うしろにいる【不思議で奇妙な話】
母の実家で約50年前にあった出来事。母は3兄妹の末っ子で、1番上の兄と同じ女性を目撃していた。しかし、真ん中の姉(わたしからみると伯母)は見ていなかった。
しかし、50年後の現在。明るみになった話がある。
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母の実家は風呂と便所は家の外。風呂は薪で炊くし、便所はぼっとん便所だった。しかも天然のぼっとん、つまり底は川であり、落ちてしまうと救助を求めなければならないほど深い危険な場所だった。おそらく底まで2m以上はあったと思う。
便所の照明は洗面台の白熱電球ひとつ。故に夜は、街灯の無い暗闇の中、電球のぼんやりとした頼りない黄色い明かりのみが、用を足すのに頼りだった。
便所の扉を閉めてしまうと、洗面台の電球の明かりは便所内には届かず、真っ暗になってしまう。便器の底は全く見えない。ただそこに、黒い穴が口を開けていた。
そんな訳で、母の実家の夜のトイレは幼い子ども1人で行けるような場所ではなかった。
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夏休み冬休みに田舎へ帰るのが我が家の行事なのだが、伯母家族はいろいろと忙しかったために、たまにしか帰ってこなかった。
そんな伯母家族が実家に泊まった時。伯母の子ども(つまり、わたしから見ると いとこ)は、夜中に1人でその便所へ行った。
すると、うしろから。
だいじょうぶ?
女の人が声をかけてきた。
いとこは「大丈夫」と答えた。動じることなく。
女性は、白い服、長い黒髪だった。
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いとこは幼い頃から霊感が強く、”視える”というのは日常だったらしい。しかし、それを他人に言ってしまうと聞いた人が怖がってしまうので、気を遣って絶対に周りには言わなかったそうだ。
50年前に大黒柱に座っていただけの女性は、その30年後、はっきりと視える いとこの夜のトイレについて行くという、母親のようなことをしたそうだ。
母3兄妹で唯一、座る女性を見ていなかった伯母。その子どもが視える人だったことも、不思議な話だ。
(了)