動物の図鑑-カリガ版-

〈520ページ 「猫」〉

 この頃巷で猫背の人間が猫になるという奇病が流行っているらしい。猫鑑定士なる人まで出現し、ヒヨコのオスメスを見分ける要領で猫と人間を見分けてくれると聞いた。私は特にこの病が流行しているというある町を取材で訪れた。「のんびり暮らせる猫の人生(この場合はニャン生か)も悪くない気もするけどな」と猫になった自分を夢想しながら私は町医者に話を聞いた。

「君、これから先ずっとキャットフードでもいいのかね」

 と町医者が真剣な顔で答えた。それはちょっとつらいかもしれない。この奇病に対し政府はようやく本腰になり対策に乗り出した。といっても具体策はない。奇病を防ぐ手立てはとにかく背筋を伸ばすことであるらしい。

 町医者への取材が終わり帰ろうとすると診察室に一匹の猫が入ってきた。猫は私の足にすり寄って離れない。

「この猫は先生の患者さんですか?」

「いや、そいつは私の飼い猫だ。人懐こいんだ」

 私は先生に頭を下げ診察室を出た。ジャーナリストをやっているといろんな出来事に出会うな。私は頭を掻きながら背筋を伸ばし駅へ向かった。

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