FASS 税務編(完)

全体のポイント

当法人内の業務

・消費税区分経理
・所得税源泉徴収
・租税&公課
・法人税計算に伴う決算調整処理
・税効果会計処理
・税務調査対応業務

当グループ内の業務

・グループ法人税制対応(強制適用)
・連結納税制度対応(任意選択):導入すると法人間の所得の通算が可能になる

国とのやりとり

○企業側からの申告・納付
・源泉税
・消費税
・法人税
・延滞税など
○国からの命令
・税務調査
・処分

地方自治体とのやりとり

○企業側からの申告・納付
・住民税
・事業税
・償却資産税
・延滞金など
○地方自治体からの命令
・賦課課税:固定資産税、不動産税、自動車税、償却資産税

ポイント

○課税対象行為
・所得(益金−損金)に対する課税:法人税、住民税、事業税
・資産保有に対する課税(所得とは無関係):固定資産税(租税公課として販管費に計上)
・消費(購入)に対する課税:消費税(経理実務上は税区分が重要)

○申告納税方法
・代理で申告&納税するもの:消費税、源泉所得税

・税効果会計は会計基準に過ぎないため、適用するかどうかで納税額が変わるわけではない

租税公課

費用計上できるので(損金算入もできるなら)、課税所得を減らせる

会計上は費用計上できても、税務上は損金算入できるもの/できないものがあるので注意

損金算入できるものも、算入時期が異なるので注意
・申告納税方式(申告により納税):事業税、事業所税、酒税、印紙税
・賦課決定方式(通知により納税):固定資産税、都市計画税、不動産取得税、自動車税、軽自動車税
・特別徴収方式(事業者を介して納税):軽油引取税、ゴルフ場利用税、入湯税

消費税申告業務

課税取引

以下の4要件を満たす取引には消費税が課税される(満たさない場合は「不課税取引(対象外取引)」となる)
・国内取引
・事業者が事業として行う取引
・対価性あり
・売買・貸付・サービスである

課税取引の種類
○非課税取引:国が限定列挙しているもの(消費的性質がないもの、政策的に除外しているもの)
・土地の売買と貸付
・住宅(居住用マンション)の貸付:社宅賃料は非課税売上 ※政策上の配慮
・有価証券(社債・株式など)の譲渡・売買
・貸付金の利子、信用保証料
・保険料
・商品券の売買

○免税取引:税率が0%に設定されているもの(ただし課税売上高として認識する必要あり)
 ・輸出取引(商品輸出、国際郵便、国際電話):輸出取引証明書の保存要件あり
 ・国内で販売するが海外で消費される取引:来日旅行者への免税販売

○通常課税取引:ほとんどの取引はこれに該当
・住宅の譲渡・売買
・運送料

不課税取引(対象外取引)

・配当金
・寄付金
・個人による住宅の売買
・保険金

消費税区分経理

・納税額だけではなく、税務特例適用可否の判断にも影響するため、税区分管理は実務上重要
・一般的に、会計システムでは、勘定科目ごとに消費税区分を設定している
・同一の勘定科目に複数の税区分や税率が混在する場合もある
 例:交際費勘定
  ・課税:飲食費(10%または軽減税率8%)
  ・不課税:慶長禍福費
・消費税額は月次でチェックする(課税割合が10%から大きな乖離がないかどうか)
・消費税の計算は複雑であるため、以下の2方式が認められている
 ・一般課税方式(原則)
 ・簡易課税方式(容認):中小事業者には一般課税方式を行う事務リソースがないため軽減措置がある

一般課税方式

消費税を負担するのは消費者であり、事業者は負担不要(消費者から預かった分を納税すればいいだけ)

小売業者は
・仮受消費税(消費者から預かり、納税しなければならない額)
から
・仮払消費税(消費者ではないのに支払った額=条件を満たせば還付される額)=控除仕入税額(税務申告書上に記載して還付請求する)
を控除した額を申告&納税すればOK

仕入税額控除が全額使える(課税仕入にかかる消費税額が全額還付される)のは、以下の2要件を満たす事業者のみ
・課税売上高が5億以下 ※輸出売上(免税取引)も含む
・課税売上割合が95%以上
(つまり、売上高が中小企業レベルで、かつ非課税売上が多くない事業者)

