を取り出した。

「私、文壇社の者です。いやあ、あの作品は面白かった。
良かったら、こちらにご連絡ください」

見ると、〝文芸部編集長〟と書いてあるではないか!?
私は仰天した。

文壇社とは、その賞の協賛で、出版社の大手だった。
しかも、そこの編集長から、直々に声がかかったのだ。

私は、あまりの事に、呆けた顔でいたと思う。

本当に…?本当に、私でいいの…?

私は戸惑っていた。
さっきまで、審査委員の一人に、酷評されて、気持ちが落ち込んでいたのに、
まさか、そんな私に声が掛かるなんて…。

にわかには信じられない気持ちだった。

帰り道、私は、会場のホテルから駅まで、道に迷った。
慣れない場所だったということもあるが、まるで夢心地、足元もおぼつかなかったからだ。
木枯らしの吹く中、同じところを何度も歩きながら、それでも気持ちは晴れやかだった。
踊り出したい気分だった。

いや、実際にステップを踏んでいたのかも……。

〝ようやく、私も認められた!〟

私は、頭上に上る月に、そう叫びたい気持ちだった。

つづく


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