看護師さんがいてこその③

私が初めて男性看護師さんと関わるようになったのはいつだったろう。
それまでも男性看護師さんをチラホラ見かけるようになってはいたが、私がまだ若かったからの配慮なのか、担当看護師になることはなかったし、対応してもらうこともほとんどなかった。

そんな私が初めて男性看護師さんに対応してもらったのはどのときだったか、とにかく入院直後のことだった。
若い彼が微笑みながら私の前にしゃがんでくれたとき(実際には目線を合わせてくれていただけ)、私はなんだかときめいた。
…が、実際にその看護師さんは私にネームバンドを着けてくれただけだった。
ま、そりゃそうだ。
そこからは粛々と入院手続きをしてもらい、私は真面目な入院患者の一人となった。


入院した経験は山ほどあれど、その中で男性看護師さんと関わることはここ数年まであまりなかった。
そんな、男性看護師さんと関わって見えてきたことを書きたい。


身だしなみが大切?

何人かの男性看護師さんたちが応対してくれるようになってすぐに感じた。

なにやら、良いにおいがする…のだ。

どうやら、香水をつけているらしい。
女性の看護師さんたちが思い思いの香りを選んでいるのと違って、清潔感のある香りが中心だが、今のところ出会った男性看護師さん全員が身につけていた。
男の人だから体臭を気にしているのだろうか。
患者との距離が近くなるからかな。
そんな勝手な想像をしている。

そして、腕毛もなくつるつる。
若い男性看護師さんだとチラホラそのままの人もいるが、たいていがつるつるお肌をしていた。
これ、普通に剃っただけでは無理だ。永久脱毛…?
腕毛があると患者が嫌がるのだろうか。
不潔と思われるのだろうか。

男性医師たちが寝癖がついてたり若干無精髭が生えていたりするのに対して、男性看護師さんは身だしなみに大変気を配っていた。

男性看護師さんもいろいろと気を遣っているのだなと感じている。

(ただしここで書いていることは私が実際に見かけた男性看護師さんについてであり、全ての人に通じることではないです。特に香水に関しては、香料アレルギーの人たちもおられるので、どの科でも共通した話とは考えにくいです)


僕は看護師です

今や男性看護師さんは定着した。
と、私個人的には思っているのだけれど、世間はまだまだそうではないらしい。
看護師=女性、という固定概念から抜け出せない人がいる。
そして年齢が上がれば上がるほどそうなるらしい。

朝、高齢の患者さんの元にやってきて
「今日の担当看護師の〇〇です」
と男性看護師さんが伝えても、昼過ぎに検温に来たらきれいさっぱり忘れている人が多い。そしてその看護師さんに言うのだ。

「先生、何ですか?」

もちろん高齢者全員がそうだとは言わない。
お見舞いに来ているこれまた高齢の旦那さんが
「看護師さんだぞ」と横から指摘する場合もあるので、患者さん自身の認知機能の問題かもしれない。
男性看護師さんと笑い合いながらやり取りする患者さんだってたくさんいる。
でも、こういう反応になる人が多いのも事実だ。

「僕は先生じゃありません。看護師ですよ」
と訂正している看護師さんにそうですか、と言ってしばらくするとすぐに
「先生」と呼び掛けている。
何度かそれを繰り返すうちに、男性看護師さんは小さいため息をついて、それ以上何も言わずに作業に戻る。

カーテン越しにそのやり取りを聞いていて、なんだか私は少し残念な気持ちになる。

看護師の道へと進んだ人たち。
それなりに考えや信条があって看護師の世界へと飛び込んできた彼ら。
きっと看護師としての誇りもあるはずだ。
なのにどんなに頑張って患者に寄り添っても、男性=医師という認識で受け止めらえるのはなんというか、看護師としての自分を否定されるような気がして、私なら悔しい。


そういえば、女性医師(たまたま白衣を着ていなかった)が同室の患者さんのところに様子を見に来た際に
「看護師さん、私〇〇先生(男性)とお話ししたいわ。お願いしといてくれる?」
と言われていたことがある。
「〇〇先生は主治医ですけど、私も看護師さんじゃなくて主治医の一人ですよ。心配事なら私に言ってください」
と女性医師が伝えたが、その患者さんは「〇〇先生じゃなきゃ嫌」の一点張りだった。

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80歳代や90歳代の高齢者にとっては
看護師=女性、医師=男性
が子どもの頃からの認識であり、それが当たり前のこととしてインプットされているのかもしれない。

