本日は天気雷雨のち風強し3

家の離れにある茶室のような小部屋に私はまた戻って来た。溜息をつき

「お邪魔します」と木の引き戸を開ける。月夜さんは赤い鮮やかな振袖を着て文机に頬杖をついていた。

「あら、お久しぶりですね」

「お久しぶりじゃないですよ。なんでわけのわからないことに巻き込むんですか」

月夜さんは悪戯をした子供みたくクックッと笑った。笑いごとじゃあ無いよまったく。

「あなたは本当に良い人だから何をしていようが必ず来てくれると思ってました。あっ金平糖食べますか?」

月夜さんは小さな木箱に入った金平糖を差し出した。私はひと掴みし口に入れボリボリ食べた。金平糖は甘さ控えめな上品な味がした。

「美味しいですねこれ」

「一級品ですから。なかなか手に入らないのですよ」

私はなんだか罪悪感に駆られた。い、いやっ今日は忙しい所を呼び出されたんだ。これくらいのもてなしは当然だ。

「ごめんなさいね。忙しい時に。面接行く所だったのですよね」

「えっ何で知ってるんですか」

「お見通しですよ」

そうだった。この人は神がかっているんだった。これ以上、面倒ごとはごめんなので用件をさっさと聞いて帰ろう。

「ところで、何で俺が呼ばれたんですか?というか今、金沢で何が起こっているんですか?」

「簡単なことです。石浦神社は知ってますよね」

「ああ、兼六園の近くにある神社ですよね」

「そうそう。その神社の裏に石臼みたいな円い石があるんです。その石は魔界の入り口の扉みたいなものなんですが、それがずれてるみたいなのです。それを元に戻せば怪異は治まります」

「そんな簡単なことなんですか」

「言ったじゃないですかぁ簡単だって。天気の問題だとするとこの程度では済みませんよ」

月夜さんはまたクックッと笑った。よし、それくらいのことならすぐに何とかなりそうだ。私は月夜さんに礼を言って引き戸を開けた。

「大野君1人で大丈夫ですか?私も行きますよ」

「いやいや、そこまで月夜さんのお手を煩わすわけにはいきませんよ。たかだか石のズレを直せばいいんですよね」

「まぁ…そうですけど」

私は一礼をして部屋を出た。外で待機していた私を拉致した男に丸澤圭一郎に電話するように言った。男は私のような市民に命令されることが気に喰わないようだったが、事態が事態なので渋々従った。

コール音が1回、2回…と鳴る。


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