仕入税額控除を受けるための要件
課税仕入の事実を証明するため
○帳簿に記載する
・仕入年月日
・相手指名
・取引内容
・支払対価額
○請求書(原始証憑)に記載する
・以上4点
・自社名(宛名として):税法上では「上様領収書」は認められない(特に金額が大きい場合)

控除仕入税額を全額にできない場合
・課税売上高が少ないということは、国には税収がない(事業者は消費者から消費税を預かって納税しているわけではない)ということ
→税収がないなら国は還付もしない(国が税収を確保するため)
・還付請求可能額は、個別対応方式(複雑)または一括比例配分方式(簡単)のいずれかで計算する

簡易課税方式

・仮受消費税:そのまま申告対象にする(請求するのは自分なので、受け取る消費税額は計算できる)
・仮払消費税:「仮受消費税×みなし仕入率」により算出する(支払った金額のうち何割が消費税額か計算するのは難しい)

みなし仕入率:国が定めた業種ごとの値
・第1種(卸売業):90% ※薄利多売、原価率が高い
・第2種(小売業):80%
・第3種(製造業、建設業、農林水産業):70%
・第4種(飲食業、その他):60%
・第5種(サービス業、運輸業、通信業、保険業、金融業):50%
・第6種(不動産業):40% ※厚利少売、商品仕入は少なく人件費(消費税はかからない)が多い

計算は簡単になるが、税額が有利になる場合もあるし、不利になる場合もある(簡易課税方式を使う場合、みなし仕入率は100%以上になることはないため、納税額を還付額が超えることはあり得なくなる)

簡易課税方式が適用できる事業者
以下の要件を満たす事業者
・基準期間(当期より2期前の期間)の課税売上高が5,000万円以下
・前期末までに税務署長に届出書を提出した
簡易課税方式を適用した場合、原則として2年間は継続適用となる(頻繁に変更できない)

消費税の納税義務判定

以下の要件を満たす場合、免税事業者に該当する(消費税を申告納税しなくてもOK)
・基準期間の課税売上高が1,000万円以下
・特定期間(前期上半期)の課税売上高が1,000万以下、または、特定期間の給与額が1,000万円以下

免税事業者に該当しても、支払った消費税の方が多い場合(例えば、売上がないのに設備投資などが多いケースなど)は、敢えて課税事業者(手続が必要)となって、還付請求することができる

課税事業者であっても、当期の納税額(仮受消費税−仮払消費税)ゼロである場合、申告義務も納税義務も免除される

帳簿保存など

・事業者には、消費者から預かった消費税を納付する義務がある(事業者が消費税を負担する必要はない)
・そのため、事業者には、帳簿や領収書(支払った消費税額のエビデンス=この分だけ納税額を減らせる)を保存することが義務付けられている(最長7年間)

中間申告と申告期限

国の税収確保のため、前期納税額に応じて、当期に中間納税(当期納税額の前払い)が義務付けられている
前期国税分の金額が
・48<≦400万円の場合:年1回、前期納税額の1/2
・400<≦4,800万円の場合:年3回、前期納税額の1/4ずつ
・4,800<の場合:年11回、前期納税額の1/12ずつ(毎月納税して、最終月で確定申告する)

中間申告の方式:各期間で選択適用が可能で、継続要件もなし
・前期実績方式(原則):前期納税額に基づき、対応月数で計算(納付のみでOK、申告は不要)
・仮決算方式(例外):対応期間で仮決算を行い、自分で算出した納税額を申告する

申告期限
・中間申告・確定申告ともに期末から2ヶ月以内(消費税は法人税とは異なり延長不可)

法人税申告業務

日常業務で意識すべき論点

・損金益金対応の原則
・期間帰属:特に損金算入するためには要件が厳しい(課税所得を減額するため)
・資産と損金の区別:税務上で損金とすべきものを費用のままにしていないか?

