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  • 福音の扉

    かつて存在した Flashゲーム『人喰い掲示板の噂』の追加エピソード その2

  • 神さまの名札

    かつて存在した Flashゲーム『人喰い掲示板の噂』の追加エピソードその1 姿なき鬼 リクサツの物語

記事一覧

福音の扉 第一話

暗い海上をなにかが漂っている。 歪な木箱に見えるそれは小船で しかし帆もなく 漕ぎ手もなく 波で上下に揺らされながら それでも沈むことなく西へと流されている。 雲間…

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2か月前
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神さまの名札 最終回

十郎が飛び立ち 二週間ほどが経った、その明け方。リクサツはうなされて目を覚ました。 夢を見た。どんな夢だったのかは覚えていない。全身が汗でぬれており 余程恐ろしい…

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2か月前

神さまの名札 第七話

「かみさま、かみさま」 杉の幹にもたれかかる長身の鬼は子供の声が耳から離れず腕組みをしたまま うつむいていた。 昨日、たぬきと共に尾行を始めたリクサツは山道を下…

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2か月前

神さまの名札 第六話

田舎の深夜は、都市部の人間が想像しえないほどに騒がしい。烏菜木南方に広がる田園地帯は生き物の宝庫であり彼らは、種の面目を発揮するのは今このときだとばかりにその歌…

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2か月前

神さまの名札 第五話

夕暮れ時。いわしカレーの代金、その一月分の掛け金回収にやって来た たぬきは杉に貼られた写真に気付き 「珍しいこともあるもんですねぇ」 と唸った。 「…」 勘定を済ま…

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2か月前

神さまの名札 第四話

陽が西に傾き始めた頃。山道を駆け上がって来る姿が見えた。 まだ幼さが残る子供だ。その子は一本杉が近づくと足をゆるめ肩を上下させながら目的地を確かめると再び駆け足…

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2か月前

神さまの名札 第三話

典八は素直に喜びを表に出せない子供だった。最愛の兄を前にしても、笑顔のひとつもみせず ただモジモジとしている。 残る唯一の肉親であり海軍航空部隊のパイロットであ…

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2か月前

神さまの名札 第二話

陽の光を受け 子供が山道を登っている。 痩けた頬に笑みをたたえつつ小さい手に写真を握りしめ、細い足で懸命に走っている。今年9歳になるその男子、名を典八(のりはち)…

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2か月前

神さまの名札 第一話

C県中南部に広がる田園地帯。桜の花びらを乗せた風が田植えを終えたばかりの水田に波を立たせている。 鮮やかな緑の絨毯となるはずの若苗も肥料も満足に与えられない現状…

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2か月前
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福音の扉 第一話

福音の扉 第一話

暗い海上をなにかが漂っている。
歪な木箱に見えるそれは小船で しかし帆もなく 漕ぎ手もなく 波で上下に揺らされながら それでも沈むことなく西へと流されている。

雲間から射す月明かりが波飛沫を光らせ その粒を受け鈍く輝く金色の髪はこの船唯一の乗員のもので 毛布に包まり微動だにせず ただ波に揺られている。

突如 小さい悲鳴と共に 髪が跳ね上がった。悪夢により妨げられた束の間の眠りは浅く それでも主

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神さまの名札 最終回

十郎が飛び立ち 二週間ほどが経った、その明け方。リクサツはうなされて目を覚ました。

夢を見た。どんな夢だったのかは覚えていない。全身が汗でぬれており
余程恐ろしいものを見たに違いなかった。

東の空が微かに白み始める。

「……」

実感があった。徐々に夢の内容も思い出してきた。それは夢のようで、夢でなく。一本杉の呪いがリクサツに見せる 写真の主が置かれている紛れない現実だった。

杉のてっぺん

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神さまの名札 第七話

「かみさま、かみさま」

杉の幹にもたれかかる長身の鬼は子供の声が耳から離れず腕組みをしたまま うつむいていた。

昨日、たぬきと共に尾行を始めたリクサツは山道を下り 橋を渡り 町中へと入り このあたりから たぬきは犬のフリをしてワンワンと鳴き始めついには子供の帰る家へと辿り着いた。

そこで姿なき鬼は全てを目にし、知った。子供の名が典八ということ。居候であり、孤独にいること。目的である名札が小筒

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神さまの名札 第六話

神さまの名札 第六話

田舎の深夜は、都市部の人間が想像しえないほどに騒がしい。烏菜木南方に広がる田園地帯は生き物の宝庫であり彼らは、種の面目を発揮するのは今このときだとばかりにその歌声を披露している。風はそれらを運びここ、烏菜木海軍航空基地でも遠く淡いながら カエルの合唱に包まれていた。

夜警当番兵の背後、地表から2メートルほどの場所に紅い光源が二つ、揺らめいている。

光源は人の目にとまることなく当番兵をスルリと躱

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神さまの名札 第五話

夕暮れ時。いわしカレーの代金、その一月分の掛け金回収にやって来た たぬきは杉に貼られた写真に気付き
「珍しいこともあるもんですねぇ」
と唸った。

「…」
勘定を済ませたリクサツは幹に背を預け 黙っている。

「…喰うんで?」
たぬきは視線を写真からリクサツへと流した。
「…ソりゃ喰ウさ」
「ふむ…」
たぬきは首をかしげた。

呪いの条件を満たしこれから人間を喰うことが出来るリクサツが落ち込んだよ

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神さまの名札 第四話

陽が西に傾き始めた頃。山道を駆け上がって来る姿が見えた。
まだ幼さが残る子供だ。その子は一本杉が近づくと足をゆるめ肩を上下させながら目的地を確かめると再び駆け足になった。

枝 高くに腰掛け それを眺めていた姿なき鬼・リクサツは 珍しいこともあるもんだな、と思った。

陽のあるうちに呪いの願掛けに来たことがひとつ。それが幼い子どもであることがひとつ。しかし次には子供が故、陽のもとに来ることは当然か

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神さまの名札 第三話

典八は素直に喜びを表に出せない子供だった。最愛の兄を前にしても、笑顔のひとつもみせず ただモジモジとしている。

残る唯一の肉親であり海軍航空部隊のパイロットである兄・十郎(じゅうろう)はこの春、一時的に烏菜木航空基地に配置されておりその僅かな休暇を使っての来訪は突然のものだった。

十郎は父と妾との間に生まれた子で十郎の十には「例え十人の子が生まれたとして、十番目」という意味が込められており 生

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神さまの名札 第二話

陽の光を受け 子供が山道を登っている。
痩けた頬に笑みをたたえつつ小さい手に写真を握りしめ、細い足で懸命に走っている。今年9歳になるその男子、名を典八(のりはち)と言った。

典八は航空基地建設のため立ち退いた住民の一人であり先祖伝来の土地とほぼ同時に肉親も亡くしていた。基地関連施設の建設労働に奉仕していた父親は完成したばかりの掩体壕に押しつぶされた。壕を形造るコンクリートが固まっていたのはその表

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神さまの名札 第一話

神さまの名札 第一話

C県中南部に広がる田園地帯。桜の花びらを乗せた風が田植えを終えたばかりの水田に波を立たせている。

鮮やかな緑の絨毯となるはずの若苗も肥料も満足に与えられない現状では
心なしか弱々しくそよぎ やがて広がるその景色も薄くかすれたものとなるに違いない。

切り開かれた山林を背に北へと向かえば農地とは異質の平らに均された広大な面、そして小さな山が視界に入る。山はコンクリート製で、中は空洞になっている。掩

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