彼が2日間、学校に来なかった理由【不思議で奇妙な話】
放課後、部室には部員以外でも、部員の友人であれば好きなように出入りできた。
集まって、それぞれが好きなことをしていた。
音楽を聴いたり、お菓子を食べたり、ゲームをしたり、マンガを読んだり、寝たり。もちろん、部活らしいこともしていたが、ゆるい雰囲気だった。
たむろするメンバーの中に、Y君という男子がいた。
Y君は部員ではなかったから、特に何をするわけでもなく、椅子に座って雑談をして、放課後の時間を潰していた。
Y君は、成績がすこぶる良かった。
いつも学年の上位にいる、勉強のできる奴だった。
わたしは彼を秀才だと思っていた。
数Ⅲの微分積分の理屈がなかなか理解できなかった わたしは、部室に来たY君に宿題を教えてもらった。
Y君の丁寧かつ整然とした説明に「なんだ、そういうことだったのか」と、あっという間に問題が解けてしまい、とても驚いたものだ。
Y君はしばらく毎日のように放課後を部室で過ごしていた。
しかし、ある日。
Y君は姿を現さなかった。
わたしはY君とクラスが違っていたから、学校には来ているが部室に来ないだけなのか、学校自体を休んでいるのか、どちらなのかは分からなかった。
2日後。
Y君は何事もなかったかのように、部室に現れた。
「昨日、一昨日、来なかったけど、学校休んでたの?」
わたしはY君に聞くと『学校を休んでた』とのことだった。
「風邪でもひいた?」と聞くと、しばらくの沈黙の後、Y君はこう答えた。
『2日間、意識なかった』
わたしは、Y君のその言葉に、一瞬思考が、停止した。
意識がないというのは、何かしらの重い病気なのだろうか。
でも、今日の見た目は普通だし、そもそも学校に来てるし。
一体、どういう意味なのだろうか。
わたしは躊躇しつつも、その意味を聞いてみた。
「それって... 学校に来ても大丈夫なやつなの?」
『うん。大丈夫。割とあることだし』
割とある、とは、どういうことなのか。
わたしの頭は混乱した。
Y君は、毎日学校に来ていない、ということだろうか。
そういえば。
わたしには、心当たりがあった。
1年生の時、Y君とわたしは同じクラスだったのだ。
Y君は、人より休む回数が少し多い印象を思い出した。
その時は、風邪を引きやすいタイプなのかな?くらいに軽く考えていた。
しかし。
それが、違っていたら。
わたしが一所懸命考えている顔をしていたのに気づいたのだろう、Y君が口を開いた。
『オレ、2日前の登校してる時に事故現場に遭遇しちゃってね。そしたら、意識がなくなったんだわ。どうやら、あんまりよくない事故だったみたいでさ。気づいたら昨日で、お寺にいた。いつもお世話になってる お寺なんだ。多分オレ、憑依体質って言うやつなんだと思う。昔から、よくない場所に行くと、意識がなくなるんだよね。今回は2日かかったから、疲れたなあ。』
どうやら、Y君はそういう体質の持ち主らしい。
もしかしたら、過去休んでいた日の何日かは、そういう日だったのかもしれない。
Y君はわたしに その話をした日の後、部室に来ることはなくなった。
大学入試を控えた冬の寒い日。
わたしは授業中に急に高熱を出してしまい、保健室で一時寝込んでいた。
ふと目線を感じた先に、彼がいた。
遠巻きに、Y君はわたしを観察しているように見えた。
その日、Y君も体調が悪くて保健室にいたのかどうかは定かではない。
それが、Y君を見かけた最後の日になった。
わたしたちは、あの日、彼が自分の体質のことを話してくれた日以来、会話を交わすことなく、高校を卒業した。
(了)