見出し画像

緩和ケアとは?(2)

《一般の方向け》《医療関係者向け》

● WHO(世界保健機構)の定義
 緩和ケアの年表を頭に入れたところで、1990年と2002年のWHOの定義(和訳)を見てみます。

*1990年
緩和ケアとは、治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである。痛みやその他の症状のコントロール、 精神的、社会的、そして霊的問題の解決が最も重要な課題となる。緩和ケア目標は、患者とその家族にとってできる限り可能な最高の QOLを実現することである。末期だけでなく、もっと早い病期の患者に対しても治療と同時に適用すべき点がある。

*2002年
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、 痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで苦痛を予防し和らげることを通して、向上させるアプローチである。

日本ホスピス緩和ケア協会のホームページ
https://www.hpcj.org/what/definition.html

 時代とともに緩和ケアの対象疾患、病期、実践される場所が広がったために、四、五十年前に比べて、定義で示す内容があいまいになっています。あるいは、定義からは緩和ケア特有のものを読みとりにくくなっていると言ってもよいでしょう。また、この定義文は直訳調のため、読みづらい文となっていることは否めません。ただ、翻訳文が、滑らかに読めなかったり、修飾や被修飾の関係がつかみづらかったり、表現が堅苦しかったりするのは珍しいことではないので、慣れる意味も含めて、この場はこの定義文を採用しようと思います。
 予備知識がまったくない状態で、2002年の定義文だけを読むと、「医療」の定義文の一部なのかな、と思ってもおかしくない内容になっています。臓器別の医学的視点から生まれわけではない緩和ケアには、各専門科を貫き下支えする性質があるので、普及がはかられるほど一般医療との境がなくなり、定義をしようとすると内容が似てきてしまう、ということが起こるのかもしれません。
 しかし、歴史的背景が頭に入った状態で読むと、2002年の定義文が「緩和ケアとは何ぞや」を表している、と言われれば、それはそうかもしれない、と思えてきます。
 WHOの二つの定義の違いは、主に対象と時期にあります。
 1990年の定義文では、「治癒を目指した治療が有効でなくなった患者」と書かれていますが、この表現には、がん患者を主に見据えていたという跡がうかがえます。2002年の記述では、「生命を脅かす病」という簡潔な表現になっており、がんに留まらないという姿勢がより明確になっています。
 また、古い定義では「末期だけでなく、もっと早い病期の患者」とわざわざ書かれています。これは、緩和ケアの出発点がターミナルケアである、ということの表れでもあります。2002年の定義になると、緩和ケアが適応される時期についてあえて書いていないように感じます。書かないことで、末期だけでなく病期全般にわたって緩和ケアが適応される、ということが含意されています。「もう、あえて書かなくてもいいでしょ。それが当たり前なんだから」といった感じでしょうか。
 このような二つの定義文の変遷は、「緩和ケアの広がり」を反映していると言えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?