マガジンのカバー画像

fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

26
イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2…
運営しているクリエイター

#イベントレポ

ショートショートバトルVol.5〜「ハバナ・モヒート」南軍(稲羽白菟、最東対地)

(お題:残り香)(ムード:ワクワク) 【第1章 稲羽白菟】 【注】  ここに書かれる歴史・人物・団体は全て、作者が描くこの小説世界上の「設定」であって、いかなる実際の事件・出来事と関係はない。 『ハバナ・モヒート』  一  ハバナはカリブ海に浮かぶ小さな島国、キューバ共和国の首都である。  読者諸兄にとって、この北米と南米、二つの巨大な大陸に挟まれたラテン系の太暖かな小国ーーしかし、ある事情によって東西冷戦時、東側陣営「共産国家」側に立つこととなり、西側陣営のボ

ショートショートバトルVol.5〜「ハバナ・モヒート」北軍(円城寺正市、遠野九重)

(お題:靴ずれ)(ムード:ワクワク) 【第1章 円城寺正市】  夜は青。  凪いだ水面に月の道。  暑さにパーティを抜け出し、僕は、バルコニーから海を望む。  サルサの響くアカプルコの夜。  僕が日本から逃げ出して、もう何年が経っただろう。  現地で妻を娶(めと)り、一緒付き合えると思える友もできた。僕はこのままカリブの海を眺めながら年老いていくのだろう。  悪くない人生だとは思う。 「あなた、モヒートはどう? ハバナモヒート」  背後から妻がそう声をかけてくる。

ショートショートバトルVol.5〜「虹色のパレード」東軍(尼野ゆたか、川越宗一、木下昌輝)

(お題:パンデミック)(ムード:ウキウキ) 【第1章 尼野ゆたか】 これは、俗に言う関ヶ原の戦いで用いられたとされる奇策「七色の陣」が実在したかどうか一次史料を元に調査し、物語の形で復元したものである。 ーーーーーーーー 「なぜだ」  宇喜多秀家は、目の前の男に問うた。 「お主が未来を見るものであることについては、最早疑いはない。今まで、全てお主はのちに起こることを言い当ててきた。ならば、なぜだ」  その表情には、深い苦悩がある。  豊臣秀吉に後事を託された、

ショートショートバトルVol.5〜「虹色のパレード」西軍(延野正行、もやし炒め、今村昌弘)

(お題:引越し)(ムード:ウキウキ) 【第1章 延野正行】  その王国には、七つの種族がいた。  1つは赤の一族。赤い肌と赤い髪を持ち、暖かい場所を好む種族である。  2つめは橙の一族。橙色の肌と橙色の髪を持ち、目立ちたがり屋が多い。  3つめは黄の一族。黄色の肌と黄色の髪を持ち、好物はカレー。  4つめは緑の一族。緑色の肌と緑色の髪を持ち、森の中に住む花粉症とは無縁の種族である。  5つめは青の一族。青色の肌と青色の髪を持ち、藍の一族と仲が悪い種族だ。  6

ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」西軍(川越宗一、誉田龍一)

(お題:亀)(ムード:ワクワク) 第1章(川越宗一)  川越宗一は、ニヤニヤと笑っていた。まずその理由を話そう。 「コブラ」という漫画がある。週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画だ。アニメになり、そちらでは「スペースコブラ」といいうタイトルであり、なにか大人の事情があるのだろうなと幼心に思っていた。ガンダムに出て来た「エルメス」なるメカがプラモになった時「ララァ専用モビルアーマー」になったような。   コブラは作品のタイトルであり、ハードボイルドな主人公の名前でも

ショートショートバトルVol.4〜「君の飛行船」東軍(最東対地、円城寺正市)

(お題:科学の申し子)(ムード:ワクワク) 第1章(最東対地)  空に人型の大きな影が太陽を遮った。  遠くの山からそれとは別の巨大な影が立ち上がる、顔はイルカ、体はゴリラ、尻尾はワニというデタラメな怪獣が威嚇するように咆哮をあげる。 「ぐばらごごごんばあー!」  おっと、叫び声までデタラメだ。  キュィイーン。。。という空気が張り詰め、収束していく音がする。  初めて聞いた時は超音波かと思った。  一斉に外に飛び出した子供たちの中で、僕だけが耳を塞ぎうずくまってい

ショートショートバトルVol.4〜「シーソーラヴ」東軍(我孫子武丸、延野正行、尼野ゆたか)

(お題:肉)(ムード:ドキドキ) 第1章(我孫子武丸)  陽菜(はるな)がブランコを揺らすとキイキイと驚くほど耳障りな音が静かな公園に響いた。長らくここで遊ぶ子供はいないのかもしれない。  彼は午後5時ごろ、毎日ここを通って自宅に帰る。それが分かっていたので陽菜は早めにこの公園へ来ていわば待ち伏せをしていたわけなのだが、ひとけの少ない住宅街の公園というのは、いい大人には意外と居心地が悪いものだと彼女は思ったーー高校二年生が大人かどうかは微妙なところだろうけど。  そし

ショートショートバトルVol.4〜「シーソーラヴ」西軍(大友青、山本巧次、稲羽白菟)

(お題:ひまわり)(ムード:ドキドキ) 第1章(大友青)  もう何度目の夏が来ただろうか。 あれは私が10歳の頃だったから、どうやら8年目になるらしい。  また、ここへ来てしまった。打ち寄せる波の音と鳥の鳴き声しか聞こえない、私たちの秘密基地へと。  遠く、ずっと遠くには雲の切れ目が見える。太陽の光が水面に反射して眩しかった。でも、目をつむったりはしない。あの人がやってきたとき、見落としてしまうかもしれないから。私は目をつむったりはしない。  二度と目を離したりしな

ショートショートバトルVol.3〜「夜明けの月に」西軍(木下昌輝、水沢秋生)

(お題:謝罪) 第1章(木下昌輝) 「誠に申し訳ありません」  俺は、月に向かって叫んだ。そして、深々と頭をさげる。  マニュアル通りの斜め四十五度。前髪が夜風にゆれる。すぐそばにあるどぶ川の香りが鼻をつく。そして、心の中で十秒数えてからゆっくりと上体をおこす。深呼吸をひとつして、ゆっくりと家の倉庫から出してきたパイプ製の折りたたみ椅子に座る。  これでいいのだろうか。この謝り方でいいのか。これで許してくれるのか。わからない。もし、許してくれなければどうなるのだろうか。

ショートショートバトルVol.3〜「夜明けの月に」東軍(円城寺正市、延野正行)

(お題:炎) 第1章(円城寺正市)  黄埃万丈、月光を遮り、衆生の喚声、驟雨の水事の如くなり。  耳を劈きし雷鳴の如き響動の中、黒煙は昇り、砂礫は降り落つ。  炎に巻かれ崩落せしは、江戸城本丸近くの田安の御門。その瓦礫の上を踏み越えながら、「見事! 見事!」と宣いながら踏み越えしは異形の若武者なり。  さらしにて顔を覆い、その隙間から覗けし肌は赤黒く腫れ上がりて痛々しい。其の手甲にのみ赤備えの名残を残す真田の残党。信繁の一子、真田幸昌。俗に大助と呼び慣らわす。