"長編小説 『じゃんだらりんの国から』 第6話 「カンカラ・マア・チャンの紙芝居」"

個性的な人がいても、決して後ろ指を指したりせず、ひとりの個性として受け入れる。

永松家の子どもたちは、厳格な家庭で育てられたのであるけれども、変わった人がいてもいじめたりする子どもたちがひとりもいないのは、親の教育というよりも、生まれ持った気質によるものと言ったほうがよいだろう。そもそも、いい子の定義とは何だったのかと考えさせられるけれども、永松家の子どもたちは、決してその対極に位置する子らではないということは、これまでの経緯を見ても、分かるであろう。

カンカラ・マア・チャンが一斗缶をドンガラ、ドンガラ、叩きながら、子どもたちがよく遊び場として利用している別の空き地へと向かい、武や皆子たちもそれに続いて向かっていったのであった。

空き地に到着すると、カンカラ・マア・チャンは、何やら四ツ切り判くらいの少し経年劣化のある紙のようなものを数枚、持っていた鞄から取り出して、子どもたちに見せた。

「おーい!おまいら、今から紙芝居をやるぞ!ドンガラ!ドンガラ!」

「わーい!紙芝居だ!見たい!見たい!」

「皆子、なんかおまえ、あんま乗り気じゃないけど、どうしたんだ?」

武が言った。

「ワタシ、お父さんに、紙芝居みたいな娯楽は見ちゃいけないって言われて、この前、紙芝居、見たかったけど見れんかったの。だから、ワタシ、お父さんに紙芝居を見たのがバレたらどうしようって、考えただけで怖くて…」

「そんなもん、構わんって!ほら、下ばかり見てないで、ほかのみんなも見てるから、皆子も早く見んともったいないで?」

武は皆子を誘い、説得した。

紙芝居の内容は、子どもたちにお馴染みの桃太郎の話で、子どもたちは一層、興奮しながら紙芝居に喰らい付いて見入っていた。

紙芝居が後半に差し掛かると、カンカラ・マア・チャンは鞄から水飴の入ったビンを取り出して、そのビンを開けて、子どもたちに、素手で水飴を渡そうとした。

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