加賀流言改方‐狐月‐

……浅野から見せてもらった狐月に関する資料をヒラヒラ振りながら

「あのさぁ、浅野君。俺たちもう21歳だよ?こんな子供騙しが通用すると思うわけ?」

「ほらね…だから嫌だったんだよ。どうせ信じないと思った。でも、本当の話なんだよ」

やれやれと浅野が首を振りながら嘆いた。こいつ、意地でも本当のことを言わないつもりだな。何とかして口を割らせようと思案しているとどこからともなく「ごよう…ごよう…」と聞こえてきた。ごよう?何のこっちゃ?声の方に目をやると消防団が着ているみたいな法被を着て狐の面をして提灯を持った変な2人組が走って来た。狐面の掛け声「御用…御用…」は近づいてくるにつれだんだんと大きくなって来た。そして、狐面は私の目の前で止まった。私が困惑していると浅野が「お勤めお疲れ様です」と言った。

「え、何?お前、知り合いなの?」

浅野は私の問いかけを無視して狐面に「こいつです」と私を指差した。すると狐面は私の両腕をガシリと掴んだ。私は振りほどこうと暴れてみるが物凄い剛力で全く身動きが取れない。

「ちょっテメ、浅野、これどういうことだよ」

「いやいや、お前が悪いんだよ。狐月は金沢人しか知ってはいけないんだ。悪いな」

そう言うと浅野はスタスタと近くのバス停に歩いて行き、すぐに来たバスに乗ってしまった。私は事態を全く呑み込めず取り敢えず狐面から逃げようとバタバタ暴れた。

「御用…御用…」

狐面の掛け声が途切れることなく聞こえる。どういうわけか意識が遠退いてきた。なんだこれ。

……気がつくと私は自宅のベッドの上だった。頭がクラクラする。テレビをつけるとあの女性アナウンサーが随分とさっぱりした顔でにこやかに天気を伝えていた。よく見たら2日位日にちが進んでいる。私は唖然としてテレビを観続けた。

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