中間申告税額

・予定申告(原則):前期の確定法人税額に応じて、前払い半年分の法人税納付書が税務署から送付されてくる、期限までに中間申告(例外)を行わなかった場合はこちらが適用される
・中間申告(例外):仮決算して前払い半年分の法人税額を算出する(欠損なら納税不要、所得ありなら要納税)
・前払いが不要になる場合:予定申告の税額が10万円以下となる場合

申告手続

申告期限

原則
・中間申告・確定申告ともに期末日から2ヶ月以内
・申告期限までに確定申告書が提出されない場合、無申告(ペナルティあり)の扱いとなる

例外
・決算が確定できない状況に陥った場合など、期末日までに申請書を提出しておけば、申告期限を1ヶ月〜4ヶ月延長することができる
・申告は延長できるが、納税(期末日から2ヶ月以内)は延長できない

法人税の申告は延長できるが、消費税の申告は延長できない
納税遅れ(利子税の発生)を防ぐため、実務上は、確定申告書の作成完了を待たずに、税額を多めに見積もって見込み納付しておき、確定申告書の提出時に調整する

申告の種類
・白色申告:メリットなし
・青色申告:要件(複式簿記による記帳&帳簿の保存)を満たせば税務上のメリットを受けられる

申告時の添付書類
・計算書類4種(BS、PL、SS、個別注記表)
・勘定科目内訳明細書
・事業概況書(定型様式)

納付書の記載事項
・申告書に記載した確定税額
※課税所得の記載は不要

法人税の計算

・法人税法「別段の定め」に従い、費用収益を損金益金に調整する
・税務申告書における「別表4」(通称「税務PL」)において、課税標準(課税所得または欠損金)を算出する

スタート:会計PL上の当期純利益
↓税務調整における「申告調整」
ゴール:課税標準

税務調整

税務調整は、まずは会計処理ありき、その上で損金益金の金額を決める

決算調整:税務申告上で損金益金を計上するため、あらかじめ決算書上の段階で費用収益を計上しておく処理
申告調整:法人税申告書の別表4上で課税標準を算出する処理
 ・必須的調整:実施しないと税務署から指摘される
  ・例えば、限度超過額を損金不算入にする(交際費、寄付金、減価償却費など)、益金不算入にする(資産評価益、還付法人税など)
 ・任意的調整:やるかどうかは企業の自由
  ・例えば、受取配当金(収益)は益金扱いしなくてもよい(益金不算入にして課税所得を減額させてもよい)

損金&益金

損金
・会計上の費用(3種)をベースに、「別段の定め」に基づき算入/不算入する
①売上原価
②費用:債務確定主義による費用、償却費&引当金繰入額
③損失:資本取引(株主との取引)以外による費用

益金
・会計上の収益(4種)をベースに、「別段の定め」に基づき算入/不算入する
①売上
②資産売却益
③資産受増益:特別収益のひとつ、無償または定額で資産を取得した場合に認識
④その他収益:資本取引(株主との取引)以外による収益

損金経理要件

・税務申告上で損金として扱うためには、まず、確定した決算書上でも費用として計上しておく必要がある
 ・売上原価、役員報酬、給与、資産の償却費などの販管費、営業外費用、特別損失など、ほとんど全ての費用に損金経理要件が適用される
・その上で、限度額以内の金額のみが損金として算入できる

別段の定め

交際費の損金算入要件
・会計上の交際費のうち、税務上の損金として扱えるのは、損金算入限度額のみ
・会議費や福利厚生費との混同に注意
 ・会議費(1人あたり5000円以下の飲食費):全て損金算入できる
 ・交際費:取引先のために支出するもの(接待、贈答、慶弔)
  ・飲食費部分の1/2まで損金算入できる(飲食費以外の部分は損金算入できない)
  ※中小企業の場合は、年間800万円まで損金算入できる
 ・法定福利費:従業員のために支出するもの
  ・法定福利費(労基法で定義):全て損金算入できる
  ・法定外福利費(会社の自由):要件を満たせば損金算入できる
 ・販売促進費:通常の営業活動のために支出するもの(見本品、試供品)

寄附金の損金算入要件
※企業が自由に寄附(利益移転)できてしまうと、国は税収が減ってしまう
※費用処理されていても、当期に未払いな寄附金は、損金算入できない(当期に支払った金額のみ、損金算入できる可能性がある):現金主義
・国等に対する寄附:損金算入できる
・公益事業に対する寄附:一定額までは損金算入できる
・国外(在外子会社)への寄附:損金参入できない
・少額な寄附:損金算入できる
・役員の近親者に対する寄附:損金算入できない(税務上は未届の役員賞与=事前確定届出給与として取り扱うため)

減価償却費の損金算入要件
※以下のように法人税(国税)においては費用として扱い損金算入できるが、地方税においては資産として扱うため、固定資産税・償却資産税は免られない

