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「10代の脳」  / 読書report

NHKスペシャルにて、”思春期の脳に何が起きているのか?”というようなテーマで番組を組んでおり、それをきっかけに、この本にたどり着いた。

脳でどういうことが起こっているのかについてはある程度学んでいたが、
思春期の脳が特殊である、などという話は初めて聞いた。
昔は、脳は10歳で完成する、と言われていたそうだが、最近の知見では10歳でもまだまだ未完成らしい。しかしそもそも「脳がどのように成長するか」についての知識がなかった私については、とても興味深い本だった。発達心理学は学んでいても、「脳の発達」という観点は学んでこなかったからだ。

思春期の脳の大きな特徴は、「前頭葉が成熟していない」「前頭葉と他の領域とのつながりが弱い」ということだそうだ。

なぜティーンは感情の起伏が激しく、イライラしがちで衝動的でカッとしやすいのか。なぜ集中力や根気に欠けるのか、なぜドラッグやアルコールの誘惑に弱く、危険な行動に走りやすいのか……
すべては前頭葉の未成熟さとつながりの弱さが原因なのだ、と著者は断言する。前頭葉やそのつながりが完成するのは、何と、30歳を過ぎてからなのだそうだ。

例えば、若者は恐怖を感じた時に合理的な判断をすることがとても難しい。その結果、悲惨な事件が起きやすくなる。それは、扁桃体と前頭葉とのアクセスができていないからだ。とは言えその辺りは、小児期の子どもと同じだ。しかし小児期の子よりも「手におえない」と感じるのは何故か?

それは誰もが考えるように、彼らが「反抗期」だからだろう。

ではなぜ「反抗期」が現れるのか?

その答の一つは、ホルモンの濃度なのだそうだ。
少女のエストロゲンとプロゲステロンは「気分」をコントロールする脳内物質と関連しているし、少年のテストステロンを受け取る受容体は、「闘争・逃走反応」をコントロールする扁桃体だ。そういったホルモンの濃度が成人並みになるにも関わらず、彼等はホルモンへの耐性あるいは対処が十分にできないため、過剰に反応してしまう、ということらしい。

また、青年期は飛躍的に能力が成長する時期である。つまり、脳の働きが非常に活発だし、報酬と興奮をコントロールする脳のシステムも未熟で過敏なので、理性的な助言を聞き入れず、リスクの高い行動を取ってしまう。

こうして並べてみると非常に混乱に満ちた大変な時期だなと思う。
本人にとっても周りにとっても、自分を振り返ってみても。

この本は当事者である親に向かって書かれているが、親にとって朗報なのは、10代の子が無分別なことをしでかしたからと言って、いたずらに自分を責めなくてもよい、ということだろう。彼等の「問題行動」は脳の未成熟によるものが大きいのだから!

ただし、一方で、障害児の施設の比較から「脳への刺激があるかないか」という意味で環境は脳の発達にとって重要である、とも言っているし、虐待を受けたことのある若者の脳は前頭葉の発達に問題がある、とも言っているので、ある程度育て方によるものも含まれる、というのも確かなのだ。

つまりは、「普通の家庭で普通程度の愛情を受けて育った場合」…極端に過酷な環境で育ったのではない限り、基本的には育て方の問題ではない、と考えてよいだろう、ということだと思う。

普段、仕事で親の話を聴いていると、細かいところで「その接し方はどうなんだろうか」と考えてしまうが、子どもの状態は親の接し方の結果ではないのだから、今、我が子に何が起こっているかを一緒に理解し、どうしてやれば我が子の混乱を落ち着かせられるか…といった、協力的スタンスを作っていくことを大事にした方がよいと改めて思った。


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