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しゃべらない生き物


道を歩く、季節ごとに花が咲いたり、緑が茂ったりする、これは一年中見てるような気がするなあと思ったりする。いつ見ても名前が分かんないけど、まあいっかと思って通り過ぎる。

仕事ができるようになったら日々が楽だなあと思うことはあれど、仕事を完璧にこなして素晴らしいと思われたいという気持ちはあまりなく、私が仕事をしていて嬉しいのは、リンドウの分かれた花のひとつが色濃くなってぷつぷつと模様がでてきたらこれはもう終わりの証拠だよとか、花は下から上に咲いて枯れるから、上の方も下の方も気にせず使うとアレンジメントの寿命がちぐはぐになっちゃうとか、なんかそういうことを教えてもらったとき。自然の摂理にいっこ詳しくなったとき、嬉しいなあと思う。顕微鏡を見ていたときは、仕事が早くできたことは怒られないという意味で嬉しかったけど、今でも私の中に残り続けるのは、コガネムシ科の生き物の触覚は特徴的でかわいいとか、1ミリしかない虫でも種が同じであれば全体デザインは各個体みーんな規則的なんだから(模様や、虫によっては毛の位置まで!)、世界はもともとの人間の視力では全く正しく捉えられないんだよなと思ったこととか、ハエトリグモ科のオスは触肢を持ってて、それはメスとの交尾に使われると同時に、種固有のために人間に種の識別のヒントにされてるから、顕微鏡でじっくり観察されてどんな形をしているか、写真まで撮られちゃうってこと(クモからしたらたまらんよね)。そういう生き物の神秘だけを覚えてている。

私は地球に生まれて、人間だった場合。せっかく人間だったから、固有の言葉や知能を駆使していろんな生き物を見学して、教えてもらって、知って死にたい。でも、間違えてしまいそうになるけど、理解は、できないんだ。

言葉をもたないものは合図を持っているけど、その合図はどれくらい正確なんだろうか。文字を大切にする私たちは、たまに言葉の正確さに固執してしまうけど、犬は「大体このくらいの鳴き声」「このくらいの態度」くらいでコミュニケーションをとっているように見えなくもない。人間は「寂しかったのね」とかいうけど、「寂しい」という言葉はいったいなんだろう。いったいひとつなのだろうか。ベルを鳴らして「散歩」や「ごはん」を伝える賢い犬は、言葉を扱っているのだろうか。私の太ももの上で丸くなった猫や、私にお腹を出して目をつぶった犬は、頭の中にどんなものを浮かべていたんだろう。言葉を頭に思い浮かべない生き物との接触は、微妙なニュアンスで続いていく。完璧に想いが伝わっているのだろうかと不安に思いつつも、この猫が、私の太ももから離れないから。この犬が、私が寂しいときに隣に座るから。だから、と思う。

トイプードルみたいなふわふわの髪の毛のおばさんが前を通る。私もあれにしたい。トイプードルみたいなふわふわの髪の毛にすると、私はトイプードルなのかと思われて、少しミスをしたくらいなら可愛いからって許されそう。私だったらそうする。犬が無条件に可愛いというのは人間の弱みだ。でも犬からしたら失礼な話なんだろうか。自分の姿を見て溶ける人間、対等とはつまりどういうことか。食べ物を運ぶウェイトレスは客を避けながら進むが、配膳ロボットは客に避けてもらいながら進んでいく。人間はネコ型ロボットに優しいが、ネコ型ロボットは自分たち人間のようには道を避けられないと、人間は分かっている。でも暗い話ではない。私たちは犬からもし失礼だよと言われたら、素直にごめんと言うだろう。なぜならば、私たちは単純に犬を愛しているからだ。

新生児が微笑。この子は言葉を覚える前の人間。友達の年長の子どもが会うたび、どんどん友達に似ていく。新生児はずっとぼんやりしているか、眠っている(または泣いている)。返事はないのに、声をかけ続けるママ。私の小さい頃を思えば、新生児のときの記憶は一切無くて、私をあやす母の顔が視界いっぱいに広がる画は想像できない。きっとたくさん話しかけられていたが、思い出せない。あのときの記憶は私の頭の中にしまわれて、一生思い出せないでいるだけなのか。でも私も新生児にいっぱい話しかける。眠いの?おっきくなったねえ、笑うの、かわいいねえ、あうー、そうなの、嬉しいの……


植物が枯れると悲しいのはもしかしたら自分に見立てているだけで、なんだかそんな気がするの連続かもしれない。仕事で人に胡蝶蘭をたくさん送る、縁起というのは、なんだか不自然で自己満足だな。蘭が好きなのに根付くから病院には向かないのと言われて送ってもらえない個室のおばあさん。言葉に意味を込めてしまう私たちは言葉を持つから人間だって、犬は「根付く」なんて言葉知らないから、どこで蘭もらっても蘭。もしかしなくても、蘭という名前すら。



今日のうた
韓国ソングなど。


和訳したことはない。果たしてどんな歌詞なのだろう。

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