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【一級建築士製図試験】設計課題(用途)についての学び方-中

GW中の5月3日・4日、イチケンさん主催の #イチケンZOOM過去問勉強GW がありまして。
私も、4日の最後の1時間を頂いて、製図試験において、設計課題、特に「用途」についてどうやって学んだらいいか?というお題で、お話をしましたので、、中、の3回に分けてまとめておきます。この記事は「中」になります。

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上でⅠを、中でⅡとⅢの途中まで、下で残りを書いてます。
長くてスンマセンw

Ⅱ. 設計諸条件の整理と把握

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ここで話した内容は、↓ の資料をもとにいろいろと加筆してまとめました。がしかし、廃版になってる模様・・・涙

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「新・」の方のリンクはっておきますが、こちらも入荷時期不明と廃版危うし・・・

いずれにしても、
「設計」というものをするにあたって、諸条件を整理して把握するには、敷地・建物について大きく「外的条件」「内的条件」に分けて考えるといいよと。
製図試験も、試験とはいえその簡易版というか。
いやいや、実務の意匠設計とは全然違うし!とはよく言いますが、同じような考えでいける部分も多いですし、近年すごく実務に近づいてる感が強いので、条件を整理して把握する方法わかってたらコワイモノナシ、です。
(しかもそこまで難しいことでもないので、ぜひ)

1. 外的な条件

敷地と敷地をとりまく周辺の環境
  地域地区・近隣の把握、敷地形状、交通関係、法的規制、
  敷地の設備や地盤、周辺の自然環境

先に、「外的条件」ですけども。
見ておわかりのように、この内容は、試験当日初めて課題文に示されますので、7月の段階で予め知っておくべきことってありますかね・・・?
えぇ、取り立てて「ない」です。笑

強いて言えば、平成24年に出題された「(地域)図書館」というお題で10月までに予習できるのは・・・?法的規制くらいですかねぇ?
ココで言う法的規制は「外的条件」についてなので、いわゆる集団規定(=建築基準法第3章)について扱うわけですけども、図書館用途集団規定・・・

はい。
私が思いつくのは、法48条用途地域
図書館は建築基準法別表2(わ)欄6号工業専用地域では建てられない、だから敷地設定としては工業専用地域ってのでは絶対出題されない、くらい?ですかね?
さすがに、製図試験で、都市計画で建てられない地域という条件設定はないでしょうし、そんな余裕あるなら他のこと調べましょ、って感じですね。笑

話の脱線ついでですが、
図書館は、都市計画法でも開発許可は要らない(都市計画法29条第1項第3号)し、都市公園法でも都市公園の中に建てられる(都市公園法第2条第2項第6号、同施行令第5条5項1号)ので、ある意味保育所の次に無敵なんですよーだからナンだっつー話ですが、それだけ公共公益性の強い施設ということで。(オチなしw

結論、
「外的条件」については、課題の建物の用途に関係することで特別に必要な知識ってないに近いので、用途地域くらいは気にしておきましょう、くらいですね。
他の用途の建物とほぼ変わらないので、ここでは飛ばします。

2. 内的な条件

ようやく、話が具体的になってきます。

図書館独特の建物・空間の利用のされ方
  所要室の面積、各所要室の要求の整理など

そう。
この「内的条件」についてですけども。
どんな用途でも同じですが、「用途」独特の建物・空間の利用のされ方というのは、実はこれまで脈々と意匠設計の方たちが、日々あーだこーだしながら積み重ねてきたものがあるんですよね。
図書館の例で言えば・・・

・図書館の閲覧室は、読書や調べ物に集中できる静かな空間だといいな。
児童閲覧室は、子どもたちが育つ過程でいろんなことに興味が持てるように、低い書架にたくさん絵本並べたいね!
レファレンスコーナーは、貸出しカウンターと別に設けて、専門的に調べたいことについて、司書の方にじっくり話が聞けるにしたいよねー
閉架書庫は本が傷まないように、個別に温湿度管理しやすいところがいいよねー

こういった過去の建物の使われ方の経緯というか、試行錯誤を完全無視して、出された料理に「 #オレのスパイス (by K@dさん) 」を勝手に振りかけないでね、っていうことになります。こっちの方がいいよ!とか、この使い勝手の方がいいよ!とか、全然聞かれてないよと。

まぁ、設計というか空間構成のよしあしって、言ってみると、こうゆう「◯◯だと使いやすいよね」とか「その空間、ちょっと広めにしとくと混雑しなくていいよね」とか「ここまでは無料で入館できて、こっから先は出入り一ヶ所にして有料にしよう」っていう工夫・試行錯誤の積み重ねの結果なのかなと。

