贋作士語る
あの女には借りがあった。だから今回の未完の書?とかいう本の贋作を格安で(ここ重要)引き受けた。俺の工房には古今東西の材料があるからあの程度の本の贋作を作るなんて簡単すぎるくらい簡単だった。むしろ、本物を超えるくらいのものを作ってやろうと思った。そして、あの女に本物と贋作を逆に渡す。あの女は恐らく気づかないだろう。よし、面白いことになってきたな。俺は俄然やる気になって本を作り始めた。
2日後。本は完成し、あの女を呼んだ。一見すると女は礼儀正しく清楚な雰囲気だが騙されてはだめだ。以前、会った時は贋作士の俺が騙されたからな。
「できたよ。持って行ってくれ。どうだ本物そっくりだろう?」
「ありがとうございます。本当に精巧にできていますね。貴方にお任せして正解でした」
「お世辞はいい。俺はこれで借りは返したからな。あと会うこともないだろう」
「えぇ…そんな。借りだなんて。これだけ素晴らしい作品、ちゃんと見合ったお代をお支払いします」
そう言われたら俺もまんざらでもない気になってきた。女は本当に正規の値段の金を俺に渡した。金を貰うとなんだか騙すのが悪い気がしてきた。とわいえ、贋作と本物を見分けられないのは向こうの技量不足だから俺のせいではない。
「それではいただいていきます。こちらが贋作ですね。ありがとうございます」
女は俺が作った贋作を間違うことなく見分けた。呆気に取られていると女はクスクス笑いながら
「ダメですよ。精巧に作りすぎています」
女はお辞儀をして去っていった。
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