○少額減価償却資産
・取得価額10万円未満または使用可能期間1年未満の資産
・取得時の費用として計上してOK(税務上も損金参入してOK)

○一括償却資産
・取得価額20万円未満の資産
・取得時から3年間均等分割で費用として計上してOK(税務上も損金参入してOK)

○租税特別措置法(青色申告を実施している中小企業・個人事業主のみ)
・取得価額30万円未満
・取得時の費用として計上してOK(税務上も損金参入してOK)

申告処理の統一

中間申告(仮決算)時の計算方法は、確定申告時と同一にする
・減価償却方法
・棚卸資産の評価方法
ただし、事業年度で選択適用できる計算方法は変更してもOK(中間申告時と確定申告時では状況が変わることがあり得るため)
・特別償却、圧縮記帳
・税額控除
・受取配当金の損益不算入

法人住民税・法人事業税

○課税主体
・法人税:国
・法人住民税・法人事業税:地方公共団体

○法人税:損益不算入

○法人住民税:損益不算入
・企業が地域に存在した期間に享受した行政サービスに対する税金

構成
・法人税割の部分:法人税額×住民税率 ※所得がゼロなら納税不要
・均等割の部分:資本金や従業員数による一定月額 ※所得がゼロでも納税必要

○法人事業税:発生年度ではなく支払年度で損金算入できる
・場所代:都道府県に支払う税金(市区町村には支払不要)

構成
・事業税の部分:課税所得×事業税率 ※所得がゼロなら納税ふよう
・資本割・付加価値割の部分:資本金が1億円超の場合は一定額(外形標準課税


税効果会計処理業務

導入の背景

・税額を正確に計算することで、FS上において、本来の利益を正しく(発生主義=金費用をその効果が及ぶ期間に配分する)表現することができるようになる
・税効果会計を行っても、当期や将来に支払う税額が変わるわけではない、あくまでもPL上の表示が変わる(配分される期間が変わる)だけ

・国際会計基準とのコンバージェンスに伴い、会計基準による計算値と税法基準による計算値のズレが大きくなってきた(税法基準のアップデートは遅い)
・通常は、税効果会計を導入して計算すると、当期純利益の金額が大きくなる(法人税等調整額が△になるため)
・強制適用は公開会社のみ

税効果会計の仕組み

以下をPLに表示するために、「法人税等調整額」を計上する
・法人税等:税法基準で計算された値(実際に支払う税額)
・法人税等(調整後):会計基準で計算された値
・法人税等調整額:「法人税等」を会計基準で計算された値に修正するための調整額
※通常は(より多く徴税されるため)、「法人税等」は「法人税等(調整後)」よりも大きい額になり、「法人税等調整額」はマイナス金額(△)になる

例:税前利益1600万だが、400万円が損金算入できず、課税所得2000万になっている場合(ただし、300万円は永久差異、100万円は一時差異とする)

・税効果会計なし
税前利益       1600
法人税等       800 ※実際に支払う税額(課税所得2000万×40%)
ーーー
当期純利益      800

・税効果会計あり
税前利益       1600
法人税等    800    ※実際に支払う額は800万円のまま
法人税等調整額 △40 760 ※一時差異100万の分(×40%)だけ表示額が調整される
ーーー
当期純利益      840 ※税効果会計を適用した方が大きい額になる

税効果会計を導入するメリット

・有税償却(減損など)による一時的な税金支払額の増加があった場合でも、当期純利益が大きく減少することを避けられる(思い切った不良債権の償却ができる)
・配当可能限度額は繰越利益剰余金の金額に基づき算出するため、配当が容易になる
・税引前損失が100の場合、法人税等調整額が40(実効税率40%)計上される(繰越欠損金)ため、税引後損失は60となる(赤字金額を減らせる)

・税効果会計なし
税前利益       △100
法人税等       0 ※儲けがないので実際に支払う税額もゼロ
ーーー
当期純利益      △100

・税効果会計あり
税前利益       △100
法人税等    0
法人税等調整額 40   40
ーーー
当期純利益      △60 ※税効果会計を適用した方が大きい額になる

考え方

税効果会計を考える時は、1期だけだと誤解しやすいため、2期まとめて考えた方がいい(期間配分が変わるだけなので)

