マガジンのカバー画像

fm GIG主催「ショートショートバトル」作品集

26
イベントスペース・パームトーンで開催された「fm GIG ミステリ研究会〜ショートショートバトル」の作品集。 第1回:2019/1/19開催。タイトル「陽だまりの鳥」 第2回:2… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

我孫子武丸 顧問「作家大集合!書き出し小説バトル」作品集〜水沢秋生、 川越宗一、山本巧次、稲羽白菟、円城寺正市、谷津矢車、佐久そるん、緑川聖司、脳髄筋肉

タイトル「
失恋魔術師」
 ●谷津矢車 たぶんぼくはあのとき、一度死んだのだ。そう思う。
 ●緑川聖司 黒いシルクハットから飛び出したのは、ハトでもウサギでもなく、死んだはずの彼氏だった。
 ●山本巧次 
魔術師は恋をするかって? それを俺に聞くのかい。
 ●井上哲也 
どんな恋でも成就させると云う噂を聞いて、この街へやって来た。
 ●佐久そるん 
今日も転生。振られるたびにやりなおす。累積経験値だけは負けてねえ。
 ●円城寺正市 
恋愛禁止法が制定されて早十年。

ショートショートバトルVol.7〜「アタシはバリア」金軍(谷津矢車、今村昌弘、佐久そるん)

タイトル「アタシはバリア」 (お題:アリバイ)(ムード:キュンキュン) 【第1章 谷津矢車】 孵化することのない夢を抱えたまま、麻衣の一日は終わりを告げた。 「ぜーんぶ、終わっちゃった……」  誰もいない公園で、近くのコンビニで買った缶コーヒーを口につけた。ひどく熱い。暗い空を見上げたその時、冷たい風が麻衣のベージュのコートを揺らし、体の熱を奪っていった。  指先がひりひりする。火傷したようだ。息を吹きかけながら、屈辱のオーディションの様子がフラッシュバックした。

ショートショートバトルVol.7〜「アタシはバリア」土軍(田井ノエル、川越宗一、尼野ゆたか)

タイトル「アタシはバリア」 (お題:住吉大社)(ムード:キュンキュン) 【第1章 田井ノエル】 「うちら、住吉大社で結婚式挙げるんや」  少女はそう言いながら、桜色の服を揺らした。  風に広がった裾と、両手を広げた彼女の姿があまりにまぶしくて。そして、彼女が発した内容に呆気にとられ、ぼうっと口を開いたまま僕は立ち尽くしてしまう。  少女――サクラは僕に背を向けながら、ふふっと笑った気がした。一段高くなった縁石から飛びおりると、やはり桜色の裾がぴょんと揺れる。 「

ショートショートバトルVol.7〜「アタシはバリア」木軍(木下昌輝、大山誠一郎、延野正行)

タイトル「アタシはバリア」 (お題:ディスコ)(ムード:キュンキュン) 【第1章 木下昌輝】 京都マハラジャ、ディスコというよりも廃墟のようになった建物の中で斎藤は扇を手に踊っていた。建物の隙間から漏れる雨を全身に浴びつつ、目から滂沱の涙を流しつつ必死に踊っていた。 「馬鹿め」 京都マハラジャの陰から、アタシは吐き捨てた。 「あの斎藤はダメだな。天界の雫がなんのことかわかっていない」 アタシの背後でいったのは、斉藤だ。一斉のセイの斉の字を使った斉藤だ。 今、マ

ショートショートバトルVol.7〜「天界の雫」水軍(我孫子武丸、稲羽白菟、円城寺正市)

タイトル「天界の雫」 (お題:ときめき)(ムード:ドキドキ) 【第1章 我孫子武丸】  美月ちゃんが学校を休んだ。なんだか病気らしいけれど、詳しいことは先生も知らないようだった。  翔は心配で心配でたまらなかった。何しろ今は怖い病気が流行っているからだ。  美月ちゃんの家は同じマンションなので昔から仲が良く家族ぐるみのつきあいだ。もしかしたらお母さんに聞けばあの病気なのか違うのか、知っているかもしれない。もしかしたら転んで怪我をしたとかそれだけのことかもしれない。  で

ショートショートバトルVol.7〜「天界の雫」火軍(山本巧次、水沢秋生、緑川聖司)

タイトル「天界の雫」 (お題:ときめき)(ムード:ドキドキ) 【第1章 山本巧次】 薄暗い空から、雨がとめどなく落ちてくる。 傘から溢れた雨水に肩を濡らしながら、斎藤はその建物の前に立った。 消えて、半ば壊れかけているネオンの文字が、食い込むように斎藤の目に入る。 「京都マハラジャ」。斎藤は首を振り、ネオンから目を落としてドアに向けた。ゆっくり、押し開ける。 中は、当然のように静まり返っていた。斎藤は左右に顔を振る。暗いだけで、何も見えない。埃っぽい空気が、鼻を

ショートショートバトルVol.6〜「まつげボーン」南軍(緑川聖司、尼野ゆたか、延野正行)

