見上げる恋

「ほんとイケメンだよなー!」
戸棚の荷物をとったら叫ばれた。

「ぁあ、、はは。はい、どうぞ」

「ありがとうございます!!!
 ほんとに素敵です!!」
小さくてかわいい後輩がキラキラした瞳で
こちらを見ていた。

「あー、ありがとう。」

「なんだよお前ばっかりずりー!」

いや、ずるいもなにも

「バカ、でかい声出してないで働け。
 だいたいお前男だろ。お前がとれよ。」

「いって!やめてくださいよ店長!」

「大丈夫?重かったでしょ?」

「あっ大丈夫です!全然、、はい、、」

「だってこいつのほうが背たけーし」

それ言うのやめて

「だからって女の子に荷物とらすなバカ」

女の子、、。
なんだか少しこそばゆい。
いや、もちろん女なんだけど、、。
身長や顔つきのせいで通ってた女子高では
すっかりモテた。
バレンタインのチョコももらったし
かっこいいだのイケメンだの散々言われて
自分でも少し麻痺していたところもある。
いつも誰かに頼られて、助けて。
いつしかそれが自分のポジションになった。
だからかな。

「次なんか頼まれたらすぐ俺に言いなね。」

そんな風に言ってくれることが
いつもどうしようもないくらい嬉しい。

「あっ、はい、、ありがとうございます。」

本当はもっとあの後輩の女の子みたいに
ニコニコ笑ってお礼を言いたい。
でも自分には似合わない。そんなの。
だからいつも上手く話せない。


「「お疲れ様でしたー!」」
「はーい。おつかれさま〜」
最後のお客さんが帰って閉店の準備をする。

「あーつかれた。おつかれ!」

「あっ、おつかれ」

「なぁあの子予定あると思う?」

あの子、、ぁあ後輩の、、

「いや、さっき予定なくなったって言ってたよ」

「まじで!?よっしゃ誘ってこよ!
 ありがと!」

「うん」

あいつ後輩のこと好きだったのか。
あの子かわいいしな。
小さくてかわいくていい子だし。
うん、納得。

「お疲れ!」

「あっ!あっお疲れ様です!」

「めっちゃ吃るね(笑)びっくりした?」

「いや、大丈夫です!!」

「そ?今日帰りバス?」

「はい!」

「外、雨だけど。バス停まで歩き?」

「え?あっほんとだ、、。
 あっ大丈夫です!すぐそこだし!」

「でも濡れちゃうじゃん。
 送ってくよ、バス停まで。」

「え!?いや大丈夫です大丈夫です!!」

「めっちゃ拒否るじゃん!笑」

「いや、じゃなくて!店長忙しいし!
 悪いし!その、、」

「もうお店終わったから忙しくないよ。
 それに大事な従業員に風邪引かれたら
 困るしね」

大事、な、、従業員、、、。

「あっ、そうです、、よね。
 休んだら迷惑かかるし、、」

「そうそう!車の鍵とってくるから待ってな!」


.
「おまたせ!どうぞ〜」

助手席のドアなんて初めてあけてもらった。

「あ、ありがとうございます」

雨の音よりも大きい心臓の音が
店長に聞こえてしまいそうだった。
店長はオーディオから流れる曲を
口ずさんでいる。

「この歌知ってる?」

「いや、えっと初めて聞きました。」

「あっほんと?雨の日この歌聴きたく
 なるんだよね〜」

「いい歌、、ですね!」

「でしょー!?俺が作ったみたいに
 言うけど(笑)」

ニコッと優しく笑うから
胸がギュッと締め付けられる。

「あ。今日さ、荷物とってたじゃん?」

「あっ、はい。とれないっていうから。」

「いんだよ、誰かに頼んで。」

「でも、とれたし!大丈夫です!」

「でもあの荷物重いし、万が一落としたら

「確かに、、落としたら大変ですよね。
 大事なお酒だし、、気をつけます!」

「や、じゃなくて。危ないじゃん。
 怪我しちゃうでしょ。
 もっと頼ってくれていんだよ?
 長い付き合いなんだし」

さっきまでの笑顔はなく真剣な顔で
前を向いたまま話す店長をじっと見た。

「女の子なんだから。
 ちゃんと大事にしなきゃ、自分のこと。
 もぅ無理しちゃだめだよ。わかった?」

「、、はい。」

私はこの人をどこまで好きになるんだろう。
いつもいつも助けてくれる。
初めて頼ってと言ってくれた人。
この性格も顔つきも身長も
上手く話せないこともなにもかも
店長といると気にならなくなる。
店長が今まで沢山優しくしてくれた分
私もなにかしてあげたい。力になりたい。
店長の大事な人になりたい。
でもまだ気持ちをぶつける自信なんてないから
もらった飲み物を一口飲んで
そっと心にしまっておく。


🎧milk tea
 福山雅治


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