将来一時差異
以下の場合(実効税率30%)、30が税効果額となり、1期目に繰延税金資産30(=前払税金)として仕訳計上し、2期目に取り崩す
・会計:1期目に利益400(税120)、2期目に利益600(税180)
・税務:1期目に所得500(税150)、2期目に所得500(税150)

・仕訳の意味合い:前払税金/法人税等

・仕訳に使う科目:繰延税金資産/法人税等調整額
※「法人税等」を直接増減してしまうと、PL上で税務上の税額を表示できなくなってしまうため、「法人税等調整額」科目を使って調整する

差異の種類

永久差異:税効果会計の適用対象外
・損金計上限度額の超過分(交際費、寄附金)
・法人税や住民税など(そもそも損金として扱わないため)
・罰金的な性格の税(延滞税など)

一時差異:税効果会計の適用対象
・BSとPLがズレるもの(期間差異):ほとんどこれ
・BSのみズレるもの:その他有価証券を時価評価した場合の評価差額金

○種類
・将来減算一時差異(前払税金なので、繰延税金資産の発生原因となる):ほとんどこれ
・将来加算一時差異(未払税金なので、繰延税金負債の発生原因となる):そんなにない

FSへの表示

繰延税金資産と繰延税金負債を相殺して表示する

繰延税金資産DTAの計上要件

繰延税金資産は前払税金の性質を持つため、将来的に相応の課税所得が生じる見込みがなければ計上できない

以下の要件を満たせば、回収可能性があると判断され、繰延税金資産を計上できる
・収益力が高く続く
・タックスプランニングがある(計画が取締役会で承認されている)
・将来加算一時差異の解消見込みがある

繰延税金資産は毎期洗い替えされ、差異解消まで計上可否判断を繰り返す

グループ通算制度(連結納税申告業務)

2020年度税制改正により、2022年3月期をもって連結納税制度は完全に廃止され、グループ通算制度に移行した
損益通算のメリットはそのままに、親法人の事務負担を減らした

グループ通算制度は、従来の連結納税制度にあった損益通算の仕組みは維持しつつ、法人税額の計算から申告・納税は企業グループ内の各企業がそれぞれ個別に行う制度です。
連結納税制度では、企業グループを“一つの法人”として捉え、親法人が子法人から財務データを収集して一つの申告書にまとめて法人税の申告・納税を行うルールでした。2002年度に導入されましたが、企業グループ全体で損益通算ができるとはいえ、全体計算項目が多いために修正が発生した場合に事務負担が多くかかることが長く問題視されていました。そのため令和2年度税制改正により、連結納税制度を廃止する代わりに、完全支配関係にある企業グループ内の各企業を納税単位として、より業務を簡素化できるよう「グループ通算制度」が創設されました。

適用法人と制度の概要

連結納税をやるかやらないかは企業の自由
・選択適用手続
①申請期限:適用年度開始前までに3部提出
②申請法人:グループ内全法人の連名で申請
③承認:申請書は親法人の所轄税務署長を経由して国税庁長官の承認を受ける

・親法人(普通法人または協同組合など)
・その親法人が100%出資している子法人(普通法人のみ)
をひとつのグループとして扱い、連結所得を求め、それに対して申告・納税する仕組み
※連結所得は、基本的には個別所得の合算

ポイント
・外国法人や精算中な法人は対象外
・連結納税の対象となる100%出資子会社を選ぶことはできない:全ての100%出資子会社を対象とするか、連結納税をやらないかの2択しかない
・各社の個別所得は、各社で算定する(グループ間で統一したルールに従い、連結納税用データを作成する)

連結グループ会社の体制整備
・連結会計と同様に、連結納税についても親法人が子法人を指導する必要がある

メリット
・法人間で課税所得の通算(欠損金を出した法人がある場合、他法人の利益を相殺できる)ができるため、減税効果が望める

デメリット
・もし親法人が納税しない場合には、子法人が支払う義務がある(連帯納付義務)
・適用可能なのは法人税のみ(地方税には適用不可)
・一度連結納税を開始すると途中から止められない

「連結納税」と「グループ法人税制」との比較

ほぼ同じだが、違いがある

グループ法人税制
・100%出資関係のグループ内法人間に強制適用される課税制度
・確定申告書に「出資関係図」の添付が必要
・グループ内取引については、課税計算上で相殺される
連結納税とは異なり、法人間での課税所得の通算は不可能

