読書感想文(10)シェイクスピア作、福田恆存訳『夏の夜の夢・あらし』

はじめに

この本を読んだきっかけは書店でセールをやっていたことです。前に読んだ『にごりえ・たけくらべ』と次に読むつもりの『嵐が丘』を買おうとした時、レジで「ただ今、文庫・新書3冊で15%引となりますがよろしいですか?」と言われました。「ちょっと待ってください」と答えて選んだのがこの本でした。『ヴェニスの商人』と迷いましたが、なんとなく直感でこちらを選んだと思います。今回読んだのは新潮文庫です。シェイクスピアの作品は多分今までも全て新潮文庫で読んでいます(確か全部福田氏の訳)。確かシェイクスピアの翻訳版全集がちくま文庫であったので、いつかそちらも読んで比べてみたいなぁと思っています。

「夏の夜の夢」の感想

まず一言言いたい、とてもおもしろかったです。「夏の夜の夢」は初めて読む喜劇でしたか、本当に愉快で面白く、笑いながら読みました。シェイクスピアの作品はいつも何かしら難しく感じる所があるのですが、この作品は今までで一番読みやすかったです。誰かに「シェイクスピアの作品で何かオススメある?」と尋ねられたら、この作品を勧めたいです。読みながら頭の中で役者が動くような、そんな感じでした。

この作品では妖精が出てきます。解説によると、妖精にこういうお茶目なイメージ(?)がついたのはこの辺りからだそうです。それまでは陰湿で悪戯をする嫌な奴、みたいなイメージだったそうです。そういえば「ハリー・ポッター」シリーズに出てくる召使いのドビーも妖精だったと思いますが、あんな感じなのでしょうか。また妖精の王といえばオベロン(オーベロン)、女王といえばティターニア(タイターニア)というのも何となく当たり前に思っていましたが、なんとこの「夏の夜の夢」が初出だそうです(細かくいうと名前自体はそれ以前の作品から採ったが、妖精の王・女王としてはこれが初出だそうです)。もっと昔からある神話のようなものが元になっていると思っていたので、ちょっと驚きました。

またこの作品では劇中劇があり、それが道化的な位置になるのだと思います。他の作品では道化が出てくる場面でそんなに笑えなかったのですが、この作品では普通に面白くて笑ってしまいました。内容は書きませんので、ぜひ読んでみて下さい。

とにかく終始明るい雰囲気なので、読んでいてとても楽しかったです。定説では結婚式の余興の為に作られたそうですが、なるほど確かにこれは観ていて楽しいだろうなぁと思います。今まで読んだシェイクスピアの作品に私的な順位をつけるとすれば、「ハムレット」と並んで一番かもしれません。

「あらし」の感想

これまた面白かったです。まず設定が意外でした。舞台が無人島、主人公(?)は魔法が使える。「夏の夜の夢」ほど軽快に進んではいきませんが、わかりやすくて面白かったです。

この作品はロマンス劇に分類されるのですが、諸説分かれており、「last plays」なんて呼ばれたりもします。確かに悲劇とも喜劇とも言い難く、ロマンスというのも違うように思われます(完全に素人の意見です)。裏切りの要素もあり、しかしハッピーエンドらしき終わり方をしますが、悲劇や史劇のように裏切りに次ぐ裏切りのようにはなりませんし、ハッピーエンドも不和を残す形で終わります。解説では「この劇には、たしかにそれまでのシェイクスピアのすべてが投げ込まれている」と書かれています。確かになぁと思いながら、「last plays」か、と思います(そういえば書くタイミングを逃したのでここに書いておきますが、「The Tempest」はシェイクスピアの最後の作品です)。

内容について、これをどう考えていいのか正直まだわかりません。解説では小宇宙がどうのこうのと書かれていましたが、よくわかりませんでした。ただまあ面白かったので、ひとまず読んで良かったなと思います。

またこの作品を読んで一番気になったのは、劇になった時にどんな演出をするのだろうという事です。例えばこの作品の冒頭はタイトル通り嵐で始まります。現代であれば音響設備も充実しており、雷光の演出もまあできるだろうと思います。ただこれが書かれたのは日本でいう江戸時代です。私は歌舞伎などにあまり詳しくないのですが、この頃の技術での演出はどんな感じだったのか気になります(能は「船弁慶」なんかで海が荒れる場面があったと思います。これは音によって素晴らしく表現されていましたが、やはりちょっと演劇とは違うのだろうなと思います)。

おわりに

これらの作品を読んで、やっぱり劇で観たいなぁという気持ちが一層強まりました。「あらし」で魔法を使う場面や「夏の夜の夢」の劇中劇など、頭の中ではもう役者が動いているのですが、やっぱり実際に観てみたいと思います。また、「あらし」はその文章が美しいと解説に書かれていました。今は翻訳本で読んでいるので勿論わからないのですが、古文を読む事が多い者として原文の美しさというのは気になります。翻訳は翻訳で良い所があって面白いと思っているのですが、いつか原文でも読めるようになりたいなぁとも思います。

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