とはいえ「男女雇用機会均等法」が制定されたのは1985年のこと。
すでに35年が経過している。
……ええ加減、覚えたら?
という気持ちにもなっても怒られないだろう。

いつになれば、社会全体が医師も看護師も男性女性関係なく働いている、それが当たり前と認識されるのだろう。

ああでも、高齢者の人であっても男性だろうが女性だろうが看護師さんであろうが医師であろうが差がなく接している人はたくさんいるので、
「これだから高齢者は」だの「老害」だのと思うのはやめて欲しい。

ついでに書いておくと、私は「老害」という言葉が嫌いだ。高齢者を一括りに「だからあいつらは」みたいなことにしてしまうのが不愉快だ。
私は、高齢者だからではなく、言動が不快に感じる高齢者はその人の持つ資質のようなものだと考えている。個人的な問題だ。その個人に対する不快さを、全ての高齢者に当てはめるのが気に食わない。それは「だから障害者は」というのと同じ匂いがする。


男の人であること

私がまだ20歳代の頃は、高齢者であっても女性は男性看護師さんを拒否する傾向があったように思う。
まあ、圧倒的に女性ばかりの中、ポツンといた男性看護師さんに驚いたという部分が大きかったのかもしれない。
例えばベッドからストレッチャーへの移動の際に男性看護師さんが患者さん(女性で高齢)を抱えようとしたとき、とても嫌がる人がいた。
「男性に触れられるなんて聞いていない、やめて」
そんなことをその人は言っていた。

それから年月が経ち、男性看護師さんに担当してもらうこと、介助してもらうことに抵抗を示す高齢女性を、今のところまだ見たことがない。
ある程度は、男性看護師さんの存在が浸透してきているのだろうか。

興味深いのは、看護師さんが男性か女性かで患者さんの態度が変わる場合がある、ということだ。

女性の患者さんは看護師さんが女性だろうが男性だろうがその対応は同じ、フラットなことが多い。
中には若い男性看護師さんとお話しするのが楽しみで、その人が担当だとウキウキする人もいるにはいるが、それは患者にとってはプラスになるだろう(少なくともその間はポジティブになれる)。さほど問題はないと思う。

ところが男性の患者さんの中には、女性と男性で態度が違う人がいる。
別にセクハラをするわけではない。
見ていて思うのは、たいていの場合、女性が相手だと横柄だったり大きな声で返事をしたりする。ちょっと偉そう…に見える。

どっこい男性看護師さんだと素直に話を聞くし返事をするし声も標準。
その態度の差はなんやねん。
男性看護師さんの写真額に入れて病床の壁に貼り付けるぞ。

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嫌な患者というのはいつの時代もいるので、もし男性看護師さんの存在がそういう人たちの「抑止力」になるのなら看護師さんたちの「男の人であること」が最大限に生きそうだ。
もちろん男性看護師さんだって繊細な人がいれば華奢な人もいるだろうから、一概に言えないということは理解しているけれど。

そして何より、やはり男性は力が強い。
先ほど書いていたベッドからストレッチャーへの移動(逆もあり)は、いろんな線(酸素、心電図、点滴、尿カテーテルなど)がついてる大人になった私の場合、女性の看護師さんだと「せーの、うりゃ!」って感じになり、心情的には「ああ、腰を痛めないで…」という気持ちになる。
ところがここに男性が一人加わると割とすんなり移動ができるのだ。これは患者としてもありがたい。
やっぱり男の人は力が強い。
そう思う。


そこは理解しがたいよね

少しばかり、きれいとは言い難い話をする。
チラっと見て嫌だなと思われたらもうページを閉じて欲しい。


数年前、治療の関係で今現在お世話になっている病院ではなく、違う病院に入院したことがあった。

私はそこでは尿量を計測するように指示されていた。
その病棟の方針は、蓄尿したものを翌朝看護師さんによって計測されるという形ではなく、
トイレに行くたびに看護師さんを呼び→
とった尿量を計測してもらい→
病室の私の尿量を書く欄に記入しに来てもらう、という形式だった。

それだけで密かに気持ち的に負担だった。
だって私、利尿剤を服用しているわけで。
さっきトイレに行ったと思ったらすぐにまたトイレ。
そのたびに看護師さんを呼ぶのだ。煩わしいと思ってしまうことを許して欲しい。

