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第12回 2024年1月クールのドラマ#1


どうも自家焙煎珈琲パイデイアです。
今回は今クールのドラマのあれこれを書き留めておこうかと思います。

まず、大本命はクドカン脚本のTBSドラマ「不適切にもほどがある」です。
もはや、セルフパロディはお家芸、今作にも昔のクドカンネタがふんだんです。
NHKの朝ドラの名作「あまちゃん」を思わせるような80年代のエンタメ要素、阿部サドヲさんが野球部の監督といえば、「木更津キャッツアイ」を思い出します。

私はかねてよりクドカン脚本の特徴として、「二項対立とメタ的重層構造」というなんともイカつい言葉を作り出して、話してきました。
「二項対立」というのは言わずもがなでしょう、「都会のアイドルと田舎の海女さん」「やくざと落語家」「プロレスと能」「囚人と井戸端会議」とあげればキリがありません。
今作は「令和と昭和」という比較的わかりやすい二項対立が提示されています。

「メタ的重層構造」とは主人公を取り巻く人間関係と同じような関係がメタ的に書かれていて、メタ的関係がメイン関係を推進力を持たせて物語進めていく、ということです。
『あまちゃん』でいえば、「アキ(のん)と春子(小泉今日子)」のメイン関係に対して、「春子と夏ばっぱ(宮本信子)」というメタ的関係が物語に絡んできます。
『タイガー&ドラゴン』でいえば、「小虎(長瀬智也)とどん兵衛(西田敏行)」のメイン関係に対して、「小虎と組長(笑福亭鶴瓶)」といった具合です。

第5話まで進んだ今作はどうでしょう。
妻を早くに亡くした昭和の市郎と令和のゆずる(古田新太)の関係はメタ的重層構造になっています。

「時代の移り変わり」や「多様性」をテーマにしたときに、一番扱われるのが「多様性の拒絶を受け入れるのも多様性」という割とよくあるものです。
ポピーの「不寛容の寛容」に対するアンチテーゼのような発想です。
こういった社会的な風刺に完全に舵を切るのか、それとも物語のエンタメ性へ少しづつ舵を切っていくのか、クドカンがこの後何を書くのか楽しみです。

もう一つTBSでいうと、「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」です。
「凪の暇」や「妻、小学生になる」で脚本を務めた大島美里さんのオリジナルです。

今や日曜劇場のパッケージは倍返しをする別班のイメージ強めですが、こういう落ち着いて見られるドラマもいいものです。
西島さん演じる夏目俊平の底抜けの明るさは固くて重厚なイメージのあるクラッシック音楽のマエストロとは似つかない感じもします。しかし、そのアンバランスなキャラクターがそれぞれの楽団員の心を紐解いて、物語を進めていて、ダレることもなく楽しめます。

指揮を指導している広上淳一さんは、非常に気持ちで棒を振るイメージのある指揮者です。
彼が東京音楽大学の指揮科の生徒に公開レッスンをしている場面を見たことがありますが、指揮を振っている学生に「さちおー、どうして、逃げるのー、浮気でもしたのー」とフレーズに合わせて、感情をセリフにして言わせていました。
夏目が楽しそうに溌剌と指揮を振れば振るほど、物語のメインとなる芦田愛菜さん演じる娘の響との溝が深まる、という構造が強調されます。
ただ、一点。広上淳一さんが指揮者指導をしている割に、西島さんが振るタクトがちょっと下手なんです。
去年の田中圭さんも然り、ドラマ中の指揮者はなんだか下手で、ちょっと冷めます。

フジテレビは月9が昨年の夏から振るわない中、月10は面白いドラマが続いています。
今クールの「春になったら」もその一つ。

シリアスなテーマを扱いながら、御涙頂戴物語にしません。さすが、福田靖さんです。
福田さんというと、法廷もの(「HERO」「グッドパートナー」)やサスペンス要素の強い作品(「ガリレオ」「ケイジとケンジ」)などのイメージがありますが、理屈をちょっとこねくり回したような会話が絶品です。
意地張っりや我を通すような一癖ある人物たちの小競り合いが面白いのです。
特にそれを前面に追いしだして最高だったのが、生田斗真さん主演の「書けないッ⁉︎」でした。生田斗真さんが使うあの手この手の屁理屈。そのひん曲がったことったらありません。

今作「春になったら」では一見、死別が迫る父娘に穏やかな時間が流れているようですが、頑なに治療を受けない父、頑なに結婚を諦めない娘の言い争う場面など、福田会話劇の真骨頂。
死を前にしながら、声を出して笑ってしまうシーンすらありました。

そして、キャスティングがこれまた素晴らしい。
余命3ヶ月を治療せずに満喫して生きることを決めた父親をとんねるずの木梨憲武さん、3ヶ月後に売れないお笑い芸人と結婚することを決めた娘を奈緒さんが、それぞれ演じています。
脇を固める役者さんも素晴らしく、中でも助産院の院長役、小林聡美さんが名演。あの人が出て来るだけで、見ているこちらまで、心が軽くなったような気がします。

フジテレビのもう一作は「僕の手を売ります」です。
ちょっと不思議なテイストの作品ですが、主演のオダギリジョーさん演じるオークワが厄介ごとのダンジョンに迷い込んでいく様は、フィクションのドラマと言うよりはドキュメンタリーの有り様です。
舞台が町田で、私が大好きな喫茶店でも撮影が行われているのも、個人的にはよかったんでしょうね。

このドラマを見て、全く関係ないのですが、落語家立川談志さんの奥さんのエピソードを思い出しました。
掃除をしない奥さんに、「どうして掃除をしないのか」と談志師匠が尋ねると、「日本中のゴミをどこかに寄せてるだけでしょ」と答えたそうです。(立川談志「人生、成り行き」より)

オークワが行く先々で押しつけられる面倒ごとも、なんだか、隣の誰かに寄せているだけ、また寄せられた面倒ごとを誰かに寄せている、そんな気がするのです。
金は天下の回りもの、ならぬ、厄介は天下の回りもの、なのかもしれません。

どうしましょう、もう2000字近く書いてしまっています。まだ2局、4作品しか書けてないのに。
しょうがないので、他の曲は来週に回します。


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