桜の花が咲く前に 前編

3月になったばかりのある日、夕子さんから写真付きのメールが送られてきた。

これ、明日着るやつ。いいでしょ。

夕子さんが鮮やかな振袖と袴を着ている写真をぼんやり眺めながら最初は何のことかわからなかったが、しばらくしてああそういえば卒業式かと気付いた。

いいですね。ご卒業おめでとうございます。

返信するとすぐに返事が返って来た。

明日、13時に北陸電力会館

その場所は卒業式がある会場だった。そこに来いということだろう。あ、でもその日は企業説明会だ。まあ、ギリギリ間に合うだろう。

次の日。私はタカをくくっていた。説明会は延びに延び、道は大いに混みバスは遅れに遅れた。私は青くなり次のバス停で降りた。夕子さんの大事な日に遅れるなんてありえない。ありえないことをしでかした場合、何が起きるか想像しただけでも恐ろしい。恐らく夕子さんが操る妖怪に骨までしゃぶられるだろう。

私は駆けに駆けた。慣れないスーツを着ているせいで全く持ってスピードが上がらない。頑張れ自分。彼女のために。そして、自分のために。

時刻は12時53分。約束まであと7分。

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