共通点

①譲渡損益の繰延
A社が簿価100の資産をB社に売価120で譲渡(B社が保有中)

グループ外に資産譲渡(売却)が行われるまで、グループとしては譲渡損益を認識しない(繰り延べる)
※対象資産は「譲渡損益調整資産」(譲渡直前簿価が1000万円以上の資産)のみ
ただし、棚卸資産として扱われている土地・売買目的有価証券は含まない

②グループ内寄附金/配当金の相殺

計算システム

・単に個別所得を合算する分
・連結所得を計算してから各法人に配分する分

欠損金の取り扱い

・連結納税開始前の子法人の欠損金:原則として通算不可(課税逃れ目的の子会社取得を防ぐため)
・連結納税開始前の親法人の欠損金:通算可能

適用税率・申告期限


税務調査対応業務

手続と処分

手続(納税者が行う)
・修正申告:納税額が過小だった場合、申告後に自ら修正して再申告する
・更生の請求:納税額が過大だった場合、税務署長に更生してもらい、還付税額などを収受する

処分(税務署長が行う)
・更生:納税者の申告を是正すること
・決定:無申告な納税者に対して納付税額を通達する
・再調査:請求却下/審議後棄却/処分取消/処分変更

税務調査後のフロー

税務調査の結果(指摘事項)に不服がなければ、修正申告して追加納税
もし不服があれば、税務争訟
※一度修正申告してしまうと、以降は不服申し立てができなくなるので注意

○納税者が指摘事項を認めて追加納税する場合
租税法に基づく税務調査:税務署
↓指摘事項あり
修正申告:納税者

追加税額の納付:納税者

附帯税(利息・罰金)の決定:税務署

附帯税の納付:納税者

○納税者が税務署による更生を認めない場合
租税法に基づく税務調査:税務署
↓指摘事項あり
更生:税務署
↓不服あり(税務争訟
不服申し立て(税務署による処分日から3ヶ月以内) 
・再調査の請求:税務署に対して
・審査の請求:国税不服審判所に対して
↓さらに不服あり
税務訴訟の提起(審判所による通知日から6ヶ月以内):裁判所に対して

税務調査

①事前通知
・税務署から、納税者または税務代理権を持つ税理士に調査実施通知が行われる(通常は書面ではなく電話)

②事前準備
・用意すべき書類
 ・会社概要:法人設立登記簿謄本、組織図、事業一覧、商品サービス一覧、主要株主一覧、取引先一覧、取引金融機関一覧、子会社一覧
 ・帳簿:主要簿(仕訳帳、総勘定元帳)、補助簿(補助記入帳、補助元帳)、台帳、ストックオプション管理記録、投融資運用記録
 ・原始証憑:見積書、契約書、注文書、納品書、請求書、領収書
 ・その他:会計システムの設計書、社内規則稟議書取締役会議事録、税務申告書類
・体制
 ・社内通知
 ・対応日程の作成
 ・過年度調査時の指摘事項に関するチェック
 ・立会者(顧問税理士など)のアサイン

③税務調査官の権利
・必要に応じて納税者に質問したり書類を閲覧したりする権利
・強制権は持っていないので常に従う必要はない

④納税者の義務
・受忍義務(適法な質問には応じる義務)
・納税者が受忍義務に反すると、懲役や罰金が課される

⑤調査の種類
・任意調査:通常
・一般調査
・実施調査:反面調査も含む

⑥立会者(顧問税理士)
・回答者はあくまでも経営者であり、立会者はアドバイスや催促を行うのみ

⑦調査期間
・原則:前回調査から今回調査までの期間
・実務:3年〜10年(悪質な脱税である場合)

⑧所轄
・資本金1億円未満の内国法人:税務署
・その他:国税局

附帯税

一般的に罰則性を持つため(利子税以外)、法人税には損金算入できない

利子税
・納付期限の延長を事前に税務署が承認した場合の利息
・損金参入できる

延滞税
・納付期限の延長を申告せずに延滞した場合

過少申告加算税
・税務調査前に申告した場合:過少申告加算税は免除
・税務調査の通知後に申告した場合:不足額×5%
・税務調査の実施後に申告した場合:不足額×10%

無申告加算税
・申告せず税務署から決定された場合

重加算税
・税額が悪質に隠蔽や仮装されていた場合

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