で、
その学ぶべき「内的条件」の具体的なものとは。
平成24年に当てはめて、下記まとめてみます。
課題が図書館でない場合は、令和元年美術館の分館なり、令和2年高齢者介護施設なり置き換えてくださいませ。

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1. 図書館の定義
2. 図書館を構成する空間の変遷
3. 人や図書の動き必要な単位空間・単位面積
4. 各空間の使われ方、頻度、各室同士の関連度合い
5.用途に沿った法規・構造・設備・省エネなど

2は学科の建築作品で、3も単位空間として出題される感じですかね?
コンパクト建築設計資料集成だと、P244、P255。「本棚の間隔はバリフリ考えてね!」は学科の計画でもやった記憶がおありかと思いますけど…?ないかな…笑
ただ、3の単位空間である閲覧机の大きさ・間隔とか、書架の寸法受付カウンターのデザイン・寸法とか・・・
学科では出題されないけど、もう少し込み入ったような内容も、設計製図の基礎知識として知ってないといけないので、ここは改めて製図用にもう一度基礎から勉強したいところです。

1、4は、学科でもそこまで突っ込んで出題はないと思うので、改めて製図用に学ぶ必要があると。

そして、5については・・・
図書館は特殊建築物であり、建築基準法別表1(い)欄(3)項で、単体規定で言うところの二方向避難、歩行距離・重複距離・・・とか、バリアフリー法の特別特定建築物だとか・・・略
その他、適した照明・空調、書架の荷重やセキュリティの考え方とかありますけど・・・
これはまた別な機会に。

「外的・内的条件」を整理把握しておきたいワケ

話を戻しまして。
では、なぜこういった「外的・内的条件」みたいなことを、ここでしっかりと学ぶ必要があるのか?ですけども。

・各条件を、交通整理し、秩序づける
・エスキス時の判断材料を増やす

これが全てです。
逆を言えば、この「外的・内的条件」をしっかり学んでしまえば、実は設計製図はそんなに難しくない、ということをお伝えしたく。

調べて行くとわかるとは思うのですが、
各条件は、それぞれに矛盾することもたくさん含んでいます。
図書館の例で言えば、
図書館の中で一番の花形空間である大人用開架閲覧児童用開架閲覧
いわゆる「大人と子どもの違い」です。これが、歴代の設計者を悩ませています。
少し長めですが、引用します。

(3)児童のためのコーナー
児童のためのコーナーは身体スケール、動作・行動パターン、館員の対応等が成人図書コーナーとは大きく異るため、成人コーナーとはエリアを分け、部屋の天井高さや家具構造も多少変えて独自の雰囲気づくりがほしい。
 やむなく開架閲覧室を2つに分けなければならない場合は、成人を中心としたコーナーと児童のコーナーを分けることは可能だが、子どもはやがて成長しヤングアダルトとして成人のコーナーへ自然に移行することを考慮し、成人と子どものコーナーを断絶的に区切ることは避ける。また子どもに付きそう大人もともに楽しめるような空間づくりを考えたい。
図書館 (建築計画・設計シリーズ) p24 より

どうでしょうか。
普段、ご近所さんの図書館行くとき、こうゆうこと気にしたことありますか?
そういえば、子ども用コーナーと大人の閲覧室って別々だよねー?程度でしょうか?
子どもたちは、突発的に声が出てしまったり、突発的に走り回りたくなるものなので!大人の本読むスペースとは分けておこうねーってことなんですけど、そうは言っても完全分離もねーっていう。

矛盾する条件と条件をどう調整するか?

これ、意匠設計の醍醐味であったりしますし、ぜひ、ご自分のご近所さんの図書館で、どうなっているか見てみてほしいです。
大人閲覧席と子ども閲覧席をワンルームでL型に配置してるとか(日野市中央図書館)、完全に分離している、ガラスで仕切っている、間に開架書架群があるとか・・・

もちろん、こういった条件同士の矛盾は試験でも悩みどころではあると思うんです。課題全体を見渡した時に、どの条件を優先させるかが見えてこない場合もあるでしょう。
ただ、少なくともこの「外的・内的条件」の基礎をきちんと理解して、自分の中で消化できていたら、ナニを手がかりにどうゆう形で優先すべきか?が自ずとわかるかと。さらには、試験当日課題文を読んだ時に、試験元が問う特殊条件、新たに付加された条件に対して、そう過敏にならずとも対応できるかなと。
もちろん、そうなるにはそれなりの訓練が必要ですけども!

