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ショートショートバトルVol.5〜「虹色のパレード」西軍(延野正行、もやし炒め、今村昌弘)

(お題:引越し)(ムード:ウキウキ)

【第1章 延野正行】 

その王国には、七つの種族がいた。

 1つは赤の一族。赤い肌と赤い髪を持ち、暖かい場所を好む種族である。

 2つめは橙の一族。橙色の肌と橙色の髪を持ち、目立ちたがり屋が多い。

 3つめは黄の一族。黄色の肌と黄色の髪を持ち、好物はカレー。

 4つめは緑の一族。緑色の肌と緑色の髪を持ち、森の中に住む花粉症とは無縁の種族である。

 5つめは青の一族。青色の肌と青色の髪を持ち、藍の一族と仲が悪い種族だ。

 6つめは藍の一族。藍色の肌と藍色の髪を持ち、青の一族を憎んでいる。

 お待たせ。最後の一族は、紫の一族。紫色の肌と紫色の髪を持ち、藍色と青色の一族の諍いを見ながら、麦酒を飲むのが何よりも好きだ。

 それぞれの一族は持ち回りで、王をやっていた。今の王は紫の一族である。そして一族が一回りすると、遷都をすることが決まりとなっていた。

 そして今から1ヶ月後。

 700年ぶりの遷都が始まる。

 遷都の準備は7つの種族全員で行う決まりだ。

 今、王宮の中は赤、橙、黄、緑、青、藍、緑が混ざり、動き回るものだから黒やら白やら見える。普段が一色、いや一族で固まって生活しているので、連携もぐちゃぐちゃだ。

 赤の一族が「寒いので、薪をもっと持って行こう」と言えば、橙の一族が「宝石を持って行こう」と言い、黄の一族が「カレーができたよ〜」と匂いを漂わせれば、緑の一族は赤の一族に向かって「木を切るのは許さないわよ!」と怒鳴り、青の一族は藍の一族を睨み、藍の一族は青の一族を無言で睨み、紫の一族は麦酒を飲みながら酔っていた。

 700年ぶりの引越しである。

 しかし、なかなかまとまらない。当然であろう。

 王宮は黒く、あるいは白くなりながら、時間が過ぎていく。

 それでも不思議なのは、最後にはきちんとまとまって、遷都が始まる。すると、それぞれの一族がずらっと大通りに居並んで、鮮やかな七色を描くのだ。

「虹色のパレード」と呼ばれるそれは、それは見事なのだという。

 だがいつもは不思議と落ち着く遷都なのに、今回だけは違った。

「俺たちは遷都しない!!」

 七色の一族の中から造反一族が現れたのだ。


【第2章 もやし炒め】

口火を切ったのは藍の一族だ。

「せっかく興した都を変える必要なんてない!」

しきたりによって700年で遷都するが、その理由は誰も知らなかった。

わかりもしないことに従うなんておかしいじゃないか、、、藍の一族の言うことはもっともだった。

「だが今更そんなことを言っても仕方ないだろう」

青の一族が目を三角にして反論する。むしろ藍の一族以外はそんなことすら考えていなかったのだ。

「暖かければ木がある。新しく作るには時間がかかる。大変だろう?」

都市を育ててきた一族からすると、とても魅力的な言葉に映った。

「しきたりには理由があるはずだ!」

目立ちたがり屋の橙色の一族が口を挟む。蚊帳の外にいるのが嫌だったようだ。まとまりかけていた話はまたも最初に戻ってしまう。
どうしてこんなにも苦労の多い話になったのか、、、各一族は頭をひねって考える。

どれだけ考えても答えは出ない。けれど、意味はあるはずだ。

「じゃぁさ、遷都はしよう。ダメなら戻ればいいじゃね? 悩んでても時間の無駄だし」

開けた麦酒のカップを転がしながら紫の種族が口を出した。いくら藍と青の諍いを見ているのが好きでも、こう何日も同じ姿を見ていてれば飽きてもくる。

結局結論は出ないまま遷都が始まる。

遷都の先は暖かかく、木のない岩場。何もない。皆が呆然と岩場を眺める。

「な、やめとこう?」

藍の一族が嘆くように口にする。だが、反発したい青の一族は、

「いや、だからこそやりがいがある!」

状況が変わった紫の一族は、

「いいぞもっとやれ!」

と煽っていく。他の一族は諦め模様で、青の一族に協力的だ。藍の一族だけが少し離れたところで眺めていた。

けれど、必死になって都市を作り上げるぞ、と皆が頑張る姿を見ていれば心境も変わる。どれだけ大変なことでも、協力すればなんとかなる。資材をはこび、便利な機構を考え、どんどん都市開発が進んで行く。
進むほどに力をあわせる必要が出てくるけれど、それだけ大きな成果が見えた。

