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釜爺のいる病院

なかなか姿を表さなかった親猫を、餌やりさんが捕獲してくれました。それは助かったのですが、なんせその日は予約を取っていない日。でも猫に「予約の日に来てね」なんて言っても無理な話です。よって急遽手術してくれる病院を探す事になりました。

しかし、急なTNRを受け入れてくれる病院がない…。
仕方なく、お隣の区の病院へ連絡をとってみることにしました。

電話をかけると、しばらくして

「はい○○動物病院。」

院長らしき声。

「あの、TNRをしていて今日急に捕まってしまった猫がいるのですが、受け入れてくださいますか?」

「え?もう捕獲しちゃったってこと?そうかぁ、捕まえてるのかぁ。うーん、今すぐ連れて来れる?忙しいけどなんとか時間があればやるけど。それか、5時から7時の間に連れてきてもらえたら、明日するよ。」

よかった。猫さんは、明日手術してもらうことになりました。

夕方、言われた通りその病院へ猫を連れて行きました。初めての病院はドキドキします。着いてみると、そこは一軒家。動物病院の看板が出ているので間違いはなさそうです。
階段を登って玄関の扉を開けました。
すると先客がおり、事務机のような処置台で、その方が連れてきた仔猫2匹を処置している先生の姿がありました。

ドアを開けてすぐ処置室というのにも驚きましたが、先生は落ち着いていて、慣れた手つきで小ケージの中にいる子猫にワクチンを打っています。

入口側の部屋の手前には、待合用の椅子が並べてあって、向かいに先生が処置する机、その奥には色んな薬が綺麗に棚に並べられています。左側の棚には療法食フード等が並べられていて、その下には袋に入った誰かの捕獲機が床に置いてありました。

左側の部屋のドアは空いており、そこには空のケージ、処置台、機材などがあります。その奥から姿は見えないけれど、猫の鳴き声が聞こえてきました。たぶんお泊まり中の猫さんかな。

そこは40年くらい時が止まったような空間でした。古めかしいけれど汚くなく、色んな歴史がつまっているような、そんな室内。

とにかく、前の方の子猫の処置が終わるまで、私は黙って待つことにしました。
前の方の処置が済むと、先生はどこからか伝票を出し、
「子ねこの名前は何?〇〇ね、今日はワクチンと、、」
と手書きで領収書をかいています。
途中、もうひと組の猫を連れたボランティアさんが入ってきました。今いる方とお知り合いのようで、今日捕まえた猫を保護するかどうかという話しや、TNRの現状報告を話しています。

伝票を書き終えた先生は、
「この子は、顔をタオルで覆ってあげれば触っても大人しいから、動かすときはそうやって、歯はもう乳歯は残ってないし、半年くらいだね体重からして、まぁ慣れるでしょう」
と言って現金でお金を受け取り、前の方の処置を終えました。

「さてさて、で、連れてきた子はこの子?」

私の番になりました。
左側の部屋に通され、捕獲器に入った猫さんを病院の小ケージに移し替えます。
先生お手製の道具で、猫さんをスムーズに移動させました。処置内容や、お迎え日、およその費用など確認して終わりです。

最後にお電話でお願いしていた、調子の悪い捕獲器の修理を頼んでみました。この先生、どなたから聞いた話では、捕獲器の修理もしてくれると聞いた事があったからです。

「どれどれ、見せて」

と、先生は机の上に捕獲器を乗せて確認。
不具合のある所を伝えると、ペンチを後ろの棚の引き出しから取って、調整してくれました。
途中、後から入ってきたボランティアさんも一緒に見てくれて、微調整をしてくれました。お陰様で、長年くすぶっていた私の捕獲器も復活し、とても助かりました。

「頑張ってくださいね」
と、後から来たボランティアさんに言われたので、お礼を言って病院を後にしました。

あの独特な空間の余韻が抜けず、どこか別世界から抜けて来たような気分で、帰りはしばらく歩いて帰りました。

途中、(あ、あの先生、千と千尋の神隠しにでてた釜爺に似てたなぁ。)なんて、思いながら、不思議な気持ちで夜道を帰りました。

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