だからこそ、「外的・内的条件」を自分で整理・把握しつつ、書籍を調べ、実例見学し、専門家にヒアリングし・・・
用途の王道配置、王道プランをまずじっくり学ぶ。そして図面に反映していく訓練を7月~10月の間にしていけたらと。
いわゆる、定形?定番?の部門配置や室の配置って、用途ごとにありますからね。
エスキス時、部門と部門、室と室を配置していくにあたって、こういった地に足のついた判断材料が大量にあることそれを事前にどれだけ自分のものとして準備できるか?が大事になってくると。

実務でだって、例えば普段住宅設計してるとして、100床以上の病院設計担当になりましたってなったら(ないけど)、そりゃどんな有名設計事務所の人だっていきなりは設計にとりかかれませんよ。汗
だからこそ、7月~10月の間に、建物の定番の使い勝手について調べて、理解して、試行錯誤しておきたい。
矛盾する条件同士を、どのように優先順位をつけたらいいか?から、どのように記述に書いたらいいか?までしっかりと訓練して備えたいのです。
10月の試験当日に、「図書館なるもの」はなんでも聞いてー!っていう状態になっていたら、本当にコワイモノナシなのです。
ぜひとも、なろうじゃありませんか。

イチケンさんと意見が一致したのは、そういった理由からでした。

7月の課題公表から10月にかけて、まずやるべきは、課題の使い勝手空間構成に関する基礎知識の収集ダヨネ!!!


Ⅲ. 地域図書館とは?

ようやく本題ですが。汗
具体的に、「平成24年の図書館課題」用途独特の特性、使い勝手、検討すべき条件を見ていきたいと思います。
平成24年の課題は、こちらにあるので、タイトルだけ引用します・・・
https://ssl.kenchikukouza.org/sumai20121220.html

地域図書館
段床形式の小ホールのある施設である。

1. 図書館の定義

まず、図書館法からです。

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そもそも「図書館」とはどんな施設?
てのが、法律の「定義」のとこにバチっと書いてあるんですけども。
知らなくないですか、こんな法律があるの(少なくとも私は知らなかった)。笑
管轄は文科省かと思いますが、建築基準法と同じ雰囲気で、国家資格である司書の方がいて、図書館ではこんなことをやって・・・みたいな法律のようです(全くもって無知なので、想像の域を超えませんw)。

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こうやって、具体的に定義が法律で決まっているような施設であれば、ぜひ課題発表になったら、すぐ調べて頂きたいのです。そんな課題、なかなかないかもしれないですが・・・
令和2年の例で言うと、「高齢者介護施設」という課題であれば、老人福祉法介護保険法ですかね。

そして、図書館法第3条第6号に下記の一文があります。

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はい。
平成24年の副題、「段床形式の小ホール」の片鱗が見えますね。
ここでわざわざ6号だけ改めて抜き出した理由とは、集会・展示・映像鑑賞などの機能が、最初から図書館の機能の中に含まれている、ということを認識してほしいからです。
単に、公民館とか地域センターに置かれる、一般的な会議室や展示ギャラリー的な地域交流とは、ちょーっと趣が違うんですよね。
教養、調査研究、レクリエーション等に資するための、集会・展示・生涯学習支援等の機能です。なので、場合によっては図書館の資料(書籍や映像等)が、館内を行ったり来たりする可能性もあるぞと。

ま、図書館と生涯学習施設が併設されていて、大きな吹抜けのあるエントランスホールでパッキリ左右に分かれる千葉市中央図書館・生涯学習センターコンパクト建築設計資料集成p250)みたいなところもありますし、たぶん行政内部でも図書館課?と生涯学習課?って別だと思うのですけど、法律的にはこういった集会・生涯学習支援機能は、一つの図書館施設の中にまるっと含まれると。

こんな感じで、「図書館」と言うからには、まずは法律から「図書館とは?」を理解していくとよいかと思います。
めんどくさいですけど。爆
ここは丁寧にいきましょう。

2. 図書館用途の変遷

法律の内容を把握したら、次にやるべきは「図書館の歴史」の把握。
これまでどんな図書館が建てられてきて、一級建築士的に重要とされているか?です。あくまで、一級建築士的に、です。

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これは、学科試験で出題された図書館を年代と特徴順に並べたものです。コンパクト建築設計資料集成を参考にしつつ、出版年の2005年前後からは私が重要と思う図書館を勝手に追加してます。

慶学サロンの法規トーーク!で、日野市中央図書館コンパクト建築設計資料集成p246)とそのほかの図書館について、どんな特徴の図書館なのか、ざっくり説明したのでよかったら。

