業者市にて③

私がポケッとしているうちに競りは終わっていました。私は手に入れた見たことが無いお金で見たことの無いモノをいくつも仕入れることができました。

私は大変満足して篠崎さんにお礼を何度も言いました。篠崎さんは少し迷惑そうに「そんなに礼を言わなくてもわかってるよ」と手を振り、出口の扉を開けました。

「あ、そうだ」

篠崎さんは立ち止まり振り向いて

「今度、田所先生に線香をあげに行くよ。その時に上等な紅茶でもご馳走してくれ」

と言い、また手を振り部屋を出ていきました。篠崎さんは祖父の一番弟子で独立後も最も信用していました。祖父の死の間際、私が祖父の仕事を引き継ぎたいと宣言した時に「そこまで言うならわかった。もし、仕事で困ったことがあったなら篠崎君を頼ったらいい。彼は信頼できる」とかすれる声で私に伝えたことを今でもはっきり覚えています。

私はもちろんです。と頷き仕入れた商品を段ボールに入れ始めました。真っ先に仕入れたカマイタチの尻尾は瓶の中でヒュルヒュル、ヒュルヒュルと回り続けていました。

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