それで、だ。
計測しに来てくれるのは女性の看護師さんとは限らない。
男性看護師さんだってじゃんじゃん来る。

それ自体は全然構わないのだけれど。

生理(や不正出血)は必ずやってくる。
そうすると、女性なら理解していただけると思う…赤くなるのだ、尿が。

ということで、女性の看護師さんは何もなくスルーしてくれるのだけど、男性看護師さんだとこういう反応になる。

A看護師「(小声)ぱきらさん…血尿出てるようですが…」
私「あ、すいません生理なもので…」

B看護師「(小声)ぱきらさん、お腹痛いとかないですか。血液が混じってて…」
私「お腹は痛いですが、それはごめんなさい生理で…」

C看護師「(小声)ぱきらさんおしっこが赤…」
私「生理です生理」

これはね、これは性差でどうしてもわからないことだと思う。
でも、私がうら若き乙女だったらちょっと恥ずかしくて穴がないからベッドの下に潜り込みたくなるかもしれない。

午前、午後の申し送りの時間まで仕方のないことかもしれないものの、このあたりのことはなるべく早めに共有してもらえたら嬉しい。
それは強めにお願いしたい。


大人の階段、更にのぼるよ40歳代

なぜだろう。
40歳を超えた途端、男性看護師さんが担当看護師になる機会が増えた。
それまでは…そう、39歳までは担当看護師と言えば女性だった。

が。
今は「今日の担当〇〇です」と男性看護師さんがにこやかにやってきて、検温やら血圧測定やらを当たり前にしてくれる。
他の場面でも、対応してくれる機会が増えた。

おや…?
これはもしかして、私が40代に突入したからでは…?
と考えてもおかしくないほど、男性看護師さん出現率アップ。

もしや、看護会には決まりがあるのだろうか。

「お酒は二十歳(はたち)になってから、男性看護師が女性患者と本格的に関わるのは、患者が四十(しじゅう)になってから」

とでも。

つまり、私、正真正銘、おばちゃん認定!!

次の大人の階段をのぼったんだわ、私…。

…喜んでおこうではないか。長生きの証だ!


冗談はさて置いて。
40歳を過ぎてから、男性看護師さんが担当になることが本当に増えた。
なんだかおもしろい。

これまでも採血や移動介助で男性看護師さんにお世話になることはあったが、こうしてじっくりというのは初めてだった。

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しかし男性看護師さんにいろいろとお世話をしてもらうと、難しい部分も出てくる。

私は比較的若く見えるらしい(ありがたや…)。
ということで、男性看護師さんのほうが躊躇してしまうことがあるのだ。

例えば私がお世話になっている病院(病棟)では、シャワーを浴びた後の心電図モニターは看護師さんによって貼りつけてもらう。
だからシャワー終わり(ある程度身支度は済ませておく)にナースコールを押す。
そして私と知らずにシャワー室の扉を開けた男性看護師さんが戸惑う。

ややあって、「女性(看護師)呼んできましょうか?」
と聞いてくれる。
そんなの看護師さんの手を煩わせるだけだしと思って
「え?別に良いですよ」
とお願いするのだけれど、豪快に私の胸に電極を貼る人はおらず、気がつけば私が電極を受け取り貼っていることが多い。
むしろ、気を遣わせている。

そういえば男性看護師さんはこちらの体に触れるとき、たいてい「じゃあ触りますからね」と告げてくれる。
何かトラブルになってはいけないし、とても慎重だ。

私のように男性看護師さんに何かをしてもらうのが比較的平気な人がいる一方で嫌な人ももちろんいて、そのあたりは兼ね合いが難しいだろうと思う。
それに患者が独身なら、年齢がいくつだろうとやはり気は遣うだろう。

男性看護師さんは男性看護師さんで、いろいろと苦心するところがあるのだろうなと感じている。



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男性看護師さんと大きく関わるようになったのはここ数年のことで(つまり40歳を過ぎてから)、まだまだ日が浅い。

だから私が見たのは男性看護師さんのほんの一面にしか過ぎない。

それでも私は男性看護師さんたちがとても熱心であることを知ったし、男性看護師さんならではの能力みたいなものを感じることができた(同時に男性であるが故の大変さも垣間見た)気がする。

男性看護師さんはこれからますます増えていくのだろうか。
それともやはり女性が多い領域なのだろうか。
できれば男性とか女性にこだわらず、男性でも女性でも当たり前に「看護師」として浸透すれば良いと思う。

そして私は、これからも多くの看護師さんにお世話になる。

医療を受けるとき、看護師さんの存在はなくてはならない。
とても厳しい職業だと思うけれど、私はあなた方に感謝しています。
どうもありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします。


※ 纏まりがないですが、これにて看護師さんについての話は終わりです。

あまり本を読んで来なかった私、いただいたサポートで本を購入し、新しい世界の扉を開けたらと考えています。どうぞよろしくお願いします!