・日野市中央図書館ができる前
 →ざっくり、書籍の保存と館内閲覧が主な仕事
日野市中央図書館 竣工
 →図書館行政改革が起こり、立ち寄りやすい、貸出し中心となる
朝霞市立図書館本館苅田町立図書館本館 竣工
 →社会的にも高度成長期で図書館が高機能化、集会機能も充実
仙台メディアパーク 竣工
 →インターネットが普及、情報の電子化、BDS(ブック・ディテク
  ション・システム:利用者の私物持込み可な機能)が普及するなど
  図書館も電子化・情報化の流れに
日比谷図書館武雄市図書館 改修、武蔵野プレイス 新築
 →民間事業者による運営、レファレンスの特化、図書館の集客施設化

日比谷図書館は、東京都中央図書館が新設されるのに合わせて東京都から日比谷区に所管が変わった際に、民間事業者の運営となり、千代田区としてレファレンスに特色を出し、博物館学習交流の機能を統合した取り組みが評価されています。もちろんカフェ付き。都内では、千代田区の図書館が他の区と比べて一番小規模らしいんですが(千代田図書館の司書さん談)、取り組みはかなり新鋭です。まだ、行ったことないので行かなきゃですね。

武雄市図書館は、通称ツタヤ図書館、もしくはスタバ併設の図書館、ですね。当時いろいろと物議を醸した図書館です(今もか?説明略)。
2000年に竣工、2012年に改修・民間事業者による運営に切替えなんですけど、コンパクト建築設計資料集成p249に竣工当時の図面が出てるので、参考にどうぞ。(こちらも残念ながら行ったことないので説明短めw

武蔵野プレイスは、東京都武蔵野市にあるJR中央線武蔵境駅のすぐ南側、公園をはさんで建てられた複合施設です。ここがすごいのは、市役所内の縦割り分担を廃止して、新しく武蔵野プレイス課?的なものをつくり、行政内部的にもかなり改革を起こした建物ということ。
それから、設計者kw+hg architectsの比嘉武彦さんのお話によると、敷地お隣にある商業施設のフードコートとの違いを相当意識されて設計されたとのことです。空間的には、図書館青少年育成生涯学習・市民活動支援の4つの機能が廊下のない9つの角丸スペースでつながっていて、角丸の白い空間に包まれる感覚も面白いし、あちこち吹抜けがあって気持ちがよく。
建物の中に入るとすぐにカフェその周辺に雑誌コーナーがあって、貸出し前の雑誌や書籍を持ってカフェに座ってゆっくりコーヒーを飲みながら読書ができるというのも、特筆すべき事項です。コロナ前は、開館前に座席とりのための行列ができるくらい大人気な施設になってました(現在は入館制限中)。
平成24年の課題と、この武蔵野プレイスの配置・要項を比べてみると発見があるかも、というか、接道の具合とか北側に公園があるという敷地設定はほぼ一緒です。

出題のあった平成24年時点で、民間事業者の運営が始まり図書館が営利目的に偏ることについて話題になっていたこと、電子化と「図書館の自由に関する宣言」の関係について社会的に問題視されていたこと、
それから、カフェ併設の図書館や再開発ビル内のテナント型の図書館が増えていたこと、ツタヤ図書館や茅野市図書館(駅舎施設に直結している)のような、言ってみれば集客施設化した図書館ができたこと・・・

さぁ、
こんな感じの社会情勢と図書館自体の変遷があってー
からの、一級建築士の能力を問う、設計製図課題としての「地域図書館」とは!?

「上」の記事で紹介した書籍は情報が古いので、近年の図書館、図書館建築を巡る動向をある程度知っておくためにも、最近建てられた実例については、どのような傾向があるか、新建築なり、なんらかの方法で図面を見ておいた方がいいよ、という話もしました。

「下」の記事、につづきます。

■本日のトップ画像

日野市中央図書館の、館内案内です。
玄関の階段の壁に貼ってありました。
「▲この図」ってとこです。フォントがかわいいw
この建物はdocomomoにも選定されてるんですが、竣工当時の写真が下に貼ってあったのに、写真にはいりきってないですね。汗

内部の室の配置、これ見てわかりますか?
閲覧室でなくて、「貸出室」っていうのが象徴的ですね。
そして、この建物の最大の特徴である、貸出室と子ども室がL字型に配置されているのがわかります。

閲覧席の大開口と吹抜け、欅の木陰がとても気持ちよい空間です。
機会があれば、ぜひJR中央線豊田駅へ!

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