(お題:ほんま本)(ムード:キュンキュン) 【第1章 緑川聖司】  20回目のコールを聞いて、わたしは電話を切った。メールもラインも返事がないし、電話もどうせ居留守に決まっている。一応の締切はとっくに過ぎ、本気の締切も過ぎ、本気の本気の締切も過ぎようとしているというのに。  わたしは大きくため息をついて、栄養ドリンクを一気に飲んだ。  憧れの出版社に就職して五年。念願叶って文芸部に配属され、男子高校生があべのハルカスと恋に落ちる話で大阪ほんま本大賞を狙っているのだが、

ショートショートバトルVol.6〜「まつげボーン」北軍(最東対地、遠野九重、天花寺さやか)

(お題:修羅の家)(ムード:キュンキュン) 【第1章 最東対地】  これは、とある少女の「変身」に至る物語である。  神寺(かんでら) みつき、空中で衝突する音に耳を塞ぎ、今目の前で起こっている出来事を整理した。  がぎん、と空気を破(わ)る音が衝撃と共に耳を掠めていく。  と、思えば風が高い音で前髪を浮かせた。  見えない。見えない。見えない。  一体なにが起こっているのだ。 出来事を整理するもなにも、見えないものを整理しようがない。 「わけわかんない!」  

ショートショートバトルVol.6〜「スマホのカラ」西軍(大友青、稲羽白菟、水沢秋生)

(お題:シャーペン)(ムード:ドキドキ) 【第1章 大友青】  私のスマートフォンがぶるぶると震える。  ディスプレイにはメッセージの着信を知らせるポップアップが表示されていた。  送ってきた相手は見なくてもわかっていた。  私は溜息をついた。  お願いだから静かにしてほしい。  私は今、大好きなRPGゲームをしている。いくら彼氏だからと言って、私の時間を邪魔しないでほしい。私とクラウドとの時間を邪魔しないでほしい。  スマートフォンが再び震える。気づいてほしい。

ショートショートバトルVol.6〜「スマホのカラ」東軍(円城寺正市、川越宗一、今村昌弘)

(お題:熱中症)(ムード:ドキドキ) 【第1章 円城寺正市】  私は、手の中のスマホをじっと眺める。  SNSのタイムライン。  昨日、デートした田井中くんとのやりとりが残されている。  彼は、私がずっと、ずーーっと片思いをしてきた男の子だ  散々ちゅうちょした末に、ついに昨日、私は彼をデートに誘った。そして、一緒にあべのハルカスに買い物に出かけたのだ。  手を繋いで一緒に買い物した。私は夢見ごこち。彼はどこか上の空。  たぶん緊張していたのだと思う。  彼はずっと顔を

ショートショートバトルVol.5〜「ハバナ・モヒート」南軍(稲羽白菟、最東対地)

(お題:残り香)(ムード:ワクワク) 【第1章 稲羽白菟】 【注】  ここに書かれる歴史・人物・団体は全て、作者が描くこの小説世界上の「設定」であって、いかなる実際の事件・出来事と関係はない。 『ハバナ・モヒート』  一  ハバナはカリブ海に浮かぶ小さな島国、キューバ共和国の首都である。  読者諸兄にとって、この北米と南米、二つの巨大な大陸に挟まれたラテン系の太暖かな小国ーーしかし、ある事情によって東西冷戦時、東側陣営「共産国家」側に立つこととなり、西側陣営のボ

ショートショートバトルVol.5〜「ハバナ・モヒート」北軍(円城寺正市、遠野九重)

(お題:靴ずれ)(ムード:ワクワク) 【第1章 円城寺正市】  夜は青。  凪いだ水面に月の道。  暑さにパーティを抜け出し、僕は、バルコニーから海を望む。  サルサの響くアカプルコの夜。  僕が日本から逃げ出して、もう何年が経っただろう。  現地で妻を娶(めと)り、一緒付き合えると思える友もできた。僕はこのままカリブの海を眺めながら年老いていくのだろう。  悪くない人生だとは思う。 「あなた、モヒートはどう? ハバナモヒート」  背後から妻がそう声をかけてくる。

ショートショートバトルVol.5〜「虹色のパレード」東軍(尼野ゆたか、川越宗一、木下昌輝)

(お題:パンデミック)(ムード:ウキウキ) 【第1章 尼野ゆたか】 これは、俗に言う関ヶ原の戦いで用いられたとされる奇策「七色の陣」が実在したかどうか一次史料を元に調査し、物語の形で復元したものである。 ーーーーーーーー 「なぜだ」  宇喜多秀家は、目の前の男に問うた。 「お主が未来を見るものであることについては、最早疑いはない。今まで、全てお主はのちに起こることを言い当ててきた。ならば、なぜだ」  その表情には、深い苦悩がある。  豊臣秀吉に後事を託された、

ショートショートバトルVol.5〜「虹色のパレード」西軍(延野正行、もやし炒め、今村昌弘)

(お題:引越し)(ムード:ウキウキ) 【第1章 延野正行】  その王国には、七つの種族がいた。  1つは赤の一族。赤い肌と赤い髪を持ち、暖かい場所を好む種族である。  2つめは橙の一族。橙色の肌と橙色の髪を持ち、目立ちたがり屋が多い。  3つめは黄の一族。黄色の肌と黄色の髪を持ち、好物はカレー。  4つめは緑の一族。緑色の肌と緑色の髪を持ち、森の中に住む花粉症とは無縁の種族である。  5つめは青の一族。青色の肌と青色の髪を持ち、藍の一族と仲が悪い種族だ。  6