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国内移行 v. バイパス出願

色々と書きたいネタはあるのですが、Law Schoolの予習・復習に追われてNoteが更新できていません。。。
まぁ、無理をしない程度に続けていこうと思います。

さて、今日は国際出願(PCT出願)をベースとしてアメリカに出願する際の2つのルートについてのお話です(PCT = Patent Cooperation Treaty「特許協力条約」) 。

通常、国際出願をした場合は「国内移行手続」という手続を経て各国で審査を受けていきます。アメリカで審査を受ける国際出願ベースの出願も、およそ8割程度はこのルートを通っているようです。私も、国内のお客様の出願をサポートさせていただいたときは、ほとんどがこのルートでした。

ただ、アメリカではもう一つ別のルートがあり、「バイパス出願」などと呼ばれています(正確には、Bypass continuation applicationなので、「バイパス継続出願」)。

このパイパス出願、実はアメリカにしかない制度(間違えていたらすいません)なので、馴染みのない方もいるかと思います。
そこで、今日は国内移行手続との違いを簡単にお伝えしたいと思います。

先ず、バイパス出願の国内移行手続に対する一番大きな違いは「翻訳文」の取扱いでしょう。
PCT出願を国内移行する場合、いわゆる「ミラー翻訳」が必要とされます。このため、このルートでアメリカに移行した場合は、一文、一文正確に英訳をすることが求められます。ただ、英語にはない日本語表現(例:コの字)を翻訳するときなど、翻訳家泣かせな制度といえます。
しかし、バイパス出願ではこの「ミラー翻訳」は求められません。それどころか、基礎出願(国際出願)時に書き漏らしてしまったことや、出願後に新たに生まれた変形例などを追加することも可能です。これは、バイパス出願が一部継続出願(Continuation-In-Part Application: CIP出願)の一種として取り扱われるためです(一部継続出願については、機会があれば別途ご紹介します)。

したがって、バイパス出願では翻訳を作成する際の自由度が格段に上がります。
このため、アメリカの代理人の中にはバイパス出願の使用を積極的に薦めてくるところもあります。ただ、そこまでしてバイパス出願を選択しても、結局は誤記の修正や形式・書式を整える、といった、補正で十分に対応できる程度の工夫しかされていないものも多く、わざわざ代理人費用を払ってまでバイパス出願をする意味はあったのだろうか、というものも少なくありません。
いろいろとご意見はあると思いますが、バイパス出願をするか否かは、①追加するべき事項(新たな実施例・変形例)がある、②基礎出願(国際出願)に不適切な記載があり、米国特許庁のデータベースに残したくない、③国際出願の記載が冗長で、記載を圧縮しないと翻訳費用が嵩んでしまう、というような事情があるかどうかで判断するのが良い気がします。

バイパス出願と国内移行出願との違いとしてもう一つ良くあげられるのが、「発明の単一性(Unity of invention)」の扱いが異なる、という点です。
国内移行出願の場合、その単一性はPCT(特許協力条約)で定められた基準に基づいて審査されます。 
一方、バイパス出願の場合はアメリカ国内の審査基準(independent and distinct analysis)に基づいて審査されます。
一般には、アメリカの基準の方が単一性の要件が厳しいと言えるため、バイパス出願の方が不利になるといえそうですが、あるデータ会社の情報によると、拒絶率の違いは僅か(slight)とのことなので、さほど気にする点ではないと思います。

一概にどちらが良い、とは言えないと思いますが、アメリカ出願のルートを考えるときの参考になれば幸いです。


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