未完の書

ある港町に住む人から一冊の本を譲り受けました。ページをめくると断片的な言葉が不規則に並んでいます。そして、ページの3分の2位から白紙になっています。この本は未完の書なのだと思います。

本を綺麗に掃除したので、さっそく月歩堂の目録に本を載せました。載せて3日後にお手紙をいただきました。本を是非譲ってほしいとのことでした。しかし、自分は足が不自由であるため自宅の近くまで届けに来て欲しい。勿論、交通費は別途支給するとあり、私が目録へ記載した本の金額の10倍の金額で買い取りたいと書いてあります。

私はどうにもこの話が信用できません。こういった取引は初めてですし、お断りしようかとも考えたのですが、お手紙を何度も読み返しているいるうちに送り主のことが気になってきました。そこで、優弥さんにお願いなのですが一緒に来ていただけないでしょうか。

…私は手紙を閉じた。千鶴さんとの連絡は何故かいつも手紙なのだ。時計を見ると出勤時間が迫っている。手紙の返事は帰宅してからにしよう。身支度を整えドアを開ける。外は風が冷たく晩秋の香りがした。


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