金魚も時には空を飛ぶ2

「はぁ?嫌ですよ。確かに俺は玉川図書館の地下分館に以前侵入したことがありますよ。だから言っているんです。あそこはあの後警備が余計に厳しくなったんですって。昔とは違う」

数年前、金沢のネズミと呼ばれる若者が玉川図書館地下分館に侵入し、ある大物議員の不祥事をリークした。そのことは全国ニュースになったので多くの人が知ることになったが、リークしたその若者を知る者はいなかった。知っていたとしてもすでに過去の人として記憶の彼方に行ってしまっている人が大半だった。ネズミにはそのほうが好都合だった。あのリークで当面は遊んで暮らす金が手に入ったのだから優雅な潜伏生活を送れているのだ。

「あの後、金沢の有力者が動くわ加賀流言改方が俺を捕まえようとするわ大変だったんスから」

「そこを何とか!お礼はそれなりに…」

「無理だね。俺が昔みたく近江町市場でバイトしてた頃とは違うんス。金に不自由してない」

電話は切れた。もう一度同じ番号にかけるもつながらない。館林教授は机を思い切り叩く。目の前にある水槽の中の金魚が驚いてこちらを一斉に見る。机を叩いた手はジンジンと骨まで響いた。

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