小瓶と金平糖

その日の月夜さんの部屋はカエルだらけだった。私は恐る恐る部屋に入った。

「お義姉さん。これは一体なんなんですか?」

月夜さんは私が怖がっているのが面白いらしくクックックックとずっと笑っている。

「あー面白い。やはりあなたと家族になれて良かった。夕子は元気?」

「そりゃあ、もう。すいませんね今日出張で京都に行ってます。」

カエルが1匹私の頭に乗っかり大あくびをした。これが月夜さんのツボだったらしく、フフフフ…フフフと机をパンパン叩いて笑っている。

「元気ならいいの。じゃあ、またね」

「嘘ぉ…」

「嘘ですよ。真面目にしてください」

カエルがぴょんと私の頬に体当たりしてきた。ヒィと私はのけぞる。真面目って何だろう…私、どこで間違えたんだ…。

「これを夕子に届けてほしいの」

そう言うと月夜さんは小さな小瓶を差し出した。受け取ると液体が入っている。中身は…聞かないでおこう。どうせ面倒なことが起きるに決まっている。私もこの家の一員になって、世の中には訳の分からないことが多数あって、金沢のわけわからないことの大半はこの家が関係していることを嫌というほど味わっている。

「はい。わかりました。夕子さんは明日帰ってくるので明日渡します。それで大丈夫ですよね」

「あら、それが何か聞かないの?」

「聞きませんよ。どうせ面倒なことでしょう?」

「あなたも成長したのね。よろしい。金平糖をあげましょう」

月夜さんはそう言うと金平糖が入った漆塗りの皿を差し出した。断ると怖いので2・3粒つまんで口に入れる。甘さが口に広がる。気のせいか仄かに桜の香りがした。

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