何をやっても楽しく苦しい引越しは一年かかっても終わらない。


【第3章 今村昌弘】

計画通りに進めば2年で終わると言われていた遷都は3年経っても終わらなかった。当然のことながら、仲の悪い青と藍の種族を一族を火種に、7色の種族たちは互いにいがみ合った。

赤の一族は言った。「だからもっと暖かい場所に移ればよかったんだ!」

橙の一族は叫んだ。「やっぱり我々が上に立つべきなんだ!」

黄の一族は吠(ほ)える。「お前らはカレーの美味しさがわかっていない!」

緑の一族は自然破壊に怒り、紫の一族は第三の麦酒の出現に激怒し、青と藍の一族のいがみ合いは目立たなくなった。

遷都の進行はすっかり行き詰まってしまった。どうしたらいいものか。

700年も生き続ける人間はいない。つまり、700年前の遷都がどのように成功したのか誰も知らない。

うまくいかなければ元に戻ろうという話だったが、ぐずぐずしているうちに元の都はすっかり廃れてしまっていた。

7部族の仲はいよいよ険悪になり、我慢できなくなったそれぞれの一族は遷都の作業をやめ、一族同士で固まって生活を始めた。それぞれがそれぞれの悪口を言い合い、金輪際(こんりんざい)一緒にならないよう言い含めた。

そうして20年の時が過ぎた。

何も変わらないようで、しかし密かに変化が起きていた。

やるなと言われればやりたくなるのが人の性(さが)。

交わるなと言われれば交わりたくなるのは7部族も同じだったのだ。

「あれ?お前の髪、なんだか色薄くね赤より橙に近くないか?」

「やだな、うちの家系は白髪が多いんだよ。お前こそちょっとカレーの匂いがするような……」

そう、それぞれの一族の若者は親の言いつけを破り、密かにうきうきと逢瀬(おうせ)を重ねていたのである。禁じられているからこそ燃え上がる恋。これをテーマにした本はベストセラーになった。

代を重ねるうちに、はっきりと肌と髪の色を判別できる人は減っていった。

どんな鮮やかな色でも交われば灰色に変わっていく。どの場所でも、どの種族でも同じであった。

やがて人々の間に色の区別はなくなり、いつしか人はまた同じ場所で暮らし始めた。なくなっていた遷都の儀式も復活し、華やかな時代を迎えた。

かつて虹色のパレードと呼ばれた行列は、灰色のパレードとなっていた。

「なーんか最近の子は個性がないねえ」

500年が過ぎ、人々の間からそんな愚痴が漏れ始めた頃、珍しい子供が生まれ始めた。赤、橙、黄、緑……、華やかな色の髪と肌を持つ子供である。

子供たちはその色に価値を求め、同じ色のパートナーを求めて付き合うようになった。

そうしてまた7色の種族の時代がやってくる。人々は集い、いがみあい、別れ、また出会いを求める。

ぶつくさ言いながら、どこかうきうきと遷都の準備が始まる。

「いったいなんのために遷都の儀式なんてやるんだろうなーー…」


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2月15日(土)京都 木屋町「パームトーン」で開催された「fm GIG ミステリ研究会第16回定例会〜ショートショートバトルVol.5」で執筆された作品です。

顧問:我孫子武丸
参加作家陣:川越宗一、今村昌弘、木下昌輝、尼野ゆたか、稲羽白菟、延野正行、最東対地、遠野九重、円城寺正市、もやし炒め

司会:冴沢鐘己、曽我未知子、井上哲也

上記の作家が、東軍・西軍に分かれてリレー形式で、同じタイトルの作品を即興で書き上げました。

また、それぞれの作家には当日観客からお題が与えられ、そのワードを組み込む必要があります。

さらに「ムード」の指定も与えられ、勝敗の基準となります。

当日の様子はこちらのアーカイブでご覧になれます。

タイトルになった「虹色のパレード」はこんな曲です。

 

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