金沢百鬼夜行‐上‐
夕子さんの実家でモノノケを見せてもらって以来、どういうわけか彼女は私に話しかけてくるようになった。恐らく私と夕子さんは秘密を共有した仲になったからだと思う。私としては憧れの女性と親しくなれて嬉しい限りだった。そんなある日、サークルが終わり帰り支度をしていた私に夕子さんが
「週末何か予定ある?」
と尋ねた。その週末はアルバイトも休みだったので特に予定は無いと告げると彼女は「じゃあ、ちょっと付き合ってよ。また面白いもの見せてあげるからさ」と言うと私の返事も聞かずさっさと帰ってしまった。これは所謂デートの誘いということだろうか。なんという僥倖!私は天にも昇る気持ちで週末を指折り数えて待ち望んだ。
週末、彼女と待ち合わせたのは香林坊のバス停だった。夕子さんは私を見つけるとこっちこっちと手招きした。私は夕子さんの元へ向かうと彼女は人込みの中をスルスルと抜けどんどん歩いていく私は彼女を見失わないように必死で追いかけた。それにしてもどこへ行こうというのだろう。彼女についていくのに必死で自分が今どこにいるのかわからなかった。
前を歩く夕子さんが立ち止まって私はようやく彼女に追いついた。目の前には古ぼけた喫茶店がある。
「この喫茶店知ってる?」
「いえ、初めて来ました。美味しいんですか?ここ」
私がそう言うと彼女はふわりと笑って「そういうんじゃないよ」と答え喫茶店の扉を開けた。私は何がなにやらわからなかったが彼女